4. 大抜擢?
私の上司は、宮廷で「氷の門番」と呼ばれている。
王弟殿下。
監査室の責任者であり、領地から提出された決算書に不審な点があれば、容赦なく突き返す。
農作物の収穫量をごまかしている。
帳簿の数字が、ほんの少し噛み合わない。
それだけで監査官が現地へ向かう。
横領の証拠でも出ようものなら、そのまま裁判にかけられる。
「王弟殿下の目をごまかせると思うな」
官吏たちの間では、そんな言葉まで囁かれていた。
国王陛下もまた、王弟殿下の判断を全面的に支持している。
この兄弟が手を組み、長く腐敗していた国の財政を立て直したのだ。
そんな王弟殿下の補佐役に――
なぜか、私が選ばれた。
栄誉ある大抜擢。
……と言えば、聞こえはいい。
実際には、ほとんど押しつけだった。
王弟殿下の隣では、人が続かない。
一日で辞めた者。
数日で姿を消した者。
仕事に手を出して叱責され、そのまま二度と戻らなかった者。
それでも、王族を一人きりで働かせるわけにはいかない。
「せめて一人、補佐を置け」
官吏たちの意地と体面だけで、その席は残されていたらしい。
そして今回。
その空席が、私に回ってきた。
私は辞令を見つめ、小さく息を吐いた。
どうやら、とんでもない場所へ配属されたらしい。
でも――絶対に辞めない。




