16. 裏切り
ある朝、宮廷から官吏が訪れた。
差し出されたのは、一通の勅令書。
――即刻、登城せよ。
理由は何も書かれていない。
胸騒ぎを覚えながら、私は慌てて荷車へ乗り込み、城へと向かった。
到着すると、待っていた官吏にそのまま城内へ案内される。
長い廊下を進み、やがて足が止まった。
「こちらです」
扉を見上げ、私は息を呑んだ。
監査室。
久しぶりに訪れる、かつて私が働いていた場所だった。
扉を開ける。
そこにいたのは、王弟殿下とカイル様だった。
あまりに予想外の光景に、思わず足が止まった。
「こちらへ参れ」
王弟殿下に促され、おずおずと部屋へ入る。
見慣れた黒檀の机。
ふと右を見る。
かつて私が使っていた机は、誰にも使われることなく、空席のまま残されていた。
「なぜ呼ばれたか、分かるか?」
「……分かりません」
ごくりと唾を飲み込む。
指先が、少しずつ冷たくなっていく。
「これを見たまえ」
十数枚の書類が、机の上に置かれた。
私はすぐに手に取り、目を走らせる。
一枚。
二枚。
三枚――。
息が止まりそうになった。
完璧だった。
脱税だと判断されても、何もおかしくない。
数字も。
書類同士の辻褄も。
すべて合っている。
ただ一つ。
私は、こんなことをしていない。
「カイル・グレンヴィルが上申してきた」
王弟殿下が低い声で言った。
「エレノアの領地の帳簿を確認していたところ、不審な点を見つけたそうだ。過去の帳簿まで調べた結果、脱税が行われていたと」
私はカイル様を見る。
けれど、彼は何も言わなかった。
「我が国で脱税がどれほど重い罪か……君なら知っているはずだろう」
王弟殿下の声が、わずかに震えた。
「それなのに、なぜ……」
「していません」
思わず言葉を遮った。
「私は脱税などしていません。信じてください」
「なら、これは何だ!」
王弟殿下の手が、机の上の書類を払った。
白い紙が、ばさばさと音を立てて床へ散らばる。
「すべてが……君がやったと示している……!」




