18.カイルの本心
本当に、あの女は昔からムカつく。
月に一度ほど、貧乏臭い荷車に乗って我が家へやって来る。
本を買う金もないらしく、父親が「娘に本を貸してほしい」と頼みに来るのだ。
そのたびに、あいつは分厚い本を何冊も抱えて帰っていく。
読みもしないくせに、これ見よがしに借りていくな。
しかも、わざわざ父上の目につくところを通る。
父上とあいつの父親は昔から仲が良く、俺にも「エレノアとは仲良くしろ」と何度も言ってきた。
そして、あいつが帰った後には決まってこうだ。
「エレノア嬢は、お前と一つしか違わない。それなのに、もうあれだけ理解している」
また説教。
うんざりだった。
貧乏人の娘が少し勉強できたところで、何になる。
着ているものだって貧乏臭い。
大した顔でもない。
勉強しか取り柄がない女じゃないか。
それなのに――。
俺は官吏の採用試験に落ちた。
あいつは受かった。
また父上の長い説教が始まった。
特待生。首席。官吏。
あいつの名前を聞くたびに、父上は俺を見る。
本当に、鬱陶しい。
そんな日々に、ようやく転機が訪れた。
エレノアの両親が死んだらしい。
あの女が、随分と落ち込んでいるという。
いつも何でもできるような顔をしていたくせに。
父上からは、
「隣領なのだから、しばらく気にかけてやれ」
と言われた。
……いいことを思いついた。
優しくしてやろう。
あいつが俺を好きになるくらいには。
そして、その気になったところで捨ててやる。
男児のいないあの家は、このままならいずれ爵位を失う。
あんな価値のない領地など、どうせ最後には我が家のものになる。
そうだ。
それくらいの仕返しは、許されるだろう。




