第40話 馬車に乗って、草原へ - パワーレベリングの始まりだ
パーティハウスに帰ると美味しそうな匂いがしてきた。食堂に入ると、既に料理が並んでいた。
「ギリギリ、セーフだね、ヒカル」
「ヒカルさんの分、直ぐにお持ちしますね」
「ヒカルさん、ミンサーをありがとう。作れる料理の幅が拡がります」
今日のメニューは、 ナポリタン と、 ハンバーグ だ。ハンバーグには、目玉焼きとフライドポテトとサラダが添えてある。
「ありがとう、ありがとう、さきちゃん。これだよ、これ。この組み合わせ、最高!」
転移して6日目なのに、なんだか懐かしくて涙が出そう。
「高カロリーのご飯で、涙ぐんで喜ぶなんて、ヒカルも男の子だねー」
「まだまだ、これに唐揚げとコーラがついてたら、正真正銘の高カロリー飯だよ。そこまで贅沢は言わないけど」
「コーラは作れないけれど、唐揚げは、材料が揃っているから提供できますよ」
「さきちゃん、やめてよ。これ以上贅沢させたら、ヒカルがブーになっちゃうよ」
「コーラのレシピをオフライン検索したら、水と砂糖に、シナモン、クローブ、カルダモンなどのスパイスを使うんだって。炭酸水はビギンの森にあるので、作れないことも無いな。後でさきちゃんのスマホを貸して、オフラインデータを使えるようにするから」
「ありがとう。私、料理スキルのレベルがあがったので、こちらの世界の食材鑑定や、レシピ参照ができるようになったの。元の世界のレシピもわかれば、最強の料理人になれるわ」
「あとは、米・味噌・醤油、カレーとラーメンだ。『ファミレス王に、俺はなる!』」
「盛り上がっているところを悪いんですけど、『いただきます』しますよ」
ニヘイちゃんも言うようになった。だいぶん、僕らになじんできたな。
「「「「いただきます」」」」
「さきさん、美味しいです。パスタをこんな風に細長くするなんて。ソースが良くからんで、最高です。それに、このソース、トメートからこんな美味しいソースが作れるなんて」
「ケチャップもマヨネーズも作りたてが一番美味しいのよ」
「ケチャップ? マヨネーズ?」
「この赤いソースをケチャップと言うの。卵から作る黄色いソースをマヨネーズというの。マヨネーズは、悪魔のソースと言われていてね、食べ過ぎるとね、食べ過ぎるとね....... 太るのよ!」
「「「キャーッ!」」」
「なんか、女子会みたいなノリだな」
「何かおっしゃいました」
「いえ、何にもおっしゃっていません」
「それはそうと、ヒカル、冒険者ギルドには寄った?」
「ウッ」いきなり言われて、食べかけのハンバーグを喉に詰めるところだった。
「ご、ご飯、食べてから行くよ」
「やっぱり忘れたね、だと思ったから、行っといてあげたよ」
「オークの肉が合計で540kg、kgあたり2000モグだから108万モグ、牙や皮などの素材が30万モグ、緑魔石中は、ヒカルが魔石をコレクションしているようだったので、売らなかったよ」
「フォレストワームの皮、内蔵、消化液は全部で280万モグ、魔石はなかったそうだよ。どうやって魔石を抜いたのか、不思議そうにしてたよ」
「アポの実1000個、バナの実500本は、どちらも1つ100モグで15万モグ。市場で売っている3分の1の額だけど、ギルドとしても、市場価格を下げたいらしく、そのままの額で卸すって言ってたから、妥当かな」
「合計で433万モグ、パーティの口座に入れるそうよ。ヒカル、日本円にして、1300万円だよ。この世界、簡単にお金を稼げるの?」
「ももちさん、そんなに簡単には、お金儲けできませんよ。フォレストワームだって、20人くらいの冒険者が、危険を承知の上で討伐する魔物ですよ。ヒカルさんだからできるんじゃないですかね」
「ヒカルさん、凄いんですね」
「その内、君たちも出来るようになるよ」
さきちゃんが、食後のデザートを運んできた。
「これ、オレンジゼリーだよね。オレンジはルルの実だけど、ゼリーの素はどうしたの」
「ウフフッ、なんと、スライムです。水色スライムの体液を乾燥させて、ゼリーの素を作るそうです。普通に市場に売ってました。食材鑑定でも、しっかりと食用と出てました。カロリーが無いので、ダイエット食にもなりそうです。水色スライムをそのまま切ったら、ところてんみたいに食べられるそうです」
