エピソード5
【それじゃあ明日は12時に駅のロータリー集合ね!!】
【了解。】
【遅刻したらお昼ご飯ご馳走してね!】
【善処します、、、】
御子柴さんと連絡先を交換してから数日。色々あって俺は御子柴さんの買い物に付き合うことになった。
最初は断っていたのだが"学校では"自重してくれと頼んだことが裏目に出てしまったようで、俺は遂に学校外で遊ぶ約束を取り付けてしまった。幸い遊びに行く用の服は揃えてあるのでそれを着ていく予定だがあの超絶美少女の横に立って違和感がないか前日から割とそわそわしている。
そんなこんなでセルフファッションショーをしているとスマホの着信音がリビングに響いた。
「御子柴さんかな?さっきまでメッセージでやりとりしてたのに」
そう思いながらスマホの画面を覗くとそこには懐かしい名前が表示されていた。俺はその名前を見てすぐにスマホを取り通話画面に切り替えた。
「よ!久しぶりだな、陽太郎!!」
「吏月!!久しぶり!!急にどうしたんだよ!!」
藤峰吏月。幼稚園からの幼馴染で現在はドイツに留学中のスポーツエリートだ。身長も高く顔も良いため昔から男女問わず友達が多い奴だった。そんな吏月から急な着信。留学先で何かあったのだろうか。
「今帰国しててさ、来月からお前のとこに編入するからその挨拶だ!またよろしくな、陽太郎!!」
「マジか!!でも結構早くないか?まだ数ヶ月しか経ってないけど」
「それが向こうで色々あって緊急帰国になっちまったのよ。だからこのタイミングで母国に帰還しようかと!」
「まさかホームシックか?お前に限ってそれはないと思うけど」
「ないない!それでお前の学校のこと少し教えて欲しいんだけど明日とか時間あるか?」
明日は御子柴さんとのデート、、、買い物だがせっかく帰ってきた幼馴染の為に時間を空けてやりたい気持ちもある。
「明日なら19時くらいから大丈夫だぞ。うちの住所送るから来てもらっても良いか?」
「もちろん!!じゃあ明日よろしくな!!ありがとう!!」
そういうとブチっと電話が切れた。まだ帰国したてでバタバタしているのだろう。
こうして俺の週末は珍しく予定で埋められたのだった。
翌日。俺は身支度を済ませて鏡の前に立っていた。学校ではモサいモブを保っているが偶の休みくらいカッコつけてみても問題はないだろう。むしろこうする方が万が一学校の人間にあっても気付かれにくいと思う。
クラスのモブが御子柴さんみたいな陽キャ美少女と休日デートしている姿なんか見られようものなら次の週学校でどんな視線を浴びるか分からない。
とりあえずいつもと違う武装した姿を確認した俺は約束の12時より少し前に着くように家を出た。
駅のロータリーに着くと御子柴さんの姿がすぐ目に飛び込んできた。ジーンズ生地のショートパンツに丈の短いTシャツ、鍔の折れたキャップを深めに被った姿はまるでこれからの季節を感じさせるような装いだ。
御子柴さんは俺に気がつくとパッと表情を明るくして大きく手を振った。
「遅くなってごめんね。どのくらい待った?」
「全然今さっき着いたばっかりだよ!!それより卯月くんもまだ20分前だよ?!早くない?!」
「なんていうか、家にいても落ち着かなくて早めに家を出てきたんだよ。」
すると御子柴さんがいつもの悪戯っぽい表情でニヤつき始めた。
「へ〜!そんなに私とのデート、楽しみにしてくれてたんだ〜。」
また始まったよこれ。御子柴さんは相変わらずいつもこうして揶揄ってくるのだ。
「デ、デートじゃなくて買い物ね? ほら、良いからさっさと行こう」
そうして俺たちは電車を乗り継いで休日の都会に繰り出した。
向かった先はこの辺りで1番大きなショッピングモール。洋服からグルメ、ゲームセンターに雑貨屋などいろんなショップが並んでいる。土曜日ということもあり中々に人が多い。
「ねーねー卯月くん!今日は人が多いからはぐれちゃいそうだねー?」
「土曜日だし確かに人がたくさんだね。」
「、、、」
「え?」
「はぐれちゃいそうだな〜」
「うん、ちゃんと見失わないようにするよ」
