27.あなたの財布溶かします。
店員が扉を開くと、店内にはいくつものショーケースが並び、色とりどりの宝石が煌めいていた。
私はカイルの腕からすっと離れ、楽しそうに店内を見て回る。
一方のカイルは、他のショーケースには目もくれず、迷うことなく一角へ向かった。
「おい、エレノア。こっち――」
「カイル様、来て!」
私はその言葉を遮った。
「あなたの瞳と同じ色の宝石があるわ。見て頂戴」
店員がすかさずショーケースを開ける。
「さすがお目が高い。こちらは上質なブルーサファイアでございます。我が国にはなかなか入ってこない逸品でして」
店員はちらりとカイルを見た。
(なるほど。こちらのお嬢様が本命ですか)
これまで領主の息子がこの店で求めるものといえば、随分と手頃な品ばかりだった。
「まあ、素敵です。お嬢様によくお似合いになりますよ」
「本当?」
私はうっとりした顔を作った。
正直、カイルの瞳と同じ色の宝石など、触るのも嫌だけれど。
「まるで……カイル様に包まれているみたい……」
「きゃっ。私ったら、はしたない」
扇で顔を隠す。
よし。
これなら顔が引きつっていても分からない。
「ねえ、カイル様。どうかしら?」
カイルの頬がわずかに引きつった。
(待て待て。何が『どうかしら』だ)
本命のヴァネッサにさえ、今はイミテーションの安物しか買ってやっていない。
それなのに、こんな高価なサファイアを――。
カイルが周囲を見る。
店員たちは皆、にこやかな笑顔でこちらを見ていた。
その手は、今にも包装を始めそうなほど準備万端だ。
(くそ……領主の息子が、ここで「買えない」とは言いにくいじゃないか)
沈黙が続く。
店員たちの期待に満ちた視線が、カイルへ集中した。
やがて彼は、絞り出すように言った。
「……エレノアにぴったりだ」
一度、大きく息を吸う。
「それを包んでくれ」
「かしこまりました!」
店員たちの声が、一斉に弾んだ。
カイルには、その声が財布の中身が溶けていく音に聞こえた。




