6-10:タイタン戦
「『挑発』です!」
開幕、真理恵さんが大盾系のヘイト稼ぎスキルを発動。足下から波紋のように広がった赤いエフェクト光に囚われたタイタンは真理恵さんをターゲットと定めて攻撃を開始した。
重量級の打撃を的確に捌く真理恵さん。
天音流大盾術を学んだ効果は覿面で、吹き飛ばされる距離も受ける貫通ダメージも小さく抑えられていた。もとより防ぐだけなら完璧に近いので安心して見ていられる。慣れれば問題無く反撃まで持っていけそうだ。
タイタンは『挑発』の効果で真理恵さんを攻撃せずにはいられない状態にあり、俺は簡単に背後に回り込めた。タイミングを見計らって『強撃』&『三連打』を叩きつける。この組み合わせは現時点で俺の最大火力だ。メイスに備わるゴブリン特攻も加わって、目に見えるくらいにタイタンのHPを減らせる。
……のだが、おかしい。
HPの減りが微妙に少ない気がする。
全段きれいに入れば三パーセントくらい削れる筈だった。実際、前回はそれくらいだったし、その時の死に戻りでいくらかステータスが上がっているのを加味すれば火力の上昇はあっても下降は有り得ない。だというのにこの結果。
とすると……パーティー人数に応じてHPが変化している?
「城太郎さん!」
「ん? うごっ!?」
真理恵さんの声で我に返った時には、タイタンがバックハンドブロー気味に振り回したぶっとい腕が目の前にあり、為す術もなく顔面にガツンとくらった。バタバタと後ずさりした挙句無様に尻餅をついてしまい、HPも半分くらい減っている。丸太の直撃なら一撃死も有り得るのだからこの程度で済んだのは不幸中の幸いとは言え、いきなり半殺し相当は痛過ぎる。
「か、稼ぎ過ぎたのか!?」
最大火力とは言っても“俺にとっての最大火力”でしかないのに、まさかワンセットで『挑発』以上のヘイトを稼いでしまったのか? こんな不確かな姿勢でタイタンに狙われたらヤバ過ぎる。慌てて構えた小盾もタイタンの重打撃を相手にするには頼りない。『横薙ぎ』か『カチ上げ』ならギリで瀕死止まり、吹き飛ばされない代わりに貫通ダメージの大きい『打ち下ろし』が来れば死亡が確定する。
「……あ?」
しかし、タイタンは俺を一瞥しただけで再び真理恵さんを攻撃していた。
ターゲットが移った訳ではないらしい。
取り敢えず回復薬を飲んで、ついでに真理恵さんも『投げつけ』で回復させて、
「真理恵さん! どういうことか判る!?」
「?」
質問してみたら首を傾げられた。
「『挑発』が効いてるのに攻撃されたんだけど!?」
「え? 攻撃したから反撃されたんですよね?」
「あ、ああ……うん、そうだね」
重ねての問いに「それが普通でしょう」みたいな答えが返ってきて、それで判った。
攻撃したら反撃される。
とても普通だ。
ただし、ゲーム的な普通ではなく、現実的な普通である。
盾職がヘイトを稼いで敵の攻撃を引き付け、安全確保された火力職がダメージを稼ぐのがゲーム的な意味での普通だ。反撃してくるゲームもあるけれど、少数派であって普通ではない。だから『エクスプローラーズ』がそういう仕様であるなら事前に教えて欲しかったのだが……真理恵さんにそれを期待するのは間違いだろう。
現実的に考えるなら何かに集中していたとしても殴られて無反応なんてのは有り得ない。ちょっかいをかけられれば振り払うくらいするのは当り前、普通な反応だ。“ゲーム的な普通”を知らなければ問題視のしようが無い。取り立てて俺に教えるような事柄だとは思えないだろう。ゲーマーと非ゲーマーの間に横たわる常識の違いが引き起こした事態と言うべきだ。
……まあ、今回は死なずに憶えられただけで良しとするべきだろう。
憶えてしまえば対処できる。
真理恵さんには待機明け毎に『挑発』を打って常にターゲットを取って貰い、俺は通常攻撃何発で反撃が発生するのかを確認した。三発だ。つまり『強撃』&『三連打』後は即座に、通常攻撃なら三発毎に反撃される訳だ。これを確実に小盾で防御する。タイタンは腕が長いから範囲外に逃げるのは難しい。逆に僅かに間合いを詰めて攻撃力が低めの上腕辺りに当たるようにして盾で受ける方が安全だ。ちゃんと受ければ貫通ダメージも発生しない。
