20. ヴァネッサ
カイルと出会ったのは、王都の酒場だった。
「ねえ、さっきから見すぎ」
「え?」
「私のことよ」
豊かな胸元に、細い腰。
にっこり笑って隣へ座ると、カイルはすぐに頬を緩めた。
貴族の男なんて初めてだった。
気取っているけれど、扱いやすい。
欲しいと言えば、宝石もドレスも買ってくれる。
ある日、カイルにもらった宝石を男に見せた。
「お前、これ偽物だぞ」
「え?」
「伯爵家の坊ちゃんなんだろ? 騙されてんじゃねえか。さっさと本物を買わせてこい」
腹が立った。
私はすぐにカイルのもとへ向かった。
「カイル! どういうことよ!」
「ヴァ、ヴァネッサ?」
「私を騙したのね! もう別れる!」
「待ってくれ!」
カイルが慌てて私の腕を掴む。
「もうすぐ金が入るんだ!」
「……お金?」
「鉱山だ。大きな鉱山が手に入る」
「鉱山?」
「手に入れば、本物の宝石だってドレスだって、好きなだけ買ってやる」
「……本当?」
私はそっとカイルの頬に手を添えた。
指を首筋へ滑らせ、そのまま胸板をつう、と撫でる。
「じゃあ……信じてあげる」
カイルの顔が、見る間に緩んだ。
馬鹿な男。
けれど――。
伯爵夫人。
その響きは、悪くなかった。
そして、あの日。
城の馬車乗り場で、見覚えのある古びた荷車を見つけた。
エレノアのものだ。
エレノアがいなくなれば、鉱山はカイルのもの。
カイルのものなら、私のもの。
「ふふふ……」
周囲を見回す。
誰もいない。
私はそっと荷車へ近づいた。
そして――。
車輪へ細工をした。




