8-5:ビキニアーマーの下には
「ところでその鎧の下ってどうなってるの?」
「この下……ですか?」
真理恵さんが抑えたビキニアーマーがおっぱいをむにゅっと圧している。
「この下がどうなっているかはこの間見たじゃないですか。揉んだり摘まんだりも」
「いや、そういう事じゃなくて」
そうだ。おっぱいは一回見たからそれで良いなんて事はない。何回だって見たいし何回だって揉みたい……ってそうじゃない!
「違うんですか? すると……こっちでしょうか?」
「いや、いやいや! そういう事でもないんだってば!」
真理恵さんの手が下の方に下がっていったのを慌てて止めた。
俺も男だ。もちろんそっちの鎧の下がどうなっているのかも大変気になる。気になるのだが、白昼堂々どうなっているのか当人に訊くような真似はしない。
「これだよ、これ」
自分が来ている初期配布の簡素な衣服を摘まんで持ち上げる。
防具を全て外した今の俺はゲーム的には“裸”と称せるが、このとおり服は着ている。しかし今の真理恵さんはビキニアーマーを外したら本当に裸になってしまいそうだ。
ゲームのシステム的に服を着ないで直接鎧を装備はできない筈。
そういう意味での「鎧の下はどうなってるの?」なのである。
「そういう事でしたか。鎧の下は水着を着けています」
「あ、そういやそうか。先に水着で泳いでいて、後からビキニアーマーだもんな。そのまま上に重ねただけか」
“外の街”で購入した現代的な衣服をゲーム側に持ち込めるのは先述のとおりだ。初期配布の簡素な衣服と水着を置き換えているのだろう。
「いえー、そのままではありませんよ? 最初に買った水着はワンピースでしたので、この鎧は重ねられません」
「そうかな? それはそれで……」
想像してみれば十分にアリだ。エロ的な意味ではなく造形的な意味で。水着の色柄によっては浮きまくってしまうだろうけど、真理恵さんがそれほどケバケバしい水着を選ぶとは思えない。無地の落ち着いた色合いなら大概しっくりと嵌りそうだ。
「そうですか? 私としては水着の上に水着を重ねているような感覚なので、下のが見えてしまうとみっともない感じがします」
「ああ、真理恵さんにとってはそれも水着の扱いなのか」
ビキニアーマーという概念を知らなければ“変わった素材の水着”になるのだろう。そうすると真理恵さん的にはワンピースの水着の上にビキニの水着を重ねる事になって……そりゃ確かにみっともないし間抜けな感じだな、うん。
「ビキニアーマーの下にビキニの水着か」
「鎧を小さめに作って貰ったのでビキニでもハミだしてしまうんですよね。それで結局こうしました」
真理恵さんがちょちょいとメニュー画面を操作して防具を除装。
例によって防具の抑圧から解放されたおっぱいがぶるんとなる。が、それはそれで素晴らしいのだが、喜ぶような余裕は一瞬で吹っ飛んだ。
ビキニアーマーの下はマイクロビキニだったでござる。
……否、これはマイクロビキニなんて生易しいものじゃない。
商品としての種別は確かにマイクロビキニなのかもしれないが、そんなの関係無い。全裸の状態から水着を着れば少なからず肌色率は下がる筈なのに、今視界を占める肌色率は圧倒的な優勢を保ったままだ。
――「城太郎さん?」
水着がほとんど肌色を隠していない。
敢えて言うなら肌色じゃない部分しか隠していないのだ。一センチ……いや、五ミリ……いやいや、三ミリでもずれれば見えちゃいけない肌色じゃない部分が見えてしまいそう。肌色率を損なう割合は布地部分よりも紐部分の方が大きい、と言えばどんなものか想像し易いだろうか? 上も下もそんな感じなのだ。
――「あのー、城太郎さん、聞こえてますか?」
やはりこれをマイクロビキニなどという一般的な名称で呼ぶのは間違っている。そう、これは究極……アルティメットビキニ!
