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6-9:タイタン戦準備

 さらに二週間ほどが過ぎた頃、真理恵さんから「織姫様から初伝の認可を頂きましたのでいつでも大丈夫です」との連絡が来た。それに少し遅れて梓から「早くタイタン倒して」と清一郎経由でメッセージが届く。


 真理恵さんの方は「いつでも大丈夫」と言いつつも「早く行きましょう」という語調。そして梓の方はタイタン云々よりもとにかく真理恵さんを引き取って欲しいようなニュアンスだ。指導担当の織姫ではなく梓からというのが気になった。


「真理恵さんがなにかやらかしたのか?」

「真理恵さん、初日のアレで梓を縄師かなんかと勘違いしてるみたいなんだよな。それもあながち間違っちゃあいないんだけど、梓は縛るだけでその先がないから」


 清一郎曰く。

 梓が好んでいる緊縛術はあくまでも捕縛術の延長にある。織姫を縛り上げて「むふー、これは良い縛り」などと出来栄えを鑑賞して満足したら終了だ。そういうのを好んでいる時点で軽くSが入っているけれど、縛ること自体が目的なのでその後が続かない。そしてそんな梓に付き合って縛られている織姫はどちらかというなら軽いMなのだろう。


「おまえ、身内のそういう情報をしれっと出してくるなよ」

「え? これくらいは姉ちゃんたちを見てれば判るだろ?」

「まあ……意外に思うよりも『やっぱりか』って納得する部分の方が大きいのは否定しないけども」

「だろ? で、二人とも真理恵さんの要望に応えられるような加虐趣味はないわけで」

「そういう清一郎はどうなんだ?」

「趣味どうこう関係無く俺は駄目だよ。女同士でキャッキャウフフしてる分にはちょっと百合っぽい戯れで済むけど、そこに男が入ったら意味合いが全然違ってくる。それに……俺は下手に女性に手を出せない立場だから」

「ああ、天音流の」

「ここのアバターはリアルだからね。仮想世界とはいえ既成事実扱いできなくもない」

「そっか……」


 清一郎が真理恵さんに手を出すことは無い。

 そう聞いて、なんとなくほっとした。


「って訳で真理恵さんが欲求不満だ。あんまり待たせると一人で行っちゃうかもよ?」

「一人で? 清一郎から見て真理恵さんがタイタンソロ討伐って可能なのか?」

「できなくはない、って感じかな」

「マジか」


 これはマズい。もしも真理恵さんがタイタンを一人で倒してしまったら俺との限定パーティー契約が解消されてしまう。そんな事態は避けたい。何故なら、俺は真理恵さんのおっぱいを揉みたいのだ。正直に言えばこの先にあるだろうアップグレードにだって期待している。パーティー契約は是非とも維持したい。


 行くか?

 通常状態と怒り状態の行動パターンはもう把握できている。

 凶暴化状態を未だ見れていないのが不安ではあるが、盾役としてはかなり強固であろう真理恵さんが加わるなら何とかなりそうな気もする。


「……うん。梓にはすぐにでも真理恵さんを引き取るから安心しろって伝えといて」

「お? やるのか?」

「ああ。真理恵さんにはこっちから連絡しておくよ」

「判った。タイタン倒したらまた祝勝会やろうぜ」


 *********************************


 翌日、森の砦で真理恵さんと待ち合わせた。


「おはようございます! さあ、城太郎さん、タイタンを倒しに行きましょう!」

「おはよう。その前に確認するよ。回復薬はちゃんと用意してる?」

「もちろんです! さあ、どうぞご覧ください!」


 真理恵さんが可視化したウィンドウを覗き込む。タイタンは状態異常攻撃を使わないから必要なのはHPの回復薬だけだ。それはちゃんと心得ているようで、消耗品枠はHP回復薬を表す“緑色の小瓶”のアイコンで埋まっている。インベントリにも同じアイコンが十分な数でストックされていた。


「大丈夫そうだね。じゃあ細かい打ち合わせはボス部屋前って事にして走ろうか」

「では最速で着けるように私が先導します」


 そうして真理恵さんに導かれて森ステージを駆け抜けた。

 モンスターの配置を知り尽くしている真理恵さんの先導ぶりはさすがの一言に尽きる。モンスターが弱いステージ下層では敢えてモンスターの生息域に踏み込んで鎧袖一触打ち払いながらショートカットし、強くなってくる上層では戦闘を極力減らし、場所やモンスターの種類によっては遠回りの戦闘回避が結果的に時間短縮につながるといった具合だ。採取ポイントを巡る俺のマラソンコースよりは当然速いだろうと思っていたが……まさか半分近くまで短縮できるとは。最小限の戦闘で僅かにHPを減らしてしまったけれど、回復薬一本で戻せる程度だ。


