エピソード4
御子柴さんとの一件から数日が経過した。
俺としては今のところいつもとなんら変わりなく落ち着いた学校生活を貫いているつもりなのだが一つだけ変わったことがある。
「卯月くんおはよ〜。」
「卯月くんお昼どこで食べる?一緒に食べよーよ!」
「卯月くん!放課後空いてたらちょっと付き合ってよ!!」
御子柴さんが毎日のように話しかけてくるようになったのだ。人気者の彼女が俺みたいなモブに話しかけている光景は物珍しさの極みでクラスメイトたちはヒソヒソと様子を伺っているみたいだ。
「御子柴さん、あんなに卯月くんと仲良かったっけ?」
「卯月も悪い奴じゃないんだけどなんか羨ましくて妬けてくわ、、、」
「おい卯月、そこ俺と代われ!!」
幸いなことに人畜無害を貫いているのでクラスメイトからはそこまでの反感を買っていないようだけど、こうなると少し居心地の悪さを感じてしまう。決して誰とも関わりたくないわけではないので話しかけられる分には問題ないのだが相手が少し悪いのだ。
そんな状況は放課後も変わらずで。
終業のホームルームが終わり足早に席を立つと俺が教室を出る前に待ち構えていた御子柴さんに捕まった。
「卯月くん!どう?今日は放課後空いてる?」
「あの、御子柴さん。話しかけてくれるのはすごく嬉しいんだけど、学校では少し控えめにお願いしたいんだ。ごめんね。」
すると御子柴さんはきょとんとした表情で肩を落とした。流石に言い過ぎたかな。そんな彼女の姿を見かねて俺は弁明を図ろうとしたのだが。
「この前は卯月くんのお家で夜ご飯作って一緒に食べた仲なのに、、、」
割とクラスに聞こえるような声で衝撃カミングアウトをカマす御子柴さん。するとクラス中の視線が一気に俺に注がれた。
「おいおい卯月、お前まさか、、、」
「御子柴さんの、、、手料理を、、、」
「なんだそれ!!まるで通い妻じゃねえか!!!」
矢のように飛んでくる視線がすごーく痛く感じるが一旦それは置いといて俺は慌てて御子柴さんの手を引いて屋上へと向かった。
「ちょっと御子柴さん!!絶対あれクラス中に聞こえてたでしょ?!」
御子柴さんは悪戯っぽく舌を出してあっかんべーのポーズを決めた。
「だって卯月くんが全然構ってくれないんだもん!!」
「なんで俺みたいなインキャにいちいち構うの?!つい最近までヨッ友ですら無かったのに?!」
「だってあの日の夜とっても楽し過ぎて濃厚な時間を過ごして、もっともっと卯月くんのこと知りたくなっちゃったんだもん!」
「いや言い方!!それ誤解生むから!!」
「だってだって私たちもう"友達"でしょ!あの夜分かりあった仲なんだから!!」
俺はもう諦めた。御子柴さん、多分こうなるともう止められないっぽい。
「分かった!友達だからせめて学校の間だけはちょっと自重してくれると助かる!!」
俺が仕方なく妥協案を出すと御子柴さんの表情がパァっと明るくなった。こういう犬っぽいところが人気の秘訣なんだろうなぁ。
「じゃあ学校以外ではずっと構うからね!お家帰ってからメッセージたくさん送っちゃうよ?あ!電話もしちゃおうかな〜」
「分かったよ。全然それで良いけど学校ではほんと気を付けて!じゃないと俺が危ないから!」
毎日こんな感じでベタベタ構われたらいつか刺されてもおかしくはないだろう。
そして奇跡的に御子柴さんの連絡先を持ってなかったということを思い出してこの勢いでそのまま解散しようと屋上の扉に向かって進もうとした時、御子柴さんがササッと両手を広げて帰さんとばかりに通せんぼしてきた。
「そういえば卯月くんの連絡先持ってなかったよーな気がするんだけど気のせいかなー?」
またさっきの悪戯っぽい顔に戻っている御子柴さんを見て俺は観念して連絡先を交換するのだった。
当然、家に帰ってから致死量のメッセージが送られてきたことは言うまでもないだろう。
今日もまた長い夜が始まりそうだ。




