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7-4:”廃村と荒野”攻略

 自分がされたら嫌な事を知らないうちに他人にしていた。

 それに気付いた今、俺はどうしたら良いのだろうか。


 真理恵さんは最初から自分が病気である事と病気が原因でMになったのだと正直に言っていた。それなのに、俺は“自称病気”と決め付けていた。思い起こせばそんな決め付けが元で俺は真理恵さんに対して酷い態度を執っていなかったか。時には人に向けるべきではないような蔑みの視線を……ん? ちょっと待てよ?

 俺がそういう目で真理恵さんを見た時、彼女の反応はどうだった?


『そういう蔑みの目で見られるのも良いです』

『そのゴミを見るかのような視線も堪りません』


 ……悦んでるじゃん。

 おいおいおい、これはいったいどういうことなんだ?

 視線に物理的な力など無い。どんな種類の視線でも――人に向けるべきではない酷い蔑みを込めた視線であろうとも、それが人体に刺さって痛みを与えるなんてことは有り得ないのだ。異常分岐症も、痛みを快感に変換するM的体質もまったくもって関係無いじゃないか。関係無いのに喜んでいたならそれは……。


 そう考えてみると、緊縛はともかくとして、羞恥も放置もましてや肉奴隷も病気やM的体質と関係無い。もっと言うなら、結局真理恵さんの病気は気持ち良いだけで死に至る要因を微塵も含んでいなかった。死の危険はあくまでも真理恵さん自身の「気持ち良い事をしたい」という極めて俗な欲求に起因している。俺が煙草の吸い過ぎやアル中を連想したのはそれほど外れていなかった。


 つまり、だ。

 一口にMと言っても色々な種類があり、苦痛を快楽に変換するM的体質のみが病気を原因にしている。他の、羞恥プレイや放置プレイ、肉奴隷願望などは、ただ単に、やっぱり真理恵さんは変態であるということだ。


 ……どうもしなくて良いな、うん。


 *********************************


 タイタン討伐の翌日は豊さんと、翌々日は清一郎たちとの飲み会。

 この二日間は攻略を休んで英気を養った。


 そして三日目、いざ“廃村と荒野”ステージに繰り出そうとした矢先、真理恵さんから緊急に相談したい事があるとのメールが入り、第二十一階層の“廃村”にて落ち合う事となった。


「ステージ攻略を早めて欲しい?」


 真理恵さんの相談はできるだけ早く“廃村と荒野”ステージを突破して次に進みたいというものだった。首を傾げざるを得ない。ステータスが上がり過ぎたせいでマンネリ化した森ステージをようやく脱出できたのだから、新しい刺激を存分に楽しめば良いのにと思う。


「それが……まだ私のステータスに見合わないようでして」

「それは階層を更新すれば良いだけじゃないの?」


 第十九階層で屍食花三体を余裕で相手にできるステータスなら、二十一階層のモンスターが物足りないのは判る。しかし階層を更新すればモンスターの攻撃力も上がっていくのだから、いずれ十分な刺激を得られるようになる筈だ。ステージ丸ごとの攻略を早める理由にはならない。


「そうなのですが、それだけではなく、何と言いますか……このステージのモンスターは私の趣味からは少々外れておりまして」

「……それはタイタンみたいなやつってことなのかな?」

「そうです。吹き飛ばし系の攻撃が多くて」


 真理恵さんが森ステージの屍食花を遊び相手にしていたのは拘束(緊縛)して蔦での打撃(鞭打ち)を加えてくるのが彼女の被虐欲求を完全に満たしてくれていたからで、攻撃力で上回るタイタンとの戦闘を避けていたのは、ボス戦だと死に戻るしかなくてステータスの成長を加速させてしまうからだけでなく、吹き飛ばし系の攻撃ばかりで落ち着いて楽しめないからでもあった。


 そしてどうやら“廃村と荒野”ステージに登場するモンスターの攻撃はタイタンに通じる大味なものであるらしい。


「どうしたもんかな」


 真理恵さんとパーティーを組む条件の一つに“ボスに挑むタイミングは俺が決める”というのがある。この条件は俺が自分のペースでプレイできるように付けたのだが、どちらかと言えば真理恵さんを急かすためのものだった。真理恵さんのプレイスタイルは一つの戦闘にも時間がかかるから、攻略速度は遅れがちになる。気に入ったモンスターなんかがいれば尚更だろう。だから逆に俺が急かされるのは想定していなかった。

