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追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第2章:美味しいご飯とモフモフを堪能する日々

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(4)米を手に入れる

(そうは言っても、今後のことを考えたらあまり無駄遣いはできないわね)


エルナは考えながら市場の中の店を回り、バターやチーズ、卵、砂糖といった料理に欠かせない材料を購入する。


(あっ、ポムが喜びそう!)


雑貨を売っている店で見つけたあるものも、ポムのために買った。


(あとはお肉ね)


市場に肉屋は一軒だけのようだ。


「らっしゃい!」


エルナが肉を見ていると、筋肉モリモリでコワモテの店主が声をかけてくる。顔もヒゲで覆われていて、ちょっと怖い。


「い、イノシシのお肉を下さい」


店主の見た目にちょっと怯んだが、エルナは勇気を出して言った。イノシシは安く手に入るうえに豚肉よりも栄養価が高いので、このあたりでは庶民がよく食べるのだ。


「それと、このクロケットを二つ」


エルナは、大皿に山のように盛られている揚げ物を指した。


クロケットは、炒めたひき肉などをマッシュポテトと混ぜ、パン粉をつけて揚げたもの。肉屋でよく売っている、定番のお惣菜だ。


家で作ったものしか食べたことがないので、こういった店のものも食べてみたいと思ったのだ。


「はいよ~!」


だみ声で答えた店主は、太い指で器用に品物を包んでいく。


「おまけにベーコンの切れ端も少し入れといたからね」


「わあ、ありがとうございます!」


エルナは包みを受け取って、礼を言った。ベーコンは保存がきくし、塩気と旨みがあるので、スープに少し入れるだけでも美味しくなる。


肉屋を後にしたエルナは、最後に行こうと思っていた店へと向かう。その途中、野菜の種を売っている店を見つけて足を止めた。


(自分で育てたら、少しは生活の足しになるかもしれないわ)


せっかく畑があるのだからと、試しにトマトとカボチャの種を買うことにした。


「いらっしゃいませー!」


目的の穀物を売る店に入ると、若い男性の店主が元気よく声をかけてくれた。


「あの、お米はありますか?」


「はいはい、ございますよ!」


米は十年ほど前から南部の方で作られるようになったのだが、あまり普及していないせいか、小麦よりも安く手に入る。


だが、調理方法を覚えればパンを焼くより簡単だし、保存もきくので使いやすい。


「お嬢さんひとりで持てますか?」


「ええ、大丈夫です」


ずっしりと重い米の袋を手渡すとき、店主は心配そうに聞いた。でも、イグニッションで身体能力を強化している今のエルナには、これくらいへっちゃらだ。


ここを最後にしたのは、米が一番かさばるからだ。


「娘さん、おまけにこれもどうぞ」


店主が瓶に入った黒い液体をくれる。


「これは何ですか?」


見たことがないが、調味料だろうか?


「ショーユーとか言う異国の調味料です。米と相性が良いって聞いたからちょっと仕入れてみたんですが、売れ残っちゃいましてねぇ」


困ったように頭をかきながら、店主は続ける。


「大豆を原料にしているそうで、肉でも魚でも野菜でも、なんにでも合いますよ」


「そうなんですね、ありがとうございます!」


エルナはそう礼を言って、心からの笑顔を返した。


市場で買い物するなんて初めは怖かったけれど、みんなとても親切で優しい。


怒られたり嫌味を言われるのではなく、こんな風に当たり前の会話ができることが何よりも嬉しかった。


ひと通りの買い物を終えた後、エルナは人気のない路地へ入ってリュックをおろす。なかのポムを確認すると、丸まって気持ちよさそうに寝ていたので安心した。


彼女はリュックを背負い直すと、森を目指して歩きはじめた。イグニッションの効果が切れてきたらしく、ちょっとだけ足が重くなる。


でも、心は軽かった。


(今夜は美味しいものを作ってあげよう!)


