第9話 逃げる準備万端 - 戦う準備も万端かな
最初に、やることは、忍者の刀[忍刀]の作成だ。忍者に憧れていた頃は、木刀を[忍刀]サイズに切り詰めて、振り回していた。中学生になっても、公園で振り回していたので、少し「痛い子」扱いされたこともある。[忍刀」については、イメージするのも簡単だ。
[収納1]から、長さ1m、直径15cmの「鉄の木」の丸太を取り出した。その丸太から、[錬金術]の樹木[変性]で水分を抜くと、約15kgの重さになった。鞘も含めて700g程度の軽量にしたいので、丸太を30分割し、1本500gの棒を作った。
[忍刀]は通常の刀よりも短く反りがない。柄25cm、刀身45cmで計70cmをイメージし、1本の棒を変形して、柄、鍔、刀身を一体化して作った。その際、刀身はかなり圧縮して硬くした。
これに、もう1本の棒の半分を使い、55cmの鞘を作った。鞘の先には、硬い「こじり(鞘尻)」を付けた。
併せて、全長80cm、750gの[忍刀]ができあがった。
まず、試し切りだ。昨日から気になっていたのだが、石槍、石刃と「鉄の木」では、どちらが強いのだろうか。石槍の穂を上にして土に埋め、固定した。それから[忍刀]で水平に切り付けた。石槍の穂先は気持ち良いほど2つに切断された。
薙刀の石刃も、当然、同じ結果だった。圧縮した石よりも、圧縮した「鉄の木」の方が硬いということか。そこで、槍も薙刀も穂先を「鉄の木」で作成し直した。
次に、シャドーボクシングのように、相手を想定して[忍刀]を使ってみた。動きやすく、振った感じも手応えが良いので、余った[鉄の木]も[忍刀]にした。計20本の[忍刀]ができた。
[忍刀]は完成したが、それを肩からつるす紐「下緒」が必要だ。[忍刀]の下緒は、敵の槍攻撃を受けたり、身体を吊り上げたり、物を引き上げたりと多様に使われるため丈夫で長い(250cm程)。
紐がないので、素材集めから開始した。忍者サバイバルの勉強をしていた時、紐の素材は蔦から集めることを学んだ。まず、木々を回り、大量の蔦を[収納]した。蔦の皮の下の繊維部分を[分離]し、残りは[廃棄]した。残った繊維から水分を[分離][廃棄]した。更に繊維を糸状に[変形]し、紐状に編み込んだ。こうして、直径5mm、長さ100mのロープができた。
ロープは元が蔦だけに、強度に不安がある。どうしたものかとスキルを眺めていたら、[錬金術]に[強化付与]というのがあった。手に持ったロープを見つめて、[強化付与]について考えていたら、
「緑魔石を使用しますが、よろしいでしょうか」と、頭に声が流れてきた。
「はい」と答えると、
「1mにつき、2個の緑魔石小を使用します。ロープが強化されました」と再度、声が流れた。
手にしたロープに[鑑定]をかけた。
[名称(蔦から作ったロープ)、状態(緑魔石で強化されており、火・水・金属に抵抗力あり。強度は、直径5mmで500kg)、用途(ロープとしての利用の他、編み込んで鎧等に使用)]
同じ直径のナイロンロープ並の強度くらいはあるだろう。単位が元の世界と同じなのは、僕仕様に合わせているのだろうか。この世界も同じ単位だったら嬉しいな。
ロープを[収納]後、2.5mを2本取り出し、[合成]して幅3cmの平紐に[変形]し、下緒にした。編み込み鎧については、後日考えるとしよう。
ロープが強化可能なら、[忍刀]も強化できると思い、[忍刀]を持って[強化付与]を唱えたら、
「緑魔石中を2個使用します。[忍刀]が強化されました」と声が流れた。
[鑑定]してみると
[名称(鉄の木から作った忍刀)、状態(緑魔石で強化されており、火・水・金属に抵抗力あり。強度は、ミスリルと同程度)、価値(鉄の木をミスリル程度に強化した例がないため、不明)]
ミ、ミスリル! 鋼より固いミスリル! この世界も、ちゃんとミスリルが存在するんだ。うれしくなって、[忍刀]をもう2本、強化してしまった。
さて、ミスリル(並の)の[忍刀]を背負い、僕は再び歩き始めた。時計を見ると、まだ午前8時。起きてから2時間程で、ラージフォレストウルフと戦い、[忍刀]を作り、ロープを作った。効率が良いでは済まされない程の超効率的暮らしだ。漫画とDVDとゲームがあり、PCが使えれば、しばらくこの森で暮らしても良いくらいだ。あの女神様、なんとかしてくれないかな。
しばらくは、ポーションの材料、「鉄の木」の[素材調査]と、[跳躍]、[投擲]、[神足]、[木走]の訓練をしながら歩いた。
「鉄の木」は、20本ほど[収納]できた。ハイヒール、ハイキュアまでの素材は、多分、どれも1000本以上作れるくらい[収納]できたので、[素材調査]から外した。エキストラヒールポーションの素材「チャオウの花」については、前のと合わせて6本になった。
また、これまでにない素材を3本[収納]できたので、鑑定を掛けると、
[名称(ハピネの花)、産地(ビギンの森)、用途(エキストラキュアポーションの素材)]
「エキストラキュアポーション」の[レシピ]を見ると、
[レシピ(エクストラキュアポーション) ハピネの花、コカトリスの血、清水]
と出た。「エキストラヒールポーション」同様に、このポーションの作成は棚上げだ。コカトリスの血か。石化の状態異常を治すポーションを作るため、コカトリスの血を採りに行って、石化されたら笑えるな。まあ、この世界のコカトリスが相手を石化させる能力があるのかは、分からないが。
魔物図鑑が見てみたいなぁ。「ビギンの街」の図書館(絶対にあると思う)で調べてみよう。
[跳躍]については、垂直跳びで6mの枝に飛び乗ることができた。助走をつけたら7mは優に超える。ただ、実戦で効果的なのは[木走]の方だ。木々の間を駆け抜けるだけでなく、木自体にも走り登り、走り降りることができる。
[木走]と[跳躍]を組み合わせると、例えば、「木に駆け上り、そのまま木の裏に回り、隣の木にジャンプして、駆け下りる」といったことが可能になるので、相手の目くらましになる。
これに[神足]を加えれば最強だ。全力疾走と[神足]を比べてみた。体感ではあるが、流れる風景が2倍ほど速く見える。[神足]使用時には、バランスをコントロールする必要があるが、訓練するほど、足取りがしっかりしてくる。完璧にマスターすれば、最高の遁走スキルになるだろう。逃げる準備は万端だ。
なお、[神足]を使いながら、バランスを崩さず手裏剣を[投擲]できるようになったので、以前、鉄の木から作った手裏剣210本と、苦無3本をミスリル並に[強化付与]した。1本につき、緑魔石小2つを使った。
ついでに、鉄の木から「手甲」を作り、これもミスリル並に強化した。蔦から作ったロープで装着したが、ますます「忍者」に近づいて来た。僕の希望としては、ちょっと見はパッとしない「凄腕錬金術師」になりたいのだが。
それからも、[素材調査]とスキル訓練をしながら歩いていたら、11時になった。早めに昼食を取ろうと辺りを見回したら、黄色と黒の縦縞が見えてしまった。「どう見てもトラだよな」少し距離があったので、[鑑定]した。
[種別、ランク(D)、出生地(ビギンの森)、スキル(腕薙、爪撃、噛み付き、咆吼、毒耐性)]
げげっ、ラージフォレストウルフより1ランク上じゃないか。昨日倒したフォレストワームと同じランクだが、あれは、反則みたいな「毒肉作戦」で倒しただけで、面と向かって戦ってないし。しかも、今回は毒耐性を持っている魔物だから、反則技が効かない。[遠見]でみたら、ごっつい腕。あんなので薙ぎ払われれば、首なんか一発で折れる自信はある。距離もあるし、ここは最初から逃げの一手なんじゃないかな。




