第41話 羊が手に入った - 夢が広がるユーカー商会
「先ずは、ももちから。最初は苦無で狙ってみて」
そう言うと、ももちは苦無を3本手に取り、立て続けに穴の底の魔物目がけて投擲した。失敗することなく、ホーンラビットを3匹仕留めた。
「さすが[上忍]カンスト、ステータス200の効果だな」
「でも、5mくらいの距離だったら、転移前も出来てたし、少しUPした程度かな」
標的が10m程の距離だったら、能力アップした実感が感じられないようだ。
「じゃあ、ここから50m先に木が1本立っているよね。あの木の下から2番目の枝を苦無で狙ってみて」
「そんなの無理だよ。あそこまでまっすぐ飛ばせないし、狙って投げようとしたら、全力を出せないから届かないよ」
「ももち、スキルも魔法もイメージが大事なんだよ。無理だと思ったら、できないよ。そうだ、遠かったら、苦無を風魔法にのせるつもりで、投げてみたら」
「うん、やってみる」
そう言って、ももちは、ひとつ深呼吸したあと、ゆっくりと振りかぶって、苦無を投げた。
「へっ、当たったよ。狙ったところへ正確に当たったよ。ヒカル、凄いよ、凄いよ。ももち、最強の忍者になれるよ」
「多分、もう、最強の忍者だと思うけど。ところで、ももち、苦無を回収するついでに、このアポの実を100m先の木の枝に置いてきて。さきちゃんが、それを射落とすので、その後、矢とアポの実を持ってきて」
「了解」、ももちは、あっというまに100m先の木に走って行った。
「ヒカルさん、それは無茶です。競技の遠的でも60mですよ。しかも的は直径1mです。100m先のアポの実を狙うなんて、それが出来たら、インターハイどころか、全日本大会でも優勝確実です」
「ももちにも言ったけど、今のさきちゃん、[弓術]上級をカンストして、ステータスも全て200だよ」
「でも」
「ももちが置いたアポの実を見てみて、100m先なのにはっきりと見えるだろ」
「あっ、はっきり見えます」
「私には、赤い小さな点にしか見えません」
「ももちが100m先に走っていったけど、5秒ぐらいで着いているよね」
「確かに」
「今の君たちは、超人のような力を手にしているんだ。信じて矢を射れば、必ず的に当たるよ。矢が一直線に進んで、アポの実の中心を射貫く光景をイメージして、矢を放ってみるんだ」
さきちゃんの放った矢は、凄いスピードで飛んでいき、アポの実の中心を射貫いた。それを、ももちが、速攻で持ち帰った。
「さきちゃん、凄いよ。ど真ん中に命中だよ」
ももちとさきちゃんが手を取り合って喜んでいる。
「あのう、盛り上がっているところすみませんが、穴の中が大変なことになっています」
「うぇっ」穴の中を見ると、数百匹のホーンラビットが蠢いている。どうりで、ブーブーと、鼻を鳴らす五月蠅い鳴き声が聞こえてくるはずだ。
「ももち、さきちゃん、どんどん倒していって。回収は、僕がやる。ニヘイちゃん、土魔法の項目には、どんなのがある?」
「バレット、ボール、シールド、ウォール、カルチヴェイトです」
「カルチヴェイト?聞いたことがない単語だな。バレットは弾丸だな。これにしよう」
僕は、周りから小さな石を[収納1]して、取り出し、ニヘイちゃんに渡す。