「城太郎さん、視姦してますか?」
「してないよ!」
「ねっとりと舐めるような視線が這い回り、特にこことここ、水着の辺りに集中していたように感じたのですが……」
そことそこに手を添えてくねくねしないでくれませんかね。
急に恥ずかし気にされても……いまさら感しかありません。
「それは錯覚だ。視線に物理的な力なんて無いから肌に感じる訳が無い」
「そう真面目に返されては困ります。……でも実際見てましたよね? 集中的に」
「……」
「やはり、この下がどうなっているか気になるのでは?」
「……」
気になります! と声を大にして叫びたい。
しかし俺にも意地がある。そんな情けない真似はできない。
ましてや相手は真理恵さんだ。気になりますなんて答えたら「じゃあ見せてあげます」と言い出しかねない。人目が無ければ屋外だろうとお構いなしに、だ。
人目が無いにしてもこんなところでそんなことをしたら変態だ。
まあ、真理恵さんは既にして変態なのだが、それに付き合ってしまったら俺まで変態の仲間入りをしてしまう。ボスエリアでの報酬タイムは他者が絶対に立ち入れない一種の密室なので屋外ながらセーフとしているのがギリギリのライン。公共の場であるフィールド上では絶対に駄目だ。
「も、もう鎧を着けてくれ。これ以上は目の毒だ」
「むう……」
不満そうにしながらも素直に鎧を装備してくれた。
もとどおりのビキニアーマーである。
これも常識的な尺度で測るなら間違いなくエロ装備の範疇に入っているというのに、アルティメットビキニの後で見ると健全に見えてしまうから不思議だ。なんかホッとする。
そしてそんな俺をじっとりとした目で見る真理恵さん。
「……城太郎さん、まさかとは思いますがEDなのではありませんか?」
「い、いーでぃー?」
「正式には勃――」
「いいい意味は判るから正式名称は言わなくて良いよ!? てかEDじゃないからね俺! なんでそんなこと言うの!?」
「ここまで反応がないとただのヘタレではないのではないかと。この水着、織姫様には『どんな男でも前屈みになること間違い無し!』とお墨付きを頂きましたし、梓さんも無言ながらこう親指をグッと」
「なにやってんだあの二人は……」
溜め息しか出ない。
……が、織姫の言いようもあながち間違ってはいなかった。
俺は不慮の事故を未然に防ぐ為にマイルーム以外では生理反応再現をオフの設定にしている。選択的なEDと言えなくもないが、その分マイルームに戻ればいつでもムスコは元気一杯だ。この間だって真理恵さんの報酬ネタで遊んだばかりだし……と、それはともかく、設定がオンになっていたなら俺は前屈みになっていただろう。織姫がいったとおり間違い無しの確定的に。なんなら前屈みのまま走って海に飛び込むまである。
「俺がまっすぐ立ってられたのは設定をオフにしているからだ」
「つまり設定がオンになっていたら?」
「言わせないでくれ恥ずかしい」
「言ってくれると嬉しいのですけど……今回はこれで良しとしておきます」
「……次回があるような言い方じゃないか」
「さあ? どうでしょう? それより、城太郎さんもあの島に渡るのですよね? せっかくですからご一緒しませんか? あ、パーティーを組むとかではなく、目的地が同じなら進む方向も同じ程度の話で」
「いや、でも俺、そういう防具持ってない」
『水泳』スキルと防具の関係はこの場で知ったばかり。スタミナ面に負担をかけない軽量防具なんて持ってる筈も無く、真理恵さんによれば「無事に渡り切りたければ防具はあった方が良い」訳で。しかし……あのビキニアーマーに相当するような軽量防具って、男だとどんなデザインになるんだ?
「今日は特別です。あの島までの露払いくらいはします」
「そう? それならお願いしようかな」
「はい。お願いされます」




