3話 素とは
翌日。
「よぉ蓮司」
朝っぱらからハルトが俺の背中に飛び乗ってくる。
「お前いつ素の自分を出すんだよ」
「朝からなんだ」
「いやーだって白瀬には一度も素のお前見せてないだろ?」
「見せる意味がない」
「素のお前を白瀬に見せたら戸惑うんじゃないのか?」
「じゃあ朝っぱらからおはヨガのポーズ!とか言うのか?」
「馬鹿か。そんなことしたらただの変人だろ」
ハァ、とハルトが溜息をつく。
「それと蓮司。これを見ろ」
ハルトがスマホを出し画面を見せる。
そこにはSNSにアップされた彼氏とデートなう~(⋈◍>◡<◍)。✧♡と書かれたページがのっていた。
「顔こそはのってないが彼氏がいると宣伝してるようなもんだ」
「は?アイス500円?」
蓮司はその写真の奥にあるアイスの値段票を見る。
「たかがアイス一個でうどん一杯分だと。まさかあいつ俺とアイスを食ったていう既成事実を作って割り勘せさるつもりか?どこまでも腐った奴だなおい。しかもおまけに(⋈◍>◡<◍)。✧♡マークまでつけやがって」
「……そこかよ! 衝撃を受けるポイントがズレてんだよお前は!」
ハルトがまじかこいつといわんばかりの表情でおでこに手を当てる。
「大丈夫だハルト。俺は昨日妹から少女漫画を借りて見て学んだ」
「は?少女漫画?そりゃどういう………」
「おはよ。彼氏君」
ハルトの言葉を遮るように白瀬が登場する。
一発やったるか。素でな。
妹の少女漫画の出番だ!
瞳の奥から一切の光を消し去り、天を仰ぐようなポーズをとった。
「あぁ、おはよう。僕の子猫ちゃん♡」
死んだ魚のような目と裏声で言う。
「え?」
「は?」
ハルトと白瀬が同時に困惑する。
「昨日の夜君のことを思い出して枕を濡らしてしまったよ。寂しくてね。あぁもちろんパンツも濡らしてしまったがね。息子を慰めていたのだよっ!」
「ぶっひゃひゃひゃひゃ」
ハルトが腹を抱えて笑い出す。
「ちょ、おまっ、素でとはいったが出しすぎだろ!しかも目死んでるし!」
ハルトは笑い転げる。
「最後は少女マンガじゃないだろww」
ハルトはヒィヒィ言いながらも爆笑している。
「ん?どうしたマイ・ハニー。顔色が悪いが?あぁ、おはようのキスが足りないって?もう、本当に可愛いな」
誰もいないことをいいことに好き放題言う蓮司。
白瀬は、生まれて初めて「本物の化け物」に出会ったかのような顔で、一歩後ずさった。
蓮司は白瀬に顔を近づける。
「……っつ!変態!」
白瀬は蓮司の顔を思いっきりビンタする。
「おっと!」
蓮司はそれを難なくかわす。
「危なっ」
「知らない!」
誰もいない早朝の靴箱。
そこには完全に蓮司のペースに乗せられ乱された白瀬となんでビンタされたか理解できない蓮司の姿がそこにあった。
「なんだあいつ」
「今回はお前の勝ちだな蓮司」
笑いのツボからようやく抜けたのかハルトが立ち上がり肩に手を乗せる。
「勝った・・・のか?」
「あぁ、完全にお前の勝ちだ。にしてもお前、あれはないわー」
またハルトが笑い出す。
一体何が面白いのか。
笑うハルトと困惑する蓮司という正反対の状態の二人は教室まで行くのに時間がかかった。
教室。
クラスは生徒で溢れ返っており男子からは嫉妬の視線が飛んでくる。
朝から嫉妬の視線を浴びる俺の気持ちにもなってくれ。
席に着く。白瀬は俺を睨み前を向く。
「朝のことだけど。あれは何だったの?精神的な揺さぶりが目的なわけ?」
「違う。ただ少女漫画で仕入れた知識とハルトの助言を実行したまでだ」
「はぁ?ハルト、あなたのせいなの?」
白瀬はハルトを睨む。
「俺じゃないよ。確かに助言はしたけどそれを勝手に改変して君に伝えたのは蓮司自身だ」
睨みに怯みもせず淡々と述べる。
「ふ~ん」
白瀬は納得のいかない表情だ。
「ちょっといいでしょうか」
突如クラスのドアが開き誰かが教室に入ってくる。
昨日の昼休みに俺たちのところに訪れた彼女だ。
「白瀬さんはいるでしょうか?」
「いるよ~」
「白瀬ちゃん。お客さんだよ」
クラスの奴らが対応する。
「呼ばれてんぞ。お仲間さんにな」
「わかってる」
さっきまでの表情はどこへやら。冷徹な顔がそこにある。
白瀬は彼女のもとに行きなにか少し話した後何処かへ行った。
その彼女は立ち去る前に俺の方を見た。その瞳には昨日のような明るい光はなく只々底が見えない闇が広がっていた。
「蓮司。そういえば彼女の名前、静って言うらしいぞ」
「静、確か白瀬の4か月前に来た転校生か」
「あぁ、まさか繋がりがあったとは」
「何か仕掛けてくるかもしれないな」
「そうだな。気を付けよう」
でもなぜ今静は白瀬を呼びに来た?
もう俺たちにばれたことが分かってるのか?
「おい蓮司」
白瀬の案内役をした男子が俺を呼びつける。
「なんだ」
「透かした顔しやがって。白瀬ちゃんは本当にお前に告白したのか?さっきもお前と仲がよさそうには見えなかった。お前が白瀬ちゃんを脅してるんじゃないのか?」
「虚言だな。俺がそんなことして何のメリットがある」
「お前!」
俺の机を蹴り飛ばし胸ぐらを掴む。
「白瀬ちゃんに何かしてみろ。俺がただじゃ済ませないぞ」
「脅し、必要のない暴力は校則違反だぞ」
「そういう問題じゃ………」
その時教室の扉が開く。
白瀬が帰ってきたようだ。
「何してるの?松田君」
へぇ、こいつは松田っていうのか。
「白瀬ちゃん!蓮司に脅されてるんじゃないのか?」
さぁ、ここでどう返す?白瀬。
そこで頷いて退学させることもできるだろう?
「違うよ!私は本当に蓮司君のことが好きなの。だから蓮司君を放してあげて?」
白瀬は胸の前に手を組み優しく松田に言う。
「で、でも」
「松田君?」
少し声のトーンが下がる。
「わ、わかったよ」
俺の胸ぐらを乱暴に放す。
「蓮司。白瀬ちゃんに何かしたら、わかってるな」
それだけを言い残し自分の席に戻る。
クラスのみんなは怪訝そうに俺を見ている。
白瀬が俺の蹴り飛ばされた机を戻す。
「・・・」
無言で机を元の位置に戻し席に座る。
「なにしたの」
声のトーンは低く普通の人が聞いたら怯えるほどだ。
「なにも。松田が勝手に勘違いして怒りだしただけだ」
「次はないから」
その声に朝までの動揺は微塵もなく獲物を追い詰めるハンターのそれだった。
この話以降は週に一回投稿を目指しています。ここまで読んでくださった読者様に精一杯の感謝を。




