第42話 ジン、ジン、ジンギスカン - みんなで食べるご飯は何故美味しいの
3時のおやつが終わった後、さきちゃんを連れて、リビングに移った。
「さきちゃん、農業キャプテンなのに[土魔法]を使えないのはおかしいから、これを使って」
と言って、土魔法書を渡す。例によって、さきちゃんが一読して魔法書が消滅した後、さきちゃんの、土魔法(初級)[10]を、ポイント譲渡で土魔法(中級)[100]にアップした。
「貴重なポイントを譲ってくれて、ありがとう。でも、私だけ魔法スキルが増えて、ももちが拗ねないかな」
「その時は、ももちにも他の魔法を覚えて貰うよ。[土魔法]スキルの項目については、自分で検証してね」
「それから、オフライン検索アプリとデータをインストールするから、スマホを貸してね。それと、もう一度確認するけど、アイドルのコンサート動画は要らないんだよね」
「『イエティ』とか『ラテ』だったら欲しいんですけど。それと、著作権は大丈夫なんですか。」
「異世界だから、法律の適用外ということで許してくれると思う。さきちゃんは、男性アイドルにこだわるけど、女性ファンが多い女性アイドルグループもあるよ」
「じ、じゃあ、ひとつくらいなら」
「それじゃあ、『コンサートツアー・ちょきちょきチャンピョン!』を入れるね」このグループだったら、好きになるよ。
データをさきちゃんのスマホに入れる間に、ジンギスカン鍋を2つ作った。形はうろ覚えだったが、オフラインデータに画像があったので、完璧な鍋が作れた。
「はい、この鍋で、晩ご飯よろしく。それと、遠心分離機については、全然、イメージが湧かないので、また相談します」
「はーい、晩ご飯は7時から始めるので、遅れないようにしてくださいね」
次は、羊の放牧地だ。黒魔石大を4つ使って、500m×500mの[闇領地]を4つ造り、[闇領地結合]させた。1km平方の放牧地になった。リビングの壁にドアを付けて、出入口にした。入ると、確かに広い土地が出来ている。[地形設計]によりなだらかな傾斜をつけた。傾斜の一番高いところに直径10mの池を造り、幅3mの川を造って、水がゆっくり流れるようにした。どういう仕組みか分からないが、池の水が減ることも無く、川の最後は、水が見えない壁に吸い込まれるように消えていく。羊が見えない壁にぶつからないように、放牧地全体を土壁で囲んだ。池の周りに、[収納1]に収納していた草原の表面を配置した。放牧地全体を草で覆うには、もっと沢山取ってこなくてはいけない。今の[収納1]では、40m×40mが最大だから、1000m×1000mを覆うためには、単純計算で625枚必要だ。ちょっとため息。[収納1]の容量が少ないさきちゃんに頼むのも、悪いしなぁ。
温度調整、天候調整、気候調整については、設置した地域に合わせる選択肢があったので、取りあえずは、それにした。
さて、[収納2]から羊12頭を取り出し、放牧地に放した。狭いところから、急に広いところへ放されて、一瞬、戸惑っていたが、直ぐに池の周りの草を食みだした。天敵もいないことだし、暫くは、のんびりと育って欲しい
扉から出て、扉に「羊」とメモを貼り付けた。入領者に、さきちゃん、ももち、ニヘイちゃんを指定した。晩ご飯が終わったら、みんなを招待しよう。
それから、放牧地の扉の横に、[転移扉]を設置した。土色の[闇領地]のドアと異なり、淡い緑色だった。ピンク色を期待していたんだが。
3つ目は、明日持って行く等身大のオートマタの器だ。小さな試作品と違って、指先の関節も、人体と同様に作製する必要がある。
例によって、鉄の木を使い、身長は、ライタップルさんの身長に合わせて170cm位にした。関節の動きは、かなり忠実に再現できたが、問題は顔。木製なので、削って鼻とか耳とか口を造ったが、どうしても無表情になり、当然口は開かない。目も、まぶたを再現するには、木製では限界がある。
