エピソード11
それから何日か経ち土曜日。
駅前で親友と待ち合わせて向かった先は吏月行きつけの美容室。
最近は男子でも美容室に通うのが定番らしいけど、思い返せば最後に人に切ってもらったのはいつだったか。むしろこれまでは家の近所の床屋さんか自分で切っていたから髪型にこだわったことなんてほとんどなかったような。
「すげえ、、、お前毎回こんなとこで髪切ってもらってんのか、、、」
外からガラス越しに見える店内ではおしゃれな美容師さんたちがせっせと手を動かしたりお客さんと談笑したりしている。
そんな様子を見ながら俺は少しビビりつつ扉に手を掛けた。
からんからん。
扉が開くと同時にシャンプーや整髪料のいい香りがふわりと漂ってくる。
「ショウさん、お久しぶりです!」
「やあ!リツくん、帰ってきてたのか!!」
この人が今日担当してくれるという美容師さん。いつも吏月を担当してくれていて、どうやらメンズカット全国一位を3年連続で受賞している正真正銘のプロフェッショナルらしい。
俺は緊張の面持ちできっちりと挨拶をこなした。
「予約の卯月です!よろしくお願いします!」
「ショウさん!コイツ今日は人生変えるつもりでイメチェンしにきたんでガッツリいい感じにしちゃってください!!」
「卯月くん、初めまして!渚崎ショウです。吏月くんの言うとおりなら任せて!!僕が世界一のイケメンに仕上げてあげるよ!」
ずいぶん気合が入ったショウさんと簡単な挨拶(吏月のは余計だけど)を終えた後、軽くシャワーで頭を流してから席へと案内された。
「あの、俺今まで床屋さんしか行ったことなくて、、、美容室って席の前に洗面台がないんですね!!」
「あぁ!あれね!床屋さんはあのスタイルが多いけど美容室は基本的には独立してることが多いかなぁ。」
今時のオシャレ美容室って凄いな。
そしてしばらくショウさんにどんな髪型にするかカウンセリングをしてもらって遂にカットが始まった。
時間にして約1時間。カットからスタイリングまで終えた俺は鏡を見て驚いた。
先程までは鼻先まで伸びた前髪でどこか薄暗い印象だったはずの俺が今時のオシャレ男子のような無造作ヘアに大変身していたのだ。髪型だけならティーンに人気の恋リアに出てきそうな感じがする。
そして驚いているのは俺だけではなかった。
「お前本当に陽太郎か、、、? スポーツ刈り、モサ男、、、そんで次は恋リア???」
「僕も驚いたよ、、、自分でやっておいて可笑しいかもしれないけど過去1のデキかも、、、」
吏月と、何故か切ってくれたショウさん本人まで俺の変貌ぶりに驚きを隠せない様子だ。
「めちゃくちゃ気に入りました!!俺じゃないみたいです、、、!!」
そういうとショウさんは何か思いついたように徐にスマホを出して俺の髪型の写真を撮り始めた。
パシャリパシャリといろんな角度から撮影されているのでハシビロコウ並の動じない精神でその様子を見守る。
そして一通り撮り終えたショウさんが息を整えながらゆっくりと話し始めた。呼吸も忘れるくらい集中して撮っていたらしい。
「卯月くん、明日って何か予定あったりするかな?」
「今のところ特に予定はないですけど、どうかしたんですか?」
「それが、、、明日雑誌の撮影の仕事があるんだけどモデルが急に来れなくなったみたいで代わりを探してるらしいんだ。」
「それは大変ですね、、、俺が代わりを探せれば良いんですけどあいにく友達が少ないもので、、、」
すると子供のように目をキラキラと輝かせたショウさんが俺の両肩をがっしりと掴んで頷いた。
「卯月くん、君がモデルをやってくれないか!!!」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ?!」」
俺も吏月も思わず驚いて大きな声をあげてしまった。
それから何やかんやで撮影当日。
随分と大所帯でやってきた大型のワゴンから次々と機材が運ばれていき気付けばあっという間に撮影現場が完成。
モデルっぽいポーズや表情なんかはその場にいるカメラマンさんや監督さんが優しく教えてくれたり、自分の唯一の長所でもある要領の良さもあってスムーズに撮影は進んで行った。
雑誌撮影ということでひっきりなしに衣装チェンジが入りひと息つく暇もなく時間は流れ、気付けば夕方、遂に撮影が終了した。
帰り際に関係者らしいイケおじから芸能事務所の案内と名刺を渡されたがそちらは丁寧にお断りさせていただいた。
そして今回撮影で使用した衣装は急遽モデルを引き受けてくれたお礼ということで全て譲ってもらうことができた。正直これが今回の1番の収穫だ。
スタイリストさんが選んだセンス抜群の服、とりあえずこれを着ていれば御子柴さんとのデーt、、、買い物でも恥をかかせないで済むだろう。
今回の写真が使われる雑誌は来月半ばに発売予定との事で完成次第、発売前に一冊送ってくれるということになった。
御子柴さんを取られまいと始まったイメチェン計画だけど、なぜか意外な方向に進んで一旦幕を閉じることに。
本当に人生何が起こるか分からないな、とつくづく感じたおかしな週末になったのだった。