そうして俺が慎重にダメージを積み重ねている一方で真理恵さんも積極的に動き始めていた。丸太を受け流した後の体勢や位置関係が良い具合なタイミングを選んで大盾での打撃を加えていく。
うん、ちゃんと外側から打ち込んでいるな。
真理恵さんはタイタンが丸太を持つ右腕の外側から回り込むようにして攻撃している。これは、内側からだとその時のタイタンの体勢によって左手での掴み攻撃を誘発してしまうからだ。
掴んで握力任せに締め付けるだけのシンプルな攻撃だが、あの太くて重い丸太を思い切り振り回してもすっぽ抜けないだけの握力でやられると強烈だ。これを死に憶えた時には、プロレスラーに握り潰される林檎の気持ちになったものである。
事前の打ち合わせで伝えておいたのをちゃんと憶えていてくれたようだ。
「真理恵さん! そろそろ怒り状態になるよ!」
「あ、はい!」
HPの減り具合で見当をつけての声掛けから遅れる事少し、案の定、タイタンは怒りの咆哮を上げた。そして癇癪でも起こしたかのように丸太を連続で地面に叩き付け、一撃ごとに爆発的に土砂が撒き散らされた。
これは怒り状態移行時特有の行動で、叩き付ける丸太だけでなく飛散する土砂にも攻撃判定がある範囲攻撃の一種だ。しかし叩き付けはプレイヤーを狙ったものではなくランダムであり、土砂の攻撃判定もある程度距離を取ってしまえば無効となる。前兆である“怒りの咆哮”でタイミングを取って離れてしまえば大丈夫だ。
続けて移行時特有行動第二弾。
タイタンは俺と真理恵さんを無視して走り出す。
向かうのは登場時に巣の中から投げてきたもう一本の丸太がある場所だ。拾いに行ったのである。この時、タイタンの進路上にいると轢かれてしまう。身長二メートルを越える筋肉の塊が土煙を上げる勢いで全力疾走するとまさしく肉弾となる。
もちろんこれも死に憶えている。最初に丸太の落下地点を確認したのはこのためだ。進路から外れたところでタイタンの背を見送り、今のうちにとHPを回復させておいた。
丸太を拾い上げたタイタンが取って返してきて――「『挑発』です!」――再び真理恵さんに襲い掛かる。怒り時のタイタンは両手に丸太を持ち、これはプレイヤーの双剣装備に似ている。一撃の威力が落ちる代わりに手数が増えるので反撃の隙を見つけ難い。
「怒りは時間経過で解除される。無理に反撃しなくて良いから」
「は、はい。打撃が軽くなってます。これなら」
怒り状態初見となる真理恵さんは防御専念。さすがの高STRと言うべきか、双剣状態の軽くなった打撃であれば吹き飛ばされる事も無くその場で防御できている。
俺は……うん、俺も下手に攻撃しない方が良いな。
タイタンが双剣状態である今、反撃が二連撃になる可能性がある。ならないかも知れないが、なるかも知れない。そして、なってしまった場合、死に憶えていない俺には対処しきれない可能性がある。可能性に可能性を重ねた不確実な話。でもここは安全策を採る。
清一郎とか織姫なら初見でも華麗に回避できるのだろうけど、俺には無理だ。
と言う訳で、回復薬を準備して真理恵さんの後ろで待機した。
ガンガンガンと丸太が大盾に打ち付けられ、アンアンアンと真理恵さんが甘い喘ぎを漏らし、頃合いを見計らって俺が回復薬を投げて真理恵さんを回復させる。
ガンガンガン、アンアンアン、パリーン……。
ガンガンガン、アンアンアン、パリーン……。
ガンガンガン、アンアンアン、パリーン……。
『ゴアアアアア!』
「おっと、来るよ真理恵さん、しゃがんで!」
「はい!」
咆哮とともに投げつけられた丸太は、姿勢を下げた俺達の頭上を飛び過ぎていった。
「これで通常状態に戻る。凶暴化するまではこれの繰り返し」
さて、また地道な削り作業の始まりだ。




