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9. 歯噛み
どんより雲った春先のこと。
領地から下働きの者が馬を飛ばして城へやって来た。
両親が事故に遭った。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
事情を知った王弟殿下が、すぐに領地までの馬車を手配してくださった。
家へ着いた私を待っていたのは、二つの棺だった。
お父様とお母様が、並んで眠っている。
我が家にあるのは、屋根もない古びた荷車だけ。
農作物を運ぶためのもので、とても貴族の乗り物とは呼べない。
私はずっと、給金を貯めていた。
――次は、立派な馬車を買おう。
そう決めていた。
けれど、間に合わなかった。
山間の悪路で馬が足を取られ、荷車が大きく傾いたという。
お母様が投げ出され、お父様は咄嗟にその身体を庇った。
二人は、そのまま岩肌を転げ落ちた。
領民が駆けつけた時には、もう息がなかった。
あと少しだった。
あと少しで、馬車を買えるだけのお金が貯まったのに。
もっと頑丈な馬車だったなら。
屋根のある馬車だったなら。
二人は今も、ここにいたのではないか。
「……あと少しだったのに」
私は唇を強く噛み締めた。




