46.酒癖の悪さ
夜の帳が降り、雪が降り始めていた。
そのまま雪崩れ込むように、王弟殿下には我が家へ泊まっていただくことになった。
夕食も終わり、せっかくだからと酒を出してみる。
今まで、殿下がお酒を飲む姿など見たことがなかった。
ところが――。
「殿下、随分と早くありません?」
「問題ない」
……問題ありそうな速さで飲んでいる。
一杯。
二杯。
三杯。
(これは……酒の力を借りるつもりね)
案の定、酔いが回り始めると、普段は口数の少ない殿下が急に饒舌になった。
「エレノア嬢は、本当に仕事ができた」
「はい」
「資料を頼めばすぐに出てくる。私が忘れていることまで覚えている」
「はい」
「気配りも完璧だった。休憩まで無理やり取らされたが、あれも正しかった」
「はい」
そこからも、話は延々と続いた。
エレノア嬢がどれほど優秀だったか。
エレノア嬢がどれほど仕事を助けてくれたか。
エレノア嬢がいなくなって、どれほど仕事が滞ったか。
(……なんだか、この語り口。昼間の国王陛下とそっくりね)
さすが兄弟。
私は少し可笑しくなって、微笑ましくその様子を眺めていた。
すると突然、殿下の声が小さくなった。
「……それから」
「はい?」
長い沈黙。
やがて、絞り出すような声が落ちた。
「エレノア嬢がいなくなって……どんなに寂しかったか……」
「…………」
それ以上、言葉は続かなかった。
すう、と静かな寝息が聞こえてくる。
「……殿下?」
寝ている。
私はしばらく、その寝顔を見つめていた。
岩山から吹き下ろす冷たい北風が、屋敷の窓をがたがたと揺らしていた。