エルナの顔には自然と笑みが浮かんでいた。



「はぁ、さすがに疲れたわ」


また一時間近くの道のりを歩いてようやく小屋に戻ると、エルナはキッチンの椅子に座り込み、体を背もたれに預ける。


「きゅぅうううう」


リュックから出たポムは、つぶらな瞳をうるうるさせてこちらを見てくる。


きっとお腹がすいたのだろう。時刻はもう、昼食の時間をとうに回っている。


急遽、市場に行くことになってしまったので、遅くなってしまった。


「ゴメンね、お腹が空いたよね」


エルナは重い腰を上げると、朝食の残りのサツマイモの蜂蜜煮をポムと分ける。ヒールシャワーが入っているので、イグニッションで無理をした反動も緩和できるだろう。


そして、皿に先ほど肉屋で買ったクロケットをのせ、ポムの前に置く。


「キュウ?」


ポムは不思議そうな顔でクロケットを眺めると、鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。


「キュゥウウ~」


しばらくクンクン嗅いだあと、ポムが首を横に振った。


「え?食べないの?」


エルナは目を丸くする。何でも食べる食いしん坊のポムが、食べ物を拒否するなんて。


(何か体に良くないものでも入っているのかしら?)


まさか毒は入ってないだろうが、店によっては傷んだ野菜などを使っていると聞いたことがある。自分の皿のクロケットをよく観察するが、美味しそうな匂いしかしない。


「キュウ!」


こちらを呼ぶように鳴くので見れば、ポムは前足の片方をクロケットの上で振っていた。


「ええっと、もしかしてヒールシャワーをかけて欲しいの?」


「キュゥウウ!」


エルナが聞くと、「そうそう!」というように答えた。ヒールシャワーをとってきて少し振りかけてやると、今度は躊躇なく食いついた。


(ポムは秘伝のスパイスが好きなのね)


エルナの魔力が入っているのが分かるのだろう。ポムの魔力と似ているから、心地良いのかもしれない。


エルナはそう納得して、自分もクロケットを一口かじった。


持って帰るあいだに冷めてしまっていたが、キツネ色に揚がった衣はまだサクサクだ。


ゴロッとした食感が残るように、荒めにマッシュしたジャガイモ。濃い目に味をつけたひき肉がたっぷり混ざっていて、なんとも食べ応えがある一品だった。


「キュウ!」


ポムはあっと言う間にクロケットを食べ終えると、満足そうにひと声鳴いた。すぐにまた、サツマイモの蜂蜜煮の皿に顔を突っ込む。


お昼はお芋ばかりになってしまったけど、仕方がない。夜は肉で美味しいものを作ってあげることにしよう。



「ポム、おいで」


食事が終わると、エルナはポムを呼んだ。その手にはブラシが握られている。雑貨屋でみつけた猫用のブラシだ。


「もっと、可愛くしてあげるね」


近寄ってきたポムを膝のうえに抱き上げると、エルナはポムの白い毛に優しくブラシをかけはじめた。


「きゅ、きゅぅううう~」


ポムは気持ちいいようで、目を細めておとなしくしている。ブラッシングするたび、白い毛に艶が増していく。


ポムを乗せた膝が温かい。ふんわりした毛を触っていると、エルナもほっこり癒されてくる。


クゥクゥ……。


頭から尻尾まで、全てがふんわりフワフワに仕上がるころには、ポムは気持ちよさそうに寝息を立てていた。


(ああ、私も眠くなっちゃった)


エルナは夕方まで昼寝をすることにした。


ポムを抱いてベッドへ行き、一緒に横たわる。


ふわふわのもふもふを胸に抱きしめながら、目を閉じた。やはり疲れていたのだろう、引き込まれるように眠りに落ちていく。


カサッ……カサッ……。


眠りの底に沈んでいく直前、エルナは微かな音を聞いた。土のうえの枯葉を、誰かが踏んでいるような音だ。


(小屋の周りに誰かいる……?)


だが、その瞼が開くことはなく、心に浮かんだ小さな不安は意識と共に消えてしまった。


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