「バレット魔法を使おう。この石を、高速で魔物にぶっつけて見て」
ニヘイちゃんは、『バレット』と唱えながら、振りかぶって石を投げつけているが、普通に投げているだけなので、魔物を倒すことは出来ない。
しまった、下準備を怠っていた。この場で、「バレット」=弾丸だと説明してもイメージなど湧くはずも無い。なんとか、弾丸みたいに飛ばせないだろうか。そもそもこの世界には、銃が無いと思うので、弾丸が飛ぶイメージなんて作りにくいだろう。どうしよう、そうだ、無かったら作れば良い。イメージするのは、空気銃だ。
例によって鉄の木を素材にして、銃身、持ち手、引き金、銃床を作り、銃身は緑魔石で強化した。
「ニヘイちゃん、これを使ってみて。これは、バレット銃という名前だよ。この筒の手前の部分に、バレット魔法の塊を込めるイメージをして、横のレバーを手前に引いて、魔法を圧縮するんだ。それから、筒の上の穴から石を入れて、筒の先を魔物に向けてね。絶対に人に向けないようにね。最後は、下にある小さなレバーを引いてごらん」
ニヘイちゃんは、1つずつ動作を確認しながら、魔物に狙いを定め、引き金を引いた。「ブッシュ」という空気が抜けるような音がして、バレットは魔物へ向けて高速で飛び出し、一瞬の後に、魔物を貫いていた。
「えっ、倒しちゃった。ヒカルさん、これ凄い武器ですね。初めての私でも、簡単に魔物を倒しちゃった」
ニヘイちゃんは、ピョンピョン跳びはねている。バレット銃は、魔法をイメージしやすいように作っただけで、正確には、武器じゃなくて道具なんだけどなあ。多分、本来の[土魔法]のバレットは、魔法で土を圧縮して弾丸を作り、それを高速で打ち出すものだろう。道具なんか不要だと思うが、結果OKということにしよう。穴の底の生きている魔物も減ってきたので、ももちとさきちゃんには休憩して貰った。苦無、矢、魔物の死骸を回収したが、ホーンラビットだけでも400匹はあった。
「ニヘイちゃん、その銃あげるから、残りの魔物もその調子で倒して」
そう言うと、ニヘイちゃんは、さっきと同じように動作を確認しながら引き金を引いた。今度もバレットは魔物を貫いた。それから徐々に動作が速くなり、50匹目を倒す頃には、2秒間隔で撃てるようになった。100匹目くらいから、打つ動作が遅くなった。そして、ニヘイちゃんは、腰が抜けたようにペタンと尻餅をつき、肩で息をし出した。
「もう、これ以上は無理」
そう言ったニヘイちゃんを鑑定してみたら、MPが[1/110]になっていた。僕は慌てて、ニヘイちゃんに向けて、109ポイントを[MPリフレッシュ]した。
「あれっ、元気になってきた。もう1回チャレンジ」
「いやいや、ニヘイちゃん。もう、充分だよ。今日1日の成果としては申し分ない。と言うことで、今日のパワーレベリングは終了」
僕は、「魔物寄せ」を染み込ませた布を[収納1]で廃棄し、倒した魔物を回収し、穴を埋めた。掘り出した土を再[収納1]し、元あった場所へ取り出すだけなので、簡単な作業だ。
3時のお茶に間に合うよう、帰り支度をしていると、ニヘイちゃんが、大声を上げた。
「ヒカルさん、あっちの方から、大きな魔物の群れがやって来ます」
ニヘイちゃんが指さした方を見ると、あれは......