と、そこまで造ったところで、そこまで求められていないことに気付いた。これで完成ということで、緑魔石中で強化し、[収納1]にしまった。
4つ目は、ももちの腕時計だ。[錬金術]の[分析・複写]を使って、今持っている懐中時計を分析した。材料は手持ちで揃っているので(と言うより、他の懐中時計を再利用)、少し小さくなるよう、縮小[複写]した。文字盤は淡いピンクにした。ベルトは自分の時計のベルトを参考に、女性サイズで作った。元の厳つい懐中時計より、グッと可愛らしい時計になった。
さて、針が飛び出るギミックの部分に取りかかる。強化したガラスの蓋を作り、12時の部分を支点として開くようにした。勿論、ガラスには十字の照準を付けている。蓋が開くのに合わせて、針が飛び出る穴が開くようにした。後は、針を飛ばす仕掛けを、バネにするのか、ももちが持っている風魔法利用にするのかだが、ももちに選んで貰うことにした。
驚いた。ももちを呼んだら、直ぐにドアが開いてニコッと微笑んだももちがいた。と、思ったら部屋の隅にももちが現れた。話しかけようと思ったら、後ろの方から、「こっちだよ」と声が聞こえたので振り向いた。そこにも、ももちがいたが、直ぐに消えて、背中の方で声が聞こえた。声の方に振り向くと、Vサインをしたももちが立っていた。
「ももちだらけだ、影分身、出来るようになったんだね」
「ほぼほぼね。もう少し残像が残るようになれば、完璧なんだけれど」
「ももちはすごいな。その内、[上忍]を超えるかも知れないな」
「[上忍]を超えたら何になるの」
「多分、[頭領]だと思うけど」
「ヒカルより先に[頭領]になれるよう、頑張るわ」
「ところでももち、今朝、欲しいと言っていた針が飛び出す腕時計を作ったんだけど、針を飛ばすのは、バネ式と風魔法とどちらにする」
「あぁ、それだけど、腕時計は欲しいけど、針を飛ばすのは、よくよく考えると風魔法か吹き矢で済むから、特に仕掛けは要らないかな」
「そ、そうだね。よく考えたら要らないよね。じゃあ、これを使って」
僕は、作りかけの腕時計から、ガラスの蓋と飛び出す針のギミックを除いてももちに渡した。
「ありがとう、懐中時計って、いちいち取り出さないといけないから、面倒だったのよね。文字盤もピンクになっているし、可愛いももちにぴったりだわ。多分、さきちゃんとニヘイちゃんの分も作ってあげた方が、喜ばれるわよ」
「了解です。ところでももち、いま、ティムしているのは、ロシナンとゲンジとフクロウのフクちゃんで良いのかな?」
「あと、チュウ吉がいるわ」
「もしかして、いや、もしかしなくてもネズミ?」
「正解!」
「なんで、ネズミなんかをティムしたの?」
「『ネズミなんか』ってのは、チュウ吉に失礼だよ。ももちがティムしたら、途端に強く、賢くなって、この街のネズミを次々と手下にしているの。チュウ吉情報によると、デスデス団の奴らが、首領を殺した犯人を見つけ出そうと血眼になっているって。首領の持っていたウエストポーチが欲しいみたい。ヒカル、気を付けた方が良いよ」
「チュウ吉さん、『なんか』って言ってすみません。そして、ももちさん、さすが情報リーダー、忠告ありがとう、気を付けます」
「どう致しまして」
ももちは、「チュウ吉のチュウ告、チュウ吉のチュウ告」とつぶやいている。
「ところでももち、今、何匹までティムできるの」
「ステータスを見たら、ティムのところは、[4/10]になっているから、あと、6匹はいけると思う。これから、犬系、鷹系はティムしたいし、できれば、虎のような強い動物もティムしたい。ドラゴンをティムすれば、空を飛べるようになるね」
「ティムをすると、身体に悪影響を与えると言う噂を聞いたので、しばらく、ティムを増やさないでくれるかな。明日にでも、ティムに詳しい人に確認するから」
