第38話 オートマタと魔法陣 - いよいよ異世界らしくなってきた
修正
タイトルを含めて5カ所 魔方陣を魔法陣に修正しました。
メチャ、カッコ悪いです。
魔法ギルