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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第2章:美味しいご飯とモフモフを堪能する日々

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(10)奇跡の畑

翌朝、エルナが目を覚ますと、ポムがいなかった。


(あれ、ポムがいない。お腹がすいたのかしら?)


元気は回復していたが、昨日あんなことがあったばかりでちょっと心配だ。


キッチンにも小さな姿は見当たらず、外へ出る。


すると、その姿は小屋の前にあった。周りを囲む木々の一点を凝視して、何かを警戒しているように見えた。


(獣でもいるのかしら?)


今までこの森で危険な獣にあったことはないけれど、ポムは何か感じているのかもしれない。エルナは不安になって目を凝らしたが、何も見えなかった。


「ポム、そこに何かいるの?」


「キュウウ」


ポムは長い耳の垂れた頭をちょっと傾け、それから「なんでもない」と言うように首を振る。そのまま小屋の裏へと跳ねていく。


「ポム?どこへ行くの?」


ポムの向かった先は畑だった。エルナはそこで信じられない光景を目にして立ち止まる。


そこにはトマトやカボチャがたわわに実っていた。


トマトは赤く、美味しそうに熟れていて、カボチャは見たことがないほどに大きい。


(ウソ……昨日、種を植えたばかりなのに)


エルナは唖然として声も出ない。一緒に植えたサツマイモも、ツルが伸びて葉がワサワサと茂っていた。 きっと、土の中では立派な芋が育っているのだろう。


昨日の事といい、やはりポムは伝説の神獣なのだ。


「キュー!」


ポムが目を輝かせながらこちらを見た。「これで早く美味しい料理を作って」と言っているようだ。


「じゃあ、これで朝ご飯を作りましょうね」


エルナは朝食用にカボチャをひとつとトマトを数個収穫した。


嬉しそうに跳ね回るポムと一緒にキッチンへと戻り、作業台の上に並べる。まな板を出して大きなカボチャをその上にのせた。


「お、おっきいわね」

 

エルナはちょっと怯む。


八百屋で売っているものの倍くらいの大きさがありそうだ。ずっしりと重たくて、ここまで抱えて運んでくるのも大変だった。


こんなに大きいと、普通なら切るのが大変だろう。だが、エルナには魔法のナイフセットがある。


巨大カボチャに一番大きいシェフナイフをあてると、難なく二つに切れた。まるでケーキを切るように力がいらない。


「これがあって、本当に助かるわ」


エルナは朝食で食べる分だけを小さめの角切りにする。これを柔らかく煮て、仕上げにバターとヒールシャワーで味付けすればいい。


「トマトはこのまま食べても美味しそう!」


赤くツヤツヤとして、丸のままかぶりつきたくなるようなトマト。これは食べやすい大きさに切って塩を振り、オリーブオイルをひと垂しすることにした。


「ご飯も温めなおしましょうね」


カボチャが煮えると、エルナは昨夜炊いたご飯を皿に盛り、水を少し入れた鍋の底に置く。蓋をして三分ほど火にかければ、冷やご飯をふっくらと温め直すことができるのだ。


「きゅ、きゅ、きゅうう~、きゅきゅっきゅ~」


できた朝ご飯をテーブルに並べていると、ポムが鼻歌でも歌うように鳴きながら椅子に飛び乗る。ずいぶんとご機嫌だ。


だが、その手元を見て、エルナは驚きの声をあげる。


「え!フォークを使うの?」


どうやら、先ほどカボチャの種を取るために使ったフォークを持ってきたらしい。


ポムはフォークで上手にカボチャの煮物を突き刺すと、それを口へと運ぶ。その体が満足そうに光った。


「すごい!上手だね」


「キュ!」


ポムは当たり前だという顔をした。


(もしかしたら、以前にも人と暮らしたことがあるのかも)


自分といるうちに、徐々に思い出しているのだろう。なんとなく、そんな気がした。これからはポムの分もカトラリーを用意してあげようと、エルナは思った。


「それにしても美味しいわ!」


「キュー!」


エルナが叫ぶと、ポムも同意したように声を上げる。カボチャもトマトも信じられないぐらい甘くて美味しい。


カボチャはホクホクとして、栗でも食べているかのような甘味がある。バターの風味と塩味がそれをいっそう引き立てていた。


トマトは甘味と酸味のバランスが絶妙で、噛むと口のなかで果汁があふれ出す。まるでもぎたての果物を食べているようだ。


ひと垂らししたオリーブオイルが、トマトの酸味と調和して、味に奥行きを与えていた。


エルナとポムは、畑の恵みを心ゆくまで堪能した。



朝食が終わると、エルナは使った食器を洗うために井戸端に持って行く。バケツに水を入れると、ポムがのぞき込んできた。


「えい!えい!」


その顔めがけて、エルナは指で水を弾いた。ポムはキュウキュウ言いながら逃げ回る。


「あははは!」


エルナは子供のように声をあげて笑った。ポムがいると、何をしていても楽しい。


(あら、なんだか手が綺麗になってる?)


自分の手元を見て、エルナは気づいた。そういえば、今日は肌の調子がすごくいい。髪もいつもよりサラサラでツヤツヤだ。


(これって温泉のせいかしら?)


当然ながら、エルナは化粧品なんかもっていない。昨夜は髪も体も、市場で買った安物の石鹸で洗っただけだ。


なのに、いつもより調子が良いのだから、これは温泉の効果と言えるだろう。


(これもポムの力のなのね)


温泉には美肌に良いものもあるが、こんなに劇的には効かない。植物にしろ、土にしろ、温泉にしろ、ポムが関わったものには、普通以上の力が備わるのだろう。


物語によれば、神獣は人々が干ばつで困っている時に、大地から泉を湧かせたという。


今でも国の各地に、神獣が湧かせたという伝説が残る泉が存在しているのだ。温泉も泉も、ポムにとっては大差はないのかもしれない。


エルナは改めてポムを見た。


「キュウ?」


ポムも「なあに?」というように、黒い瞳を向けてくる。


(絵本で見たのとは、全然違うわ)


白いふわふわの毛に覆われた小さな姿からは、愛らしさしか感じられない。


だけど、一般的な絵本や絵画に描かれている神獣グラニーの姿は、狼のように大きくて凛々しいのだ。


(それに、食いしん坊でもないよね)


神獣が食いしん坊だったなんて話しは、聞いたことがない。


きっと年月が経つうちに、人々が思う理想の姿になってしまったのだろう。


カボチャを口いっぱいに頬張っていた姿を思い出し、エルナはクスクスと笑った。

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