「それって、濃縮したらコンニャクみたいにならないかな。醤油さえできれば、おでんが作れるようになるぞ」
「ヒカルの胃袋を掴むのは、安上がりだね」
ルルの実を使った異世界のオレンジゼリーは、最高においしかった。水色スライムからゼリーの素を作れるんだったら、他の色のスライムからは、何が作れるんだろう。と言うか、まだスライムに遭遇していないなあ。
ごちそう様の後は、30分の休憩後、冒険者用の服を着て、玄関前に集合するようお願いした。僕は、休憩を取らずに、馬車を作製することにした。
朝から、いろいろな馬車をチェックしながら歩いていたので、大体のイメージは掴めている。これに元の世界の乗用車のイメージを付け加えた。
ゲッター男爵邸の馬車のように派手な装飾は付けないが、地味な見た目の割に、高性能にした。雨風も防げる箱形だが、馬への負担を減らすため、材料は全部、軽量で丈夫な鉄の木をつかった。箱形と言っても、底部は丸みをつけて、エレガントに仕上げるとともに軽量化も図った。そして、緑魔石で強化し、鉄の矢も跳ね返すように防御性を高めた。さらに、赤魔石で耐火性を、青魔石で耐水性を高めた。
左右の扉以外にも、後方をハッチバックにして、いずれの扉も強化した窓ガラスを付けた。窓は、開閉可能である。座席は、後部が1つのシートにして、詰めれば3人座れるようにした。後部座席の下は、魔法鞄のような空間を設けており、後部扉からも、荷物の出し入れができるようにした。前の座席は、2つに分かれており、通常は前方を向いているが、それぞれに反転させることが出来るので、間に簡易な机を置いたら、向かい合って食事もできる。シートは革張りで、中に乾燥したウサギの毛皮を詰めて、クッションを良くしたが、ここは、改良の余地があると思う。
多分、当面の御者は、ももちになると思うので、御者台には、日焼け防止のために開閉可能なホロを付けた。
このままでは、乗り心地が悪いので、この世界ではまだ登場していないのだが、車輪に板バネを取り付けた。板バネについては、見たこともなかったが、オフラインデータに図解付きで説明があったので、簡単にイメージできた。
後は、タイヤをなんとかしたい。ゴムの木を探そう。
最初に、ももちが玄関前に来た。
「馬車なんて、どこから持ってきたの?」
「昼休憩を利用して、作ったところ」
「30分で作ったの?ヒカルは、何でもアリなんだね」
「そうでもないよ。ゴムがないから、タイヤが作れないんだよね」
「そう言う話じゃ無くて。ああ、もういい、私、ロシナンとゲンジを連れてくる」
2頭を馬車に繋いでいたら、さきちゃんとニヘイちゃんが来た。
「みんな集まったので、これから、馬車に乗って街の外に出ます。適当なところで馬車を降りて、パワーレベリングをします」
「はいはい、しつもーん」
「はい、ももちさん」
「パワーレベリングって何ですか?」
「みなさんのステータスにレベルってありますよね。今は、さきちゃん、ももちはレベル1、ニヘイちゃんはレベル2だけど、このレベルを楽して、簡単に上げる方法です」
「「「よろしくお願いします」」」
そんな卑怯な方法でレベルをあげたくない、などと正義論を持ち出す人がいなくて良かった。
「ときに、ももちは、御者の経験はあるの?」
「ないけど、ちょっと、ロシナンに聞いてみる」
ももちが、ロシナンを撫でながら、ウンウン頷いて、戻ってきた。
「行き先と、スピードだけ指示してくれたら、お任せで大丈夫だって」
馬車は、御者なしでも動くのだけど、それでは、騒ぎになるということで、ももちに座って貰った。3月下旬の暖かい風が吹いているので、御者席の方が気持ちよさそうだ。
ニヘイちゃんは、馬車に乗る前から、「窓ガラスが大きい」と騒いでいた。乗ったら乗ったで、「中が広々としている。荷物がどこにも無い」と、また大騒ぎ。後部座席の下が、10m立方の魔法鞄になっていると説明したら、「この馬車を、正式なユーカー商会の御用馬車にしたい」と言い出したので、「ユーカー商会が本格始動したら、同じような馬車を10台くらい作ってあげる」って話したら、「ありがとうございます。必ずや、王国一の商会にします」って言ってるけど、そこまでは、望んでいないんだけど。
