8-1:ビキニアーマー
第三十階層で獄卒の牛頭馬頭コンビを討伐してから二日後、俺は再び“浜辺の集落”にやって来た。
そして思うのは、
――なんか雰囲気が変だな。
という事だった。
討伐当日は真理恵さんから貰った報酬の記憶が鮮明な内にムスコと遊ぶべく気が急いていて、“浜辺の集落”とマイルームの接続を確保してすぐに引っ込んでしまったので気が付かなったのだが、落ち着いた気持ちで改めて身を置いてみると良く判る。
変……と言ったら言い過ぎかもしれない。
“浜辺の集落”に感じる雰囲気は異様でも異常でもなく、逆に極めて普通なのだから。
しかし、普通だからこそ変だとも言える。
大遅刻からスタートした俺がようやく追いついたこここそが、賞金レースの最後尾集団となる。だと言うのに、どうにかして追い上げてやろうという焦燥感は無く、勝負を諦めたような絶望感も無い。他のゲームでなら攻略最前線から二つ三つ手前の街がこんな感じだろう緩い空気が流れている。
もう一つ気になるのがプレイヤーの格好だ。
俺が見た事の無い装備をしているというのは、第三十一階層以降の素材を使っているのだろうから当たり前だ。俺が知っているのは“草原”“森”“廃村と荒野”ステージの素材だけだからな。
しかしそういう未知の素材を使っているなどという単純な話ではない。
俺自身三つのステージを経てきて、素材を入れ替えながら装備品を強化してきて気付いた事がある。使用する素材に依って武器は結構見た目が変わるのだが、防具はそうでもないという事だ。
例えばメイス系の武器。木製の棍棒みたいなベース武器から釘バット擬きになったり、いわゆるいかにもなメイスになったり、まだ実際に作成はしていないが獄卒素材の頭蓋骨を使うとヘッド部分が牛や馬の頭部を模した物になったりもする。“メイス”という括りの中にあってもこれだけ形が変わる訳だ。
一方で防具はあまり変わらない。もちろん色合いや質感は素材によって変わる。『狼王の毛皮』と『屍食花の花弁』では見た目も手触りも別物となる。が、軽鎧は素材を変えても軽鎧のままで、小盾は小盾のままだった。厳つい素材を使ったところで軽鎧以外の何かに見える形状に変わったりはしない。
そして防具の形状はプレイヤーの性別にも影響されない。
同じ素材を使っても性別によって全く異なる見た目の防具が出来上がるゲームは多い。
昔プレイした非VR時代のアクションハンティングゲームが良い例だ。このゲームは頭、胴、腕、腰、脚に防具を装備する。装備品にはそれぞれスキルポイントが設定されていて、五部位の合計が規定値に達したスキルが発動する仕組みになっていた。無駄のない組み合わせでより多くより強力なスキルを発動させるべきなのだが、ここで一つ、悩みの種となるのが“見た目”だった。
五部位全てを同一シリーズで揃えるのが最も無難な見た目になるのは言うまでもない。デザイナーも素材となるモンスターのイメージに合わせて防具一式をデザインしている。岩石系のモンスターならゴツゴツと厳つく、獣系ならモフっと、そんな具合に。でもスキル発動を優先するならシリーズでの統一は悪手となる。頭はこっち、胴はこっちと色々な防具を組み合わせる必要があるのだが……想像してみて欲しい。頭防具は岩石感丸出しのゴツいヘルムなのに胴防具は見た目ペラペラな布製で、腰はテカテカした昆虫素材で脚はヌメッとした鱗模様、腕だけ毛皮モフモフ……スキルを優先した結果とんでもないキメラが誕生してしまう悲劇が後を絶たなかった。
そんな中で見た目の良さとスキルを如何に両立させるかが醍醐味ともなっていたのだが、スキルポイント的に中盤の必須装備とまで言われたとある頭防具が、女キャラ用は可愛らしいティアラなのに、男用はバケツをひっくり返したようなフルフェイスヘルムだった。
もう一度言おう。
その頭防具、スキルポイント的には中盤の必須装備とまで言われたのである。
つまり、ガチ目にゲームを攻略しようとしたら外せない装備な訳で、ある程度の期間はお世話にならざるを得ない。女キャラは良い。可愛らしくはあるもののティアラという形状的にそれほど存在感を主張しないから他がどうでも合わせるのは難しくない。しかし男は……バケツヘルムは……逆に主張が激し過ぎて何と組み合わせても浮きまくる。プレイ中常に目に映る自キャラがバケツを被った間抜けな姿なのだ。一周回ってバケツを気に入り、中盤以降も愛用し続けたプレイヤーもいたらしいが、キャラデリして女キャラに切り替えたプレイヤーも数多い。俺もその口だ。
ちなみに。
このハンティングゲーム、女キャラでプレイする場合はもう一つの要素が加わる。スキルと見た目の両立と言えばその通りなのだが、そこにエロが加わるのだ。シリーズ一式を装備すればガチガチ、でもパーツ単体ならエッチ。エッチなパーツだけを五部位分集めたら? 誰でも考えるだろう。俺も考えた。他のプレイヤーも考えた。
エロを追求してスキルを疎かにするのは邪道。あくまでも実戦に耐え得るスキル構成で、しかもエロい。そんな“ぼくのかんがえたエロくてつよいそうび”がネット上で紹介されていたものだ。“おっぱい装備”“おぱんつ装備”“おしり装備”などなど。プレイ中のモーションによってチラ見えする前提の“わき装備”なるものまであったほどだ。
余談であるが、このハンティングゲーム、後になって装備品の性能はそのまま見た目だけを変える“外装”というシステムを導入した。あんまりな見た目のせいで敬遠されていた防具パーツに日の目を見させる効果は確かにあったのだが……俺的にはスキルと見た目を両立させようというプレイヤー側の創意工夫を蔑ろにする措置だったと思う。
……話が逸れまくったな。
本筋に戻すと、このエクスプローラーズでは防具のデザインは男女共通となっている。さすがに鎧の胸部だけは胸の膨らみ分だけの差異はあるものの、違いと言えばそれだけ。同じ素材を使って強化した同種の防具であれば基本的には同じ見た目になるのだ。
そういう前提を理解した上で“浜辺の集落”を行き交うプレイヤーを見てみよう。
例えばあそこにいる女性。
ビキニアーマーを装備していらっしゃる。
これがビキニの水着だったならまだ判る。
豊さんが“始まりの街”にスーツ姿で現れた事からも判るように、“外の街”で購入できる現代的な衣服をゲーム側に持ち込むのは可能だからだ。
しかしあれは……。
“外の街”は長期間仮想世界に閉じ込められる被験者に現実世界を忘れさせないために存在しているから売られている商品も現実に則している。まあ、男で、しかも引き籠りな俺は現実世界の女性水着売り場などに縁は無いのだが、あんなキワモノ、本当にあるならネットでもそれなりに話題になるだろう。蟹の甲羅で作った水着なんてものが本当にあるのなら。
つまり俺が知る限りの現実に則して判断すれば、あれは蟹の甲羅のような素材を用いて作成されたビキニアーマーとなるのだが、ここで思い出すべきは『エクスプローラーズ』において防具は性別によって極端な形状の差異は生じないという点だ。
あれを男にも装備させようと言うなら、運営は頭がおかしくなったのだと思う。
しかしながら、先日会ったばかりの豊さんはいたって正常だっとも思うのだ。
少なくとも男にビキニを着せようなどとは思わないくらいには。
この後、12、18、20、22時にも投稿します。
*作者は以前MHFをプレイしていました。