「この程度なら回復薬で良いですね」

「回復薬で? 回復薬以外に手があるような言い方だね」

「え? レベルアップですけど……御存知無い? 経験値を使わずに溜めておいて、ボスと戦う前にレベルアップで回復するのが回復薬を節約するコツだとか」

「ああ、このゲーム、それができるのか」


 レベルアップの御褒美的に全回復が入るゲームは珍しくない。

 賞金レースで上位を狙うなら回復薬の素材を採取する機会が少なくなるだろうから、レベルアップ回復があるなら利用しない手は無いだろう。まあ、回復薬に困っていない俺には関係無いな。できるだけレベルアップしないようにもしている訳だし。


「あ、真理恵さん、回復するのちょっと待って。パーティーで他の人を回復させるのを試してみたい。瓶ごとぶつければ良いんだよね?」


 インベントリから取り出した回復薬の瓶をひょいと軽く放って真理恵さんにぶつけた。パリンと瓶が砕け散り、真理恵さんのHPが回復する。

 まともにパーティー戦をするのは初となるが、ヘルプはちゃんと読んできた。

 回復薬は飲む以外に瓶ごと体にぶつけても使用できる。ただし飲んだ場合に比べて回復量は六割程度に落ちてしまうので、飲める状況であれば飲むのが良い。そして戦闘中など自分で回復薬を使えない状況にあるパーティーメンバーを回復させる手段が回復薬の『投げつけ』だ。この『投げつけ』には弓を使った時と同じようなアシストが入るので、ノーコンでも外す心配は無い。


「真理恵さんの回復は基本俺の方で持つよ。でも、間に合わなかったら御免。その時は自分で飲んで」

「はい」

「それから俺が知る限りのタイタンの行動パターンを教えておく。怒り状態への入り際とか注意が必要だ。こういうのは後ろにいる俺の方が気付きやすいから指示出しするけど、真理恵さんの方でも注意して欲しい」

「城太郎さんは“死に憶え”しているのですよね? 指示に従います」


 約三週間で蓄えたタイタンの行動パターンと特に注意すべき点、その兆候を伝えて打ち合わせを終えた。


 *********************************


 扉を潜り、第二十階層ボスエリアに侵入した。

 森の中の少し開けた空間、巣穴が黒く口を開ける崖を背景にして食事中のゴブリンがいる。このゴブリン、その時々で数がバラバラで、今回は十匹越えといつもよりも多めだ。

 しかし数に関わらず、一匹倒せばタイタン登場シーンに移行するのは変わらない。


「では行きます」


 気合たっぷりに真理恵さんが走り出し、俺もすぐ後ろを追走する。

 俺の記憶にあるよりも真理恵さんの走るスピードが上がっていた。ステータス的には変わっていない筈だから、これは武道的な体の使い方を憶えたからだろう。


「はぁ!」


 手前にいたゴブリンの脳天に真理恵さんの大盾が振り下ろされる。

 バンッ! と面で押し潰す一撃でゴブリンは消滅した。

 あのゴブリン、第十九階層相当で、俺だとゴブリン特攻のメイスを使っても倒すのに二撃、当りどころが悪ければ三撃が必要なのに真理恵さんは一撃。相変わらずの剛力だ。


 残りのゴブリンがギャアギャアと騒ぎながら巣穴へと逃げ戻るのを見送り、俺はそのまま塗り潰されたように黒い巣穴の入り口に注目する。

 チカリと一瞬だけ黒が瞬いた。変な言い方になるが「黒く光った」ような感じだ。


「今!」

「はい!」


 その瞬きを合図にして横っ飛びすれば、ついさっきまで俺達がいた空間を巣穴から飛び出してきた丸太が通過していく。巣穴の瞬きが丸太射出のタイミングを計る合図になっていて、丸太は瞬きの瞬間にいずれかのプレイヤーがいた位置を狙ってくる。これに気付くまでは盾で受けるしかなく、戦闘前にいらんダメージを受けていたものだが、憶えてしまえば簡単に避けられる。


 すっ飛んでいった丸太の落下点を確認しておいて再び視線を戻せば丁度タイタンがその威容を現すところだった。


「ガアアアアアアッ!!」


 腹に響く重低音の咆哮を合図にタイタンとの戦いが始まった。

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