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8-3:海辺のモンスター

 ついでと言う訳では無いが、アロハから件のビキニアーマーについても教えて貰った。『鍛冶』のスキルを上げていくと武器や防具のデザインを変更できるようになるそうだ。


 『鍛冶』スキルは俺も持っているのだが、放置状態で全く育っていない。

 『鍛冶』スキルでできるのは武器や防具の加工だ。武具屋に持ち込まなくても自分で強化素材の付け外しができるのである。これによって武具屋に支払う加工手数料が節約できるとか、探索中に状況に応じて有利な武具に作り替えられるなどのメリットが生じる。

 が、『鍛冶』スキルを得たとは言え、素人なのは変わりないということなのか、専門家である武具屋での加工結果と比べると性能的に劣ってしまう。その上、付け外し毎に強化素材の品質が劣化してしまうという重大なデメリットもあった。


 俺は金銭的に余裕があったし、屍食花からのドロップでベース武具を増やして常に複数種類の武具を用意していた。ドロップ率の低さからしてレースガチ勢は満足にベース武具を増やせていないとすれば『鍛冶』スキルは有用なのだろうが、俺にはデメリット覚悟で『鍛冶』をする必要性は感じられなかった。


 で、この『鍛冶』スキル、レベルが上がれば性能ダウン率や素材の劣化度が緩和され、さらにレベルアップを重ねる事で強化素材の追加投入やデザイン変更機能が解放される。変更は“ほぼ自由”にでき、変更結果によって性能の変化も伴う。


 例えば、恐らく軽鎧からのデザイン変更だと思わる件のビキニアーマー。ビキニという形状ゆえに肌の露出が多く、つまりは防御面積が極端に減少してしまっている。防御力という点は大幅に性能ダウンしている訳だ。

 しかし軽鎧の長所である“軽さ”は大幅にアップしているのだから、身軽さを売りにするスピードタイプのプレイヤーにとっては性能アップしているとも言える。


 同じ軽鎧に、強化素材を追加したり体を覆う面積を増やして防御力を上げるなど逆向きの変更を加えたらどうなるか。軽鎧の弱点である防御の弱さが改善され、しかし軽鎧の長所である“軽さ”が犠牲になる。それを承知でさらに突き進めると……それはもう軽鎧ではない。防具としての分類が重鎧に変わってしまう。


「その辺を良い塩梅に調整しないと重くて動き難い割りに重鎧ほどの防御力には届かないなんて中途半端な物が出来上がっちまうんだけどな。武器も……笑っちまうような失敗作が色々ある」


 リーチを延長した結果バランスが崩れてしまい片手では振り回せなくなった片手剣。極限の攻撃力目指して素材を追加していったら重く分厚く巨大になり過ぎ、振り回すどころか持ち上げるのさえ困難な大剣――通称“ドラゴン殺し”などなど……。中にはネタ武器の扱いながら実用に耐えるものもあるが、多くは即座に産廃扱いとなる失敗作ばかりだとアロハは言う。元々用意されているノーマルな武具が一番無難に性能が纏まっているのは言うまでも無く、素人が下手に手を加えるのは一部の例外を除けば悲惨な結果を招く、と。


 で、その一部の例外と言うのが、


「『鍛冶』スキルの第一人者も例の美女パーティーの一人なんだよな。攻略を遠慮してる分そっちに注力したとかでガンガンスキルレベルを上げたらしい。しかももともとゲームのアイテムデザインとかもやってる本職の人らしくてセンスも良いんだ。『猫印』ってブランドで販売もしてて凄い人気だな」


 うん? 美女パーティーって天音流剣術道場関係者だよな?

 それでいてゲームのアイテムデザインとかもやってる本職?

 どういう人なんだ?


 ま、それはともかく、俺もボチボチ『鍛冶』スキルを育ててみるか。


 *********************************


 アロハに礼を言って別れ、武器防具を更新した後フィールドへと繰り出した。


 数日探索を続けて把握したこのステージの特徴は、名前の通りの“海辺”だ。

 集落を出れば目の前には青い海。左右は見渡す限りの白い砂浜。

 陸側に進めばちょっとした草原や椰子みたいな木が生えた木立もあり、波打ち際に沿って進めば岩場があったりもするのが、どこにいようとも常に海が目に入る。海と無縁になれる場所などここには無い。

