表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第2章:美味しいご飯とモフモフを堪能する日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/27

(5)美味しいご飯の条件

数時間後、エルナはようやく目を覚ました。日はとっくに落ちてしまったらしく、小屋の中は薄暗い。


「嫌だ、寝過ぎちゃったわ!」


「キュ?キュウ!?」


エルナが突然起き上がったので、そばで寝ていたポムも驚いて飛び起きる。


後ろ足で立ち上がって、キョロキョロする姿がなんとも可笑しい。


「ごめん、ごめん!寝過ごして失敗したと思っただけ」


「キュウウ!」


笑いながら謝るエルナに、ポムは「ビックリしたよ!」という風に鳴いた。


考えてみれば、ひとりと一匹の気楽な暮らしなのだから、少しはのんびりしたっていいはずだ。屋敷でこき使われていた頃の習性が、まだ抜けていないようだ。


(あれ?そう言えば、何か忘れているような……)


心のどこかで、何かが引っかかっている。気になっていることがあるはずだ。


(まあ、いいか。大事なことならそのうち思い出すよね)


しばらく考えても思い出せないので、エルナはそれを心の隅に追いやった。


「今夜はご馳走を作るからね」


ベッドを軽く整えると、エルナはそう言ってキッチンに立ち、まずは米を洗った。


ポムが嬉しそうに後を追ってきて、作業台へと飛び乗る。エルナが米を研ぐ様子を興味津々に見つめている。


エルナの母は、新しい食材に好奇心を持って挑戦する人だったので、米の美味しい食べ方もいろいろ研究していた。


米はいろいろな食べ方ができるうえに腹持ちが良い。エルナは子供のころから大好きだった。


鍋に米を移して水加減を調整すると、肉を切るためにシェフナイフを取り出す。


そのほうが安くなるので、ブロックの肉を買ってきたのだ。エルナはナイフを握りしめて肉を見つめる。


ナイフを入れるべき場所に、スーッと魔法の細い線が見えた。


(うん、ここね)


脂身などの余分な部分を切り落とし、二枚のステーキを切り出す。


切り落とした部分は、スープにすれば美味しく食べられる。そっちはサツマイモの葉やキノコと一緒に煮て、明日の朝ご飯にすることにした。


(筋も切らないと)


切ったステーキ肉に目を凝らすと、今度は赤身と脂身の間に魔法の線が見えた。


エルナは包丁の先を使って、線の通りに筋を切っていく。こうすると焼いた肉が固くならないのだ。


この魔法のナイフのおかげで、いつでも最適に無駄なく食材を切ることができる。


続いて、ペティナイフでキノコを切る。


プルンとした独特の感触のある黒真珠を切ると、ナッツのような香りがほのかに香った。


ポムもピンク色の鼻をヒクヒクと動かしている。


「さて、これはどう使うのがいいかしら?」


エルナは米を買った店でもらった「ショーユー」の瓶を取り出した。 スプーンにちょっと出して舐めてみる。


(しょっぱい!)


でも、ほのかに大豆の良い風味がした。


「意外とバターと相性が良さそうだわ。バターとこれでステーキソースにしてみましょうか」


「キュウ!」


ポムが「賛成」とばかりに片手を上げる。その愛らしさに、自然と笑みがこぼれた。


「でもその前にご飯を炊かないとね」


この小屋には、かまどが一つしかないので不便だ。


小屋の前には焚き火ができるスペースがあるので、焚き火と併用するのがいいかもしれない。


エルナはかまどに火を入れ、まずはご飯を炊いた。


米は吹きこぼれたり焦げたりするので、火加減が難しい。


エルナが火の前でしゃがみ込んで苦戦していると、ポムがぴょんと降りてきて隣に並ぶ。


そして何を思ったのか、エプロンの大きな前ポケットにもぐり込んできた。


「え?何してるの?」


「キュウ」


ポムはエルナを見上げて答えたが、何を言っているのか分からない。


カンガルーの赤ちゃんみたいに、ポケットから顔だけぴょこんと出している。


(もしかしたら、リュックの中が気に入ったのかも)


猫だって狭いところが好きではないか。


そう思ったエルナは、そのままにしておくことにした。ポムは小さいので、たいして重いわけでもない。


「さて、そろそろいいかしら」


鍋をかまどから外して余熱で蒸らす間、フライパンを火にかけた。まずオリーブオイルを薄くひき、ステーキ肉を入れる。


ジュウウウウ!!