「、、、ばーか。」
「えっと、俺なんかした?」
すると御子柴さんは頬を膨らませながら俺の手手首をぐっと掴んできた。
「何もしてくれないからばーかって事!!!」
自分の行動に照れているのか少し俯きながら俺の腕をブンブン振り回す御子柴さん。正直めちゃくちゃ可愛い。可愛いは暴力っていうのはこういう事なんだと俺は実感した。
「わかった!手、繋ぐから腕をブンブンしないでくれ!!」
「もー最初からそうして!!」
そうして俺は御子柴さんの手を取り人混みの中を歩き始めた。
しばらくいろいろな店を回ってから御子柴さんのお目当ての洋服店に到着した。店内には同年代くらいのカップルから仲良しグループまでいろんなお客さんがショッピングを楽しんでいる様子が見える。
「卯月くん!!このワンピース可愛くない?!」
「夏っぽくて良いと思う。」
「見てみて!!このTシャツも可愛い!!ちょっと試着してみる!!こっち来て!!」
「お、楽しみだな。」
女子と2人で出かけたことなんて更々無い俺はどういう反応が正解なのか分からないので相変わらず当たり障りのないことを言って誤魔化している。内心は凄く似合いそうとか、可愛いという感想が溢れているがそれを口に出すのはどうも今の俺にはハードルが高いのだ。
「着替えたよ〜。じゃじゃーん!」
着替え終えた御子柴さんが試着室の扉を開けるとそこにはいつも以上に可愛く見える彼女の姿があった。
学校では制服なので私服姿を見たのは今日が初めてだけど、さっきまで着ていた服とはまた違った雰囲気を感じる。さっきまでが元気ハツラツ系だとしたら今の御子柴さんは渚のお嬢さん系とでも言うような装いだ。
無論、どちらも似合っていて可愛いとか美しいとかそんな言葉じゃ片付けられないほどのものである。
そうしてすっかり見惚れていると御子柴さんが催促するように感想は?と聞いてきた。
「すごくよく似合ってるよ。」
「本当に?!じゃあこれ買う!!」
「ずいぶん即決だね、、、」
「だって卯月くんが似合ってるって言ってくれたからだもん!次のデートで着て行くね!!」
「違っ、だからデートじゃないって!!」
思わず突っ込んでしまったがその様子が面白かったのか御子柴さんはケラケラと笑いながら試着室に戻って行った。
それからはゲームセンターでクレーンゲームをしたりフードコートに併設されているオムライス屋さんでガッツリ食事をしたり俺の服を御子柴さんが選んでくれたりであっという間に夕方になった。
「もうそろそろ夜だね〜。卯月くん今日晩御飯はどうする?」
「今日の夜は幼馴染が来るから何か作ろうと思ってるよ。」
「そっかぁ。作りに行こうと思ったけど流石に遠慮しとく!また今度、ご飯作りに行っても良い?」
御子柴さんの少し寂しそうな表情に感化されて俺まで寂しくなってきた。今日は楽しい1日だった。御子柴さんに振り回されると思っていたけど案外自分もノリノリで楽しんでいたと思う。そしてそんな今日がもう終わってしまうと考えると何故だか寂しさを覚えてしまうようだ。
少し考えて俺はある決断をした。
「その幼馴染なんだけど、実は来月からうちに転校してくるんだ。今日は久しぶりに会って学校のことを色々教える予定なんだけど、もし嫌じゃなかったら御子柴さんも一緒にどうかな?」
すると御子柴さんはパッと表情を明るくして首を縦にブンブン振った。
「え!!いいの!!ていうか転校生くるんだ!!じゃあお言葉に甘えてお邪魔しちゃおうかな〜」
めちゃくちゃ楽しそう。尻尾が生えてたら今頃ブンブン振ってるんだろうな。なんてことを考えながら吏月の許可を貰って御子柴さんを家に連れて帰ることにした。
帰り道、気がつくと俺たちは自然と手を繋いで歩いていた。最初は少し気恥ずかしさがあったけれど、1日を通してお互いすっかり慣れてしまったみたいだ。
卯月くんのご飯が食べられる〜なんて呑気に浮かれている彼女を見てこんなのも悪くないな、なんて思ってしまったことは心にしまって置くことにして。
またまた今日も長い夜が始まりそうだ。