「みんな、ここで待ってて。捕まえてくる」
僕は、[猿飛]を発動し、魔物(と言っていいのだろうか)を、次から次へと[収納2]していく。計12頭の魔物を捕獲し、みんなのもとへ戻った。
「ヒカル、今のはもしかしてアレ」
「そう、元の世界の2倍はあるけど、間違い無く『羊』」
「やったー、羊の肉」
ももちとさきちゃんが、嬉しそうに「ジン、ジン、ジンギスカン」と歌って踊っている。
「どうして君たちは食べ物のことばかりなんだ。羊といえば羊毛・毛糸だろう。転移後、絹や麻の布は見たけど、木綿や毛糸は見てないんだよね。この12頭を元に闇領地に牧場を作って数を増やすから、当面、ジンギスカンはないです」
二人がしょんぼりとしているので、
「今日の晩ご飯は、フォレストタイガー肉でジンギスカン鍋にします」
と言ったら、ニヘイちゃんも参加して、また、「ジン、ジン、ジンギスカン」と歌い始めた。
帰る前に、草原の表面から深さ30cmで、40m×40mの広さ10枚を削り取り[収納1]した。闇領地に羊牧場を作る時の餌場にするためだ。
帰路は、何事も無く、お茶の時間に間に合った。おやつは、生クリームいっぱいのバナの実クレープ。ニヘイちゃんは、一口食べて考え込んでいる。
「さきさん、凄いです。バナの実って、こんな食べ方もあるんですね。砂糖がもっと安かったら、みんなが簡単に食べることができるのに」
「そのことだけど、[闇農地]で、サトウキビかビートを育てることが出来ないかなと思ってるの」
いつの間にか、[闇領地]が[闇農地]に変わっている。まあ、それで正解なんだけれど。
「実は、市場でこれを見つけたの。砕いて、飲み物にしているみたい」
「さきちゃん、それは、カカオでは」
「これから挑戦するけど、この世界には、まだチョコレートが無いから、完成したら、お菓子の大革命が起きるわ。板チョコ、チョコレートケーキ、チョコバナナ、生チョコ、チョコレートフォンデュ....」
「わぁー、聞いているだけで、涎が出る。早く完成させてよ、さきちゃん」
「私たちだけが幸せになっても、駄目だと思う。砂糖とカカオを闇農地で大量生産して、チョコレートを安く購入出来るようにすれば、この世界のみんなが笑顔になる、そう思わない、もも」
「ももじゃなくて、も も ち。でも、さきちゃんの言うとおりだね。そうなったら3月6日をバレンタインデーにして、世界中を甘ーい幸せで包み込めるね」
「ももち、なぜ、3月6日なんだ?」
「私の、誕 生 日」
「3月6日は置いといて、僕も闇農地(正式名称、闇農地で良いや)には、無限の可能性があると思う。さっきの羊牧場もそうだけど、あと、あれば綿花も栽培したい。そうなれば、衣料の革命も起こせる。実は、農作業用のゴーレムも完成のめどがついているんだ。出来たら、さきちゃんを、『闇農地部門長』に任命して、ユーカー商会の農業部門を全面お任せしたい」
「それは良いんですが、『闇農地部門長』だと、悪に加担しているように聞こえるので、肩書きは『農業キャプテン』にしてください。それと、この世界の農業に詳しい人を、仲間にできれば」
「あのう、皆さんが言っていること、半分以上分からないのですが、農業だったら、イッペイ兄さんが、旧ユーカー商会の食糧担当だったので、ある程度知っているはずです」
「それは、好都合だ。イッペイさんを、農業副キャプテンにしよう」
「ももちは、『ももち流忍者道場師範』が良い」
「それは、勝手に自己責任でやって。ももちには、『情報リーダー』をやって欲しい」
「わかった。ももちの忍者としての諜報能力を評価しているってことね」
「私は、何をやれば良いのですか」
「ニヘイちゃんは、軌道に乗ったら、ユーカー商会の会長をやってもらうので、それまでは、勉強してね」
「私に、そんな大役、務まるでしょうか」
「大丈夫。みんなで、バックアップするから」
「分かりました。期待に沿えるよう、誠心誠意がんばります」
「そこそこで良いからね」
「ヒカルは何をやるの」
「僕は当然、『錬金術部門長』だよ。皆さんのご要望にお応えして、いろんな物を作るからね」
「多分、その内に、遠心分離機が必要になると思います」
へっ、そんなのイメージできないよ。厄介な仕事をみんなに割り振って、これから楽できると思っていたのに、遠心分離機って何だ。スマホで調べよう。
「わ、わかった。必要な素材が揃ったら考えてみる。とりあえず、領都に移ったら、本格的に始動しよう」