 とは言え、それもまた自分のペースでプレイできないことを意味する。

 条件に反するとして即座に却下もできるのだが……。


「報酬の上乗せも検討しますよ?」


 そう言われれば弱い。

 共闘は一方的な俺の善意ではなく、報酬が支払われる対等な取引に変わっている。真理恵さん側からの交渉も可能になっているのだ。俺が報酬に十分な価値を見出している以上これを無視する事はできない。

 さらに言えば、森ステージで到達できる限界近くまでステータスを育てている上に天音流大盾術まで得た真理恵さんなら一人で進むのも決して不可能ではあるまい。その場合、当然ながら俺との共闘関係は消失し、報酬は得られなくなってしまう。幸いなのはソロで突破しようとするとどうしても死に戻りが嵩んでステータスが上がり過ぎるので真理恵さんはそれをしたがらない事だ。が、それに胡坐をかいて放置すれば痺れを切らしてしまうかも知れない。


 雄二さんや豊さんが作ったゲームを余すところなく楽しむためにマップを塗り潰すように全踏破してきたし、これからもするつもりだったのだが……。


「ちなみに上乗せって?」

「そうですねぇ……揉むだけでなく摘まむ権利を追加でどうでしょうか?」

「のった」

「話が早くて助かります」


 こんなんのるしかないだろう。


 *********************************


 “廃村と荒野”ステージは名前のとおり点在する廃村と荒れ果てた農地から構成されている。出現するモンスターは家畜が野生化して凶暴になった牛、馬、鶏、そして元々野生だっただろう大きな鹿と動物尽くし。

 この内、牛と馬と鹿は突進からの体当たりが主な攻撃手段になっていて、真理恵さんが嫌う吹き飛ばしを伴っている。鶏だけは少々異なっていて華麗なフットワークでこちらの攻撃を避けつつ、隙をついて鋭い嘴で啄んできた。ただ、臆病なのかなかなか攻撃してこず、コケコケ鳴きながらぐるぐると歩き回る時間が長い。間延びするのも真理恵さんは嫌だそうだ。


 第二十五層の中ボスは牛と馬の群。廃棄された牧場だろうか、柵に囲われた狭いフィールドに合わせて二十頭近くが犇めいている光景に寒気を催したものだが、突進を誘発した上で回避に専念してモンスター同士を衝突させてダメージを稼ぎ、数を減らしてから攻勢に転じれば意外と楽に突破できた。

 報酬のおっぱい生揉み権+摘まむ権、堪能させて頂きました。


 第三十階層の大ボスは獄卒ゴーシールシャと獄卒アシュヴァシールシャ。

 中ボスからの流れでアタリを付けていた牛馬系ではあるものの、タイタンにも劣らない巨躯と筋肉、棘付きの金棒を振り回す凶暴な半人半獣のモンスターだった。ゴーシールシャが牛の頭でアシュヴァシールシャが馬の頭をしている。牛の方は一見するとミノタウロスっぽいのだが、俺が知っている神話に心当たりがなく、後で調べてみたら仏教系だった。


 初の複数ボス戦に苦戦を強いられたが、今回は死に憶えの段階から真理恵さんにも参加して貰い、十二回目のチャレンジで討伐に成功した。固い盾役がいるとやはり楽だ。

 そしてお楽しみの報酬は生揉み権+摘まむ権のままながら、なんと真理恵さんが服を捲り上げてくれておっぱいを目の当たりにしながらとなった。絵でもなく映像でもなく本物を初めて見た。ありがたやありがたや。

 ……仮想世界だから本物じゃないだろうなんて野暮な突っ込みは無しにしよう。リアルモードアバターは現実そのままなんだから。


 こうして“廃村と荒野”を約三週間で突破し、第四十一階層に到達した。

 ステージ名は“海辺”。

 拠点名は“浜辺の集落”。

 荒涼とした前ステージから一変して、白い砂浜と青く煌めく海が眩しい南国の島を想起させるフィールドだ。潮の香りが鼻をくすぐる。拠点施設は南国風の高床式で、多くの人が出入りしている。通りに行き交う人も多く、彼ら彼女らの頭上にはプレイヤーを示す青いマーカーがあった。


 大遅刻の出遅れでボッチスタートした俺はついに先行組に追い付いたのである。

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