表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された台所係の不遇令嬢、森で拾った食いしん坊のモフモフにご飯を作っていたら、なぜか冷徹王子に求婚されてしまう  作者: めっちゃ犬
第2章:美味しいご飯とモフモフを堪能する日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/23

(3)初めての市場

キノコでいっぱいになったカゴを抱えて小屋へ帰ると、エルナは採れた黒真珠を半分だけ袋に移した。


希少なキノコなので、あまりたくさん持って行くと不審がられると思ったからだ。さっそく市場へ売りに行こうというのである。


「 ポムはどうしよう?」


床の上にちょこんと座っているポムを見下ろしてつぶやく。


市場に連れて行けば目立つだろうし、かといってここに置いていくのも心配だ。エルナはしばらく考えた後、思いついて自分のリュックを持ってくる。


「ポム、ここに入れる?」


「キュイ!」


リュックの口を広げて聞くと、ポムは何の躊躇もなくそこに飛び込んだ。しばらくごそごそ動いてコロンと丸まる。いい感じにおさまる体勢を見つけたようだ。


「町に着いたら、顔を出しちゃだめよ」


ポムにそう言い聞かせると、エルナはカップの水にイグニッションのスパイスを一振りし、一息に飲み干した。


「うわ、辛っ!」


急いで追加の水をカップに注ぎ、口に残る辛味とともに胃に流し込んだ。


少々雑だが、手っ取り早くイグニッションを摂るにはこれが一番いいのだ。屋敷でジャネットにこき使われるうちに考えついたやり方である。


そしてエルナはリュックを背負い、黒真珠を入れた袋を手に持って市場へと向かった。


ブルック伯爵領は国内でも特に穀物がよく育つところで、王都の食糧の供給地として栄えている。町の所々に小さな市場がいくつもあり、その周囲には店舗が集まって賑わっていた。


しかし、貴族令嬢であるエルナは市場で買い物をしたことがない。貴族の家では通常、出入りの商人が注文に応じて品物を持ってくるからだ。


(昔、お母さまと一緒に見学した市場に行ってみよう)


様々な経験を積ませるため、母はエルナを連れて何度か市場を訪れていた。恐らくあそこが一番近いだろう。


「さあ、頑張って歩くわよ」


エルナは気合を入れ、リュックを背負って歩き出した。


ひとりで市場に向かうという初めての経験に、彼女は少し緊張していた。


だが、背中に感じるポムの温もりが、気持ちを落ち着かせてくれる。まるで「大丈夫だよ」と励ましてくれているようだ。


森を出て、市街地へ続く街道に出る。


初めのうちは平屋の民家がポツポツと見えていた街道は、歩くうちにだんだんと店舗が多くなってきた。建物も、二階建てや三階建てが多くなる。


昔の記憶を頼りに、にぎやかな方へと進んでいくと、やがて大きな広場が目前に見えてきた。


目指す市場に着いたのだ。一番近いとはいえ、ここまで一時間もかかってしまった。


(ふう、やっぱりイグニッションで体力強化しておいてよかったわ)


でなければ、途中でバテてしまったに違いない。


エルナは様子をみるために、市場をぐるっと見て回ることにした。


広場には、数々の露店がところ狭しと並んでいる。赤、青、緑と、市場を華やかに彩るのは、それぞれの店が日よけのために広げた屋根代わりの布だ。


店頭に並ぶのは、色とりどりの野菜や菓子、服、雑貨、アクセサリーなど、ここへ来れば何でも揃いそうだ。


エルナは圧倒されながら、その間の通路を進む。


「へい、らっしゃーい!」


「安いよ!安いよ!」


「お客さん、質の良さではうちが一番ですよ」


たくさんの人が行き交い、客引きや商談する人々の声があちらこちらから聞こえていた。辺りにはパンを焼く香りが漂い、向こうからは肉を焼く屋台の香ばしい煙が流れてくる。


長いあいだ屋敷に引きこもっていたエルナには、何もかもが新鮮だ。


だが、背中のポムがモゾモゾ動き出したのを感じて、彼女は少し焦る。匂いや音に反応したのかもしれない。


「ポム、お利口にしていて」


エルナは小声で話しかけた。


赤ん坊にするように、背中に手を回して、リュックの底をポンポンする。しばらくそうしていると、ポムはまた静かになった。


(キノコを売るなら、野菜を扱っている店よね)


エルナはホッとして、本来の目的へと意識を向けた。


(あの店が良さそう!)


エルナは何度も行ったり来たりして、40歳前後の女将が仕切る店に目をつけた。


屋根になっている布は、可愛らしい赤と白のストライプ。店に並ぶ野菜はどれも新鮮で、質の良い物が並んでいる。


女将は商家の女性らしいがっしりとした体格で、ニコニコしていて人が好さそうだ。


「あの、すみません」


エルナは何度か迷ったあと、ようやく勇気を出して女将に話しかけた。


「はい、いらっしゃい」


女将はエルナを見て、「あら?」と首をかしげた。


平民にしては、品の良い整った顔立ちをしている。 髪もハニーブロンドで貴族の娘のようにしか見えなかったが、それにしては着ているものが少々くたびれていた。


そもそもご令嬢が、こんなところに買い物に来るはずがない。


「あの、キノコを買っていただけないかと思いまして」


エルナは黒真珠を入れた袋をおずおずと差し出しながら言った。


「では見せていただきますね」


相手がきちんとした言葉で話しかけてきたので、女将も丁寧に答えた。


だが、娘が差し出した袋の中身を見て、目を丸くする。今年は不作の黒真珠が、それも粒ぞろいの品ばかりが、たくさん入っていたのだ。


「こんなにたくさんかい!?」


女将は思わず普段の言葉遣いに戻って言った。


相手の驚いた顔を見てエルナは焦る。これでも半分にしたのだが、今年はそんなに不作なのだろうか?


「え?ええ、あの」


「こんなにたくさん、どこで取って来たんだ?」とか聞かれたら困る。どう答えたら良いのだろうと思って、エルナはうろたえた。


その顔を女将はジッと見つめる。


そして安心させるように、エルナに微笑みかけた。


「よろしゅうございますよ。うちで全部買い取らせていただきます」


気品のある容姿といい、この娘さんには何か事情があるのだろうと察したのだ。


「あ、ありがとうございます!」


エルナもほっとして笑顔を返す。


そして、代金として手渡された銀貨に、今度はエルナが目を丸くした。手のひらに乗った銀貨は三枚あった。


使用人も含めた伯爵家の一日あたりの食費は銀貨一枚の予算だ。それで庶民なら一週間は食べられると聞いたことがあるから、かなりの額だと言える。


「今年はキノコが不作なんですよ。黒真珠以外のキノコでも、採れたらうちで買い取らせていただきますんで、またお願いしますね」


「はい、ありがとうございます!」


エルナは丁寧に頭を下げると、店を後にした。


(やった!これならお肉だって買えるわ!)


ポムに美味しいものを食べさせてあげられる。


生まれて初めて自分でお金を稼いだ高揚感に頬を赤くしながら、エルナは何を買って帰ろうかと思いを巡らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