36. ざまぁ
俺はその足で、エレノアのぼろ屋敷へ向かった。
もう、なりふりなど構っていられない。
「おい、エレノア!」
執務室へ踏み込む。
「どうなってる。鉱山はどこだ!」
エレノアは目を瞬かせた。
「……なんのことかしら?」
「とぼけるな! お前、この部屋で言っていただろう。鉱山が見つかったと!」
「ああ……」
エレノアはようやく思い出したように、ぽんと手を打った。
「もしかして、あれ?」
「そうだ!」
「一攫千金を題材にした、出し物の台本を書いていたのよ」
「…………は?」
「鉱山を見つけた令嬢が、大喜びするお話」
エレノアは不思議そうに首を傾げた。
「……あら? でも、どうしてカイル様が知っているの?」
「…………」
頭の中に、あの地図が浮かぶ。
丸印のついた地図。
だが――。
それを口にすることはできない。
あの地図を見たと知られれば、勝手に引き出しを開けたことまで話さなければならなくなる。
「くそっ……!」
もう、どうでもいい。
「だったら、俺が今までやったものを全部返せ!」
エレノアの眉が、ぴくりと上がった。
「まあ。一度女性へ贈ったものを返せとおっしゃるの?」
扇で口元を隠す。
「ぷっ……情けない」
「お前――!」
頭に血が上った。
反射的に手を振り上げる。
だが、その手がエレノアの頬へ届くことはなかった。
「――っ!」
手首に鋭い痛みが走る。
振り返ると、いつの間にか背後に一人の男が立っていた。
背の高い、大柄な男だった。
白い騎士服に身を包み、俺の腕を片手で軽々と押さえている。
冷たい眼差しが、まっすぐ俺を射抜いた。
「女性に手を上げるおつもりですか」
低く落ち着いた声だった。
「誰だ、お前は!」
「王命により、こちらの警護を任されております」
「……は?」
「詳しいお話は、こちらで伺いましょう」
「待て! 俺は伯爵家の――」
「参りましょう」
抵抗する隙さえ与えられず、そのまま屋敷の外へ連れ出された。




