12. グレンヴィル伯爵家カイル
悲しみに暮れている暇はなかった。
私には、妹たちと領地を守る責任がある。
喪が明けると、私はこれまで避け続けていた夜会へ足を運ぶようになった。
慣れないドレスに身を包み、煌びやかな会場の隅で所在なく立っていると、不意に聞き覚えのある声がした。
「もしかして、エレノア?」
振り返り、私は目を見開いた。
「……カイル様?」
隣領を治めるグレンヴィル伯爵家の嫡男、カイル様。
幼い頃、父に連れられて何度も隣領を訪れ、そのたびに顔を合わせていた幼馴染だった。
少年の頃の面影を残しながらも、背は随分と高くなり、精悍な青年へと成長している。
「久しぶりだな」
そう言って笑った。
その笑顔だけは、昔と少しも変わっていなかった。
カイル様は、両親を亡くした私に寄り添い、親身になって話を聞いてくれた。
「つらかったね……。もう大丈夫。僕がいるから」
その言葉が、ひどく優しく聞こえた。
暇を見つけては、足繁く私のもとへ通ってくれる。
幼い頃から抱いていた淡い憧れが、恋へと変わるのに時間はかからなかった。
私は、疲れていたのかもしれない。
家族のために勉強して、働いて、お金を送り続けてきた。
両親を亡くしてからは、妹たちと領地を守らなければと、ずっと気を張っていた。
そんな私に、カイル様は言った。
「もう、一人で頑張らなくていいんだよ」
差し出された手を、そっと握る。
父以外の男性と手を繋いだのは、初めてだった。
温かい。
その温もりに触れただけで、張り詰めていたものが、少しずつほどけていくようだった。




