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8-4:水泳

 残念なお報せ。

 料理スキル、無かった。

 いや、食材系のアイテムに表示されるテキストから判るように料理スキル自体はある……あったのである。一般公開されているノーマルの『エクスプローラーズ』でなら釣った魚を自分で料理して美味い焼き魚などを食せるのだ。

 が、俺がプレイしているのは特殊仕様が追加された実験用バージョン。


「料理スキル? そんなのあったら食費を調整している意味がなくなるじゃないか」


 何気なく話を振ってみた時の豊さんの反応がこれ。


 ……まあ、そうだよなぁ。

 実験用バージョンには食費に対するレベル補正が導入されている。プレイヤー全体のレベル平均と、個人はその平均よりも上か下か。食費はそうした条件で変動し、しかし基本的には右肩上がりに値上がりし続ける。

 また、階層ごとに設定されている適正レベルを超えているとドロップ率が下がる補正もあり、常にそれなりに手強い敵と戦わなければ十分な通貨を稼げない仕組みになっていた。

 これはプレイヤーの引き籠り化を防いで活動量を確保するために施された措置だ。三食美味い飯を食いたければちゃんと戦えということ。ここに料理スキルが存在したらどうなるか。極端な話、低層階の採取ポイントでちょろっと食材アイテムを確保すれば事足りるようになってしまう。食費調整が全く意味を為さなくなる訳だ。

 そう言われてしまえば運営側が料理スキルを封印するのは当然かとも思う。


 *********************************


 第三十一階層の外縁近くにある岩場にやって来た。

 近くの海面に釣りポイントを示すマーカーが点灯しているのだが、今回は釣りをしに来たのではない。目的は目の前の海に浮かぶ一つの島影だ。


 俺はこれまでエクスプローラーズを余すところなく楽しむ為にマップの隅から隅まで行ける所には全て行くようにしてきた。自動更新されるマップ画面を塗り潰した時、何とも言えない満足感がある。コンプリート厨の素養があるのかも知れない。

 当然この第三十一階層でも全踏破するまで次に進まない所存であったのだが、どうしても残り一割程が埋まらない。その埋まらない部分にあるのがあの島なのだ。


 岩場の先はすぐに深い海になっていて島間の通路となる浅瀬は無い。

 歩いては行けない場所だ。

 ならばどうするか?

 泳ぐしかない。


 噴流貝の攻撃で海に落とされて溺死した際に『水泳』と『潜水』のスキルを獲得している。こういうスキルがあるからには泳がなくては行けない場所があってもおかしくない。あの島に渡る方法は“泳ぐ”が正解だと確信できた。

 が、いきなりは無理だろう。『水泳』と『潜水』のレベルが足りず、島に着くまえに力尽きてしまいそうだ。暫くはここでスキルのレベル上げをするとしよう。


 さっそく海に飛び込む。いきなり岸から離れるのは危険なのでその場で立ち泳ぎを始めた。戦国時代には甲冑を着たまま泳ぐ泳法があったそうだが、俺はそんなものやったことがない。それでも『水泳』スキルのアシストがあれば泳げてしまうのだから凄い。

 凄さと引き換えにスタミナがガンガン減っていく。

 スタミナ枯渇に伴う一定時間行動不能のペナルティはここだと死に直結してしまうので余裕を残して泳ぐのを止める。すると当たり前に海中へと没していき、ここからは『潜水』の出番だ。『潜水』はレベルに応じた時間だけ無呼吸で水中に留まれる。海底にじっと立ってスタミナを回復させ、今度は無呼吸が苦しくなり始めたところで海面へと泳ぎ出る。


「ぷはぁ! はぁ……はぁ……」


 息を整えている間にもスタミナが減っていき、再び海中へ。スタミナ回復を待って海上へ。これの繰り返しで『水泳』と『潜水』のレベルアップを狙うのだ。レベルが上がれば、『水泳』なら上手に速く泳げるようになるだけでなくスタミナ減少が軽減されるようになり、『潜水』なら水中に滞在できる時間が伸びていく。組み合わせて島に行けるくらいのレベルまで上げたい。