 そんな小さな島が点在していて、膝まで海水に浸かりながら浅瀬を伝って移動していく。


 出現する雑魚モンスターは砂浜だと『赤槌蟹』と『青鎌蟹』。

 蟹と名に付いているものの、どちらも背中に貝を背負ったヤドカリだ。

 ……ちょっと訂正。

 デカいヤドカリだ。貝を含めた体高が成人男性くらいある。

 赤槌蟹は赤い甲殻とハンマーみたいに大きな鋏が特徴だ。シャカシャカと素早く接近してきてドカンと鋏で叩きつけてくる。鋏なんだから挟めよと思った。

 一方の青鎌蟹は青い甲殻と、片刃だけ長く鋭く発達した鋏が特徴。シャカシャカと素早く接近してきてシュパッと斬りつけてくる。鋏なら挟めよと……いや、その鋏じゃ挟めないか。


 島間の移動路である浅瀬には『噴流貝』が出る。

 同じ『噴流貝』の名前で貝の形状違いが何種類かいて、多分こいつらはヤドカリどもへのヤド提供者――の幼生だ。大きさは随分違うが形はそっくりなのがいる。

 『噴流貝』出現の予兆は海面の僅かな盛り上がり。水面下スレスレを漂って来て爆発的に水を噴射。噴流ジェット推進で弾丸のように飛んでくる。一番怖いのは貝が極端に細長い種類で、こいつはもうほとんど槍が飛んでくるようなものだ。他の種類は安全なのかと言えばそんな訳も無く、当たれば普通に痛いし、最悪なのは浅瀬から落とされてしまう事態だ。武器防具フル装備で海に落ちれば沈んでしまう。這い上がるのが間に合わなければ”溺死”だ。


 他にもなにかいそうなのだが俺はまだ出会っていない。

 なにかいそうだと思うのは真理恵さんが特に何も言って来ないからだ。真理恵さんは森ステージの屍食花を絶賛し、廃村と荒野は好みじゃないからと短期攻略を望んだ。ヤドカリも貝も真理恵さん好みじゃないと思うのだが、今の所催促の声は無い。となれば、どこかに真理恵さんを満足させるようなモンスターがいるんじゃないかと思えてくる。


 ともあれ俺が出会ったこいつらは結構強くて最初の内は何度も死に戻らされた。

 第三十一階層以降はゲームも中盤となり、雑魚モンスでさえも手強いのだ。もちろん前ステージのボスである牛頭馬頭獄卒コンビと比べるなら格段に弱い……と言えるのは獄卒の行動パターンを死に憶えたからであって、憶えてないうちは雑魚にも手こずってしまうのが俺のプレイヤースキルというものなのだ。

 ……甲殻類は表に現れる情報が少なくて先読みし難いのもあるし。


 清一郎の言葉を借りるなら「脚は関節の部分でしか曲がらないし、関節が逆に曲がる事も無い。動くためには事前に関節部分に力を溜めなければならない」訳で、その辺りに注目してどうにか対応できるようにはなっている。噴流貝はまっすぐ飛んでくるだけだから予兆である海面の盛り上がりを見逃さなければ良い。


 得られる素材で目ぼしいものは『赤槌蟹の鋏』が打撃武器に、『青鎌蟹の刃』は斬撃武器に、『噴流貝の細巻貝』が刺突武器にと、それぞれ強化素材として使える。また『赤槌蟹の甲殻』と『青鎌蟹の甲殻』で防具を強化すると水属性に耐性が付加され、赤は物理防御優先、青は水耐性優先と差別化されていた。


 雑魚モンスとの戦闘を重ねて武具の更新をしながら、行ける所には全て行く勢いでマップを埋めていった。採取ポイントもいくつか発見している。

 椰子の木の根元に生えていた薬草からは念願の中級回復薬が調合できた。

 回復薬は『調合』のレベルが上がれば効果が増していくのだが、下級回復薬は既に上限に達してしまい、現在のHPや雑魚モンスから受けるダメージ量に対しても頼りない回復量だったので、より回復できる中級回復薬は有り難い。回復量をさらに増加させる青キノコの追加調合も今はまだ不要なくらいである。

 その内青キノコがないと厳しくなってくるだろうから、折を見て森ステージまで採取しに行こう、と心の片隅にメモしておく。


 岩場には釣りポイントがあった。

 以前渓流釣りをした釣り道具がそのまま使えたので試してみたところ釣果はなかなかのもの。魚焼きキットで丸焼きにしてみたものの……残念、やはり料理系のスキルがないとまともな味にはならないようだ。丸っこい猛毒持ちの魚などはきちんと処理できれば美味らしいのだが。

 料理のスキルってどうすれば手に入るんだろう?

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