軽快な音とともに、肉の焼けるいい香りが漂った。


充分に火が通ると、エルナは肉を皿へと移す。


次にキノコを入れ、塩とヒールシャワーを振りかけて、食感が残るようにサッと炒めた。フライパンに残った肉汁を、キノコがたっぷりと吸い込む。


「最後はソースね」


キノコも皿にあけると、エルナはフライパンへバターを投入した。バターが茶色くなるまで焦げたところに、鍋肌からショーユーを回し入れた。


周囲に何とも言えない香ばしい香りが広がった。バターの香りと相まって食欲をそそられる。


「キュ、キュゥウウウウ!」


お腹のポケットのポムも、たまらないというように鳴き声をあげた。見れば口の端からよだれが垂れている。


エルナは思わず吹き出した。


「ポムったら、食いしん坊ね」


エプロンの端を使って、よだれをそっと拭いてやる。


「ご飯もちょうど蒸れたわ」


鍋のふたを開けると、モワッと湯気があがった。


エルナはヘラを使ってご飯をかき混ぜると、皿へとよそった。少々おこげが多めだが、けっこう上手く炊けたのではないだろうか。


そのご飯の上に、食べやすくカットしたステーキとプリプリのキノコを並べる。上からバターとショーユーを使ったソースをかけると完成だ。


香ばしいソースが、肉とキノコを通過してご飯にしみこんでいく。


こうしてご飯に食材を乗せるやり方は、以前に母と試したことがあった。ご飯にソースや食材の旨みが絡むと、とても美味しいのだ。


「 お待たせ、ポム」


「キュウウウウウ!!」


エルナがテーブルに皿を置くと、ポムはポケットから飛び出してテーブルのうえに飛び乗った。


そのまま皿に顔を突っ込んで、ムシャムシャと食べ始める。


その体からは、すぐに金色の光が発せられた。


「ゆ、ゆっくり食べてね」


エルナも食卓に着くと、まずは黒真珠とご飯をスプーンですくって口に入れた。


口に入れた瞬間、黒真珠独特のナッツの香りが口のなかで弾ける。


ブリンブリンの食感に続いて、とろけるような旨みが舌のうえに広がった。


「んんっ!」


名残惜しいと思いながら飲み下すと、今度はステーキののった部分を頬張った。


魔法のナイフを使って処理された肉はどこを噛んでも柔らかく、肉汁があふれてくる。


ショーユーの香ばしさが、野性味あるイノシシの肉の旨みを引き立てていた。


「美味しい!」


「キュー!」


エルナが思わず叫ぶと、顔をご飯粒だらけにしたポムは応えるように鳴いた。


「ふふっ、美味しいね」


熱心に食べ続けるポムに、エルナはそう声をかけた。一人ではなく、誰かと分け合って食べるご飯の美味しさは格別だ。


(私は、ずっと淋しかったんだわ)


何年も押し殺してきた自分の感情に、彼女はようやく気づいた。


ジャネットたちが屋敷にやってきてから、エルナはずっと一人でご飯を食べていた。


食事の粗末さよりも何よりも、独りで食事することの味けなさの方が辛く、悲しかったのだ。


「キュ、キュゥウウウウ!?」


ポムの鳴き声が間近に聞こえたと思うと、ふわふわと温かいものが顔に触れる。


ポムが膝の上に乗って背を伸ばし、ナプキンで頬の涙を拭こうとしていた。


どうやら自分でも気が付かないうちに、泣いていたらしい。


「キュ、キュッ?キュウ!!」


ポムは必死な様子でエルナを見あげてくる。まるで「どうして泣いているの?泣かないで!」と言っているようだ。


「ごめんねポム、大丈夫よ。あんまりご飯が美味しいから、嬉し涙が出ちゃっただけなの」


目元を指先で拭って、エルナは微笑んだ。


「キュー!」


エルナの言葉が通じたのか、ポムは「そうだよね」と言うようにコクコクとうなずく。


「ポム!」


その愛らしい仕草に、エルナは思わずもふもふの体を抱きしめる。


ポムの体は温かく、フワフワの体からはお日様の匂いがした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