 しかし……これはキツイ。


 二つのスキルを平行してレベル上げする方法として効率は良いと思うのだが、とにかく疲れる。海底ででもじっとしてさえいれば回復するスタミナと違い、特殊仕様で再現される疲労は積み重なるばかり。“客観視”で遠ざけていてもじわじわと精神を削ってくる。

 大盾術修業中の真理恵さんはこれすら快感に変えて何時間も型を繰り返していたというのだから……変態侮りがたし。羨ましくはないけどな。


 変態ではない俺は適度に休憩しよう。

 岩場に這い上がろうと手を伸ばした先に、興味津々な顔で俺を見ているビキニアーマー姿の真理恵さんがいた。


「……どうぞ」

「こりゃどうも」


 差し伸べられた手を取ったら軽々と引っ張り上げてくれた。フル装備した成人男性の重さをものともしない高STR、さすがである。そしてさすが真理恵さん、ビキニアーマー姿がとっても素敵。浜辺の集落で見た女性も素晴らしかったけれど真理恵さんはもっと凄い。青鎌蟹の甲殻製らしきビキニは彼女のおっぱいを覆い切れておらず、谷間も下乳もバッチリだ。すべすべしてそうなお腹も眩しい。


「そんな病的な目で凝視しながらハアハアと息を荒らげられてはまるで視姦されているようではないですか」

「息が荒いのは疲れてるからだよ」

「……そんなになるまで、先ほどのあれはいったい?」

「スキルのレベル上げ」


 『水泳』と『潜水』のスキルレベルを上げたいという目的と、その為に何をしていたのかという手段を告げる。


「そうだったのですか。てっきり新手のセルフ窒息プレイなのかと」

「窒息プレイて……」

「重い鎧にすれば私にもできそうですね。今度試してみましょう」

「わざわざ試すようなことじゃないと思うけど……って、え? 重い鎧なら? その言い方だと軽い鎧ならこうはならない?」

「え? ええ、水着なら普通に泳げますし、鎧着用でもこれくらい軽量にしてあれば」

「マジか……ちょっと試してみる」


 装備を全部インベントリにしまって海に飛び込み泳いでみれば、スタミナゲージの減少は随分と緩やかだ。マラソンしている時とだいたい同じくらいだろう。


「なるほどなるほど。『水泳』スキル使用時のスタミナ減少は重さに応じて激しくなっていくんだな。スキルのメインはあくまでも“上手に泳げるようになる事”であって、それについてはほとんどスタミナは減らない。余分な重さを支えるためにスタミナを使うってところか」

「ええと?」

「なんで不思議そうなの」

「泳ぐときに水着になるのは当たり前だと思うのですが……そんな大発見みたいに言われましても……」


 泳ぐときは水着。否定しようのない当り前な話だ。

 もちろん俺だって現実の世界でならそうする。水着が無かったとしたら可能な限り服を脱いで身軽になるだろう。間違っても重りにしかならない余分な物を身に着けたまま水に飛び込んだりはしない。

 一般的な感性ならそれが当然であって、だから真理恵さんはまず水着になって泳ぎ、そうしなかった俺はゲーマーの感性で行動していた。

 泳げる=水中戦がある。

 その発想がフル装備での入水につながっている。なまじそれで泳げてしまったし、補助してくれるスキルの成長も見込めていて、泳ぐときにはできるだけ身軽になるという当り前な発想に至れなかったのだ。


「あ、水中戦はありますよ。たまに噴流貝が襲ってきます。無事に渡り切りたければ防具は必要ですね」

「それでビキニアーマーなのか」

「はい。集落で着ている人を見かけまして。これだと思い加工をお願いしました」

「そうだったのか。てっきり露出プレイの一環かと」

「それもありますよ? その為に少し小さめに作ってもらいましたし」

「……あるのか」

「この格好で浜辺の集落を歩くと注目されます。あの中の何人が城太郎さんのように私を視姦しているのかと思うともう……」

「いや俺は視姦なんかしてないから」


 酷い言掛りは勘弁して貰いたい。

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