6. 気付き
一か月ほど経った頃には、あれほど散乱していた書類の山もすっかり姿を消していた。
書架には領地ごと、年度ごとに資料を収め、不要なものは破棄。
未確認の書類だけは、すぐ分かるよう箱にまとめてある。
王弟殿下は、そんな変化にも気付かないまま、毎日黙々と仕事を続けていた。
ある日のこと。
書類をめくっていた殿下が、ふと手を止める。
「……三年前のユグリス領の海産物の売上は、どうだったかな」
書類から目を離さないまま、独りごちる。
私は書架から一冊抜き取り、殿下の机へ差し出した。
「こちらです」
「――うわっ!」
殿下が椅子ごと仰け反った。
そして、初めてまともに私の顔を見る。
「誰だ! 君は」
(今、お気づきになったの?)
「先月から配属されております、エレノア・ハワードです。どうぞ」
「あ、ああ……ありがとう」
殿下は訝しげな顔のまま資料を受け取り、中を確認した。
数枚めくったところで、今度は床を見渡す。
(あれ、ないぞ。あんなにあった書類が。どこいった?)
王弟殿下はあたりをきょろきょろと見回し、ふと書架に気付いた。
領地ごとに並んだ背表紙。
箱に収められた未確認書類。
床を埋め尽くしていた紙の山は、もうどこにもない。
「……書類が全部片付いてる」
「ええ。こちらが領地別、こちらが年度別です。未確認のものは、あちらにまとめてあります」
殿下は書架へ目をやり、それからもう一度、部屋を見渡した。
「こちらに配属されて、一か月もありましたので。片付けさせていただきました」
「……一か月で?」
「はい。一か月で」
「…………」
そこで改めて、殿下は私の顔をまじまじと見た。
「……エレノア・ハワード、だったな」
「はい」
殿下は小さく頷き、再び書類へ目を落とした。