賑やかに馬車は出発したのだが、門を出たところで、ニヘイちゃんが真剣な顔で聞いてきた。
「ヒカルさん、この馬車、揺れが少ないのですが、もしかして、車輪に取り付けてあった、薄い板を重ねた装置のお陰ですか?」
「鋭いね、板バネという装置だよ。あれが振動を吸収するんだ。多分、今までに無かった装置だよ」
「申請はしないのですか。手動ミキサーとかき氷製造機どころの騒ぎじゃないですよ」
「あぁ、考えておくよ」
しばらくして、馬車が止まった。何事かと思って降りてみると、ももちが、ロシナンを馬車から外し、少し離れたところで話して(?)いる。それから、ロシナンを馬車に戻し、次はゲンジを連れて行って、また、何かを話している。
ゲンジを馬車に戻した後、ももちは僕に事情を説明した。
「ゲンジが、以前、モテていた頃の話ばかりするので、ロシナンが怒っちゃったの。それで、ロシナンを宥めて、それからゲンジを叱ったの。分かったって言ってたけど、本当に反省したのかどうか」
「ももち、ゲンジをここに呼んで、僕の言うことを通訳して」
「分かった」
ももちが、ゲンジを連れてきた。僕はゲンジに向かって、怒気を込めて説教した。
「ゲンジ君、君を買うのにお金を出したのは、僕だよ。僕が買わなかったら、怪我をした君は、あの牧場でどうなっていたか分からないんだよ。そして、君の足の怪我を治したのも、僕だよ。僕は、君やロシナンを手放す気はないから、二人はずっと一緒だよ。それなのに、ロシナンを怒らせるなんて、非常に困るんだ。もし、もう一度同じことがあったら...... 僕の故郷には、馬を生で食べる習慣があるんだ。馬刺しと言ってね」
そう通訳してもらって、ナイフを取り出したら、ゲンジがブルブル震えている。
「ヒカル、ストップ、ストップ。ゲンジが怯えている。もう、十分、分かったみたい。」
御者台からの景色も見たかったので、ももちの横の補助席に座った。2m弱の高さに座ってみたが、以前、大型トラックの補助席に座った時に見た高さの景色だ。こちらの方が長閑な風景が広がっているので、のんびりする。ゲンジがこちらを気にしている様に見える。さっきの痴話喧嘩は、妙に人間臭かったので、気になって鑑定してみた。
[名前、種別(ホース(サクラ王国種))、ランク(E)、出生地(ライリー領都)、スキル(蹴り、噛み付き)、特筆(テイマー主の影響により、身体能力、知力が大幅に向上)]
Eランクといえば、オークに匹敵する。馬の戦闘力としては、考えられないレベルだ。人間臭く思えたのも知力が上がった影響か? 僕は、スプリングさんの話を思い出した。
『ティムすることにより、なんと魔族と魔獣が同調し合うようになりました』
ももちとロシナンが同調したら、どうなるのだ。それにフクロウのフクちゃんが加わったら? なんとなくカオスな気がするので、ティムについては、明日、スプリングさんに、詳しい話を聞いてみよう。
門から30分くらい離れた草原で馬車を止め、みんなに降りて貰った。
「ここでパワーレベリングを始めます」
「ここで? 魔物なんかいないよ」
「今から、目の前に、10m立方の穴を空けます」
僕は、10m立方の土を[収納1]し、背中側に取り出した。みんなは、目の前の草原にいきなり穴が空き、そして、背中側にいきなり土壁ができたので、ビックリしている。
「この穴に、『魔物寄せ』の液体を放り込みます」
僕は、布に「魔物寄せ」をたっぷり染み込ませ、穴の中央に向かって放り込んだ。
「ももち、[風魔法]で、穴の中央から、左右と前方に風を吹かせて」
「どうすれば良いの」
「イメージするだけだと思う。穴の中央から、風が流れている情景を想像して」
「出来た。ヒカル、風が吹いてきたよ。魔法って簡単に出来るの」
「簡単に出来るのは、ももちの[風魔法]が、中級の100レベルで、ステータスもオール200だからだよ。魔物が集まってきたら、風魔法でも、手裏剣でも何でも良いから、遠隔でやっつけてね。火魔法は、使ったらだめだよ。素材が採れなくなるから。さきちゃんは、ロングボウか[水魔法]でやっつけてね。ニヘイちゃんは[土魔法]かな」
しばらくすると、「魔物寄せ」の匂いにつられて、ホーンラビットやコボルトが穴に飛び込んできた。
さあー、レベル上げの開始だ。