「そんな噂があるんだ。じゃあ、確認よろしく。ももちは、これから庭で[木の葉隠れ]の練習をします」
ティムの影響については、明日、スプリングさんに会ったとき、確認しようと思う。
さて、時間を見ると午後5時30分、晩ご飯までは、少し時間があるので、明日商業ギルドへ申請のために持って行く「ミンサー」と「板バネ」を作ることにした。「ミンサー」はあっという間にできたが、「板バネ」は実物大を持ち込むわけにはいかないので、馬車の10分の1の模型を作り、それに合わせて縮小した板バネを取り付けた。原理だけの説明しかできないので、実際に試乗してもらう必要がある。ももちを連れて行こう。
それから、さきちゃんとニヘイちゃんの腕時計を作った。形はももちと同じにしたので、完成までに10分と掛からなかった。さきちゃんのは、文字盤を黄色にした。ニヘイちゃんのは黒地に白抜きの数字だ。動力は、銀魔石の欠片だが、これで、どの位動くか[鑑定1]を掛けたら、8年と出た。次に作る時は、日・曜日表示を付けよう。
転移以降、仕事が格段に早くなった。と言うより、常識では考えられないスピードだ。これだけの仕事をしても、晩ご飯まで30分以上ある。スキル、ステータス様々だ。残り時間は、薬師ギルドで貰った小冊子、「ポーション・薬買取価格一覧」をのんびり眺めていよう。
のんびり眺めていたつもりが、A5で20ページの冊子が、瞬く間に頭にインプットされた。IQ200レベルの天才の速読程度だと思う。恐るべしINT(知力)[400]。知力はあがったけれど、周りに気配りするとか、人との調整を図るとかは、転移前と変わっていないと思う。これは、頭の良し悪しではなく、性格の問題なんだろうか。これは、ステータスとは違う経験値を伸ばす必要があるのだろう。いわゆる、「人生経験」かな。
小冊子には、ヒールとキュアポーション以外にも、HP回復、MP回復、解呪、魅了ポーション(いわゆる惚れ薬)まで載っており、そこそこの値段はしている。「3日間しゃっくりが止まらない」とか、「足の小指をうっかり柱の角にぶっつけやすくなるポーション。効力10日間」という、嫌がらせに近い呪いのポーションまである。誰が考えついて、どうやって作ったのだろうか。
何にしても、素材集めはしっかりとやる必要があるな、と考えていたら、食堂から野菜を炒める匂いがしてきた。同時に「ジン、ジン、ジンギスカン」の歌声も。ちょっと早いけれど、食堂に向かった。
「ヒカルさんも来たので、早速始めましょう。それと、お米はまだ手に入ってません。締めのうどんは用意していません。何故なら、食後のケーキがあるからです。ケーキを食べる分は空けといて下さいね」
テーブルが広いので、鍋は二人で1つをつつけるよう、セットされていた。野菜は、炒め終わっていたので、あとは、鍋の真ん中にタレに漬け込んだ肉を乗せて焼くだけだ。
しばらくすると、肉が焼ける匂いがしてきた。タレと混ざった肉汁が、野菜の方に流れている。さきちゃんの号令で、「「「「いただきます」」」」の後、みんな一斉に箸を出した。
「美味しいです。昨日の焼肉も美味しかったけど、ジンギスカンも最高です。特にタレが秀逸です。どうやって作ったのですか」
「それは、企業秘密でーす」
「ほりゃ、ほうだよね(そりゃ、そうだよね)。たりぇは、ひれんほひまってひるから(タレは秘伝ときまっているから)」
ももちが、口いっぱいに肉を詰め込んで喋っている。
「うそでーす。スマホで検索したら、いろんなレシピが載っていました。その中から、材料を揃えられるものにしました」
「としても、さきちゃん、この世界では秘伝になるので、ある程度秘密にしておいた方が良いよ」
などと、賑やかにしていたら、ドアをノックする音が聞こえてきた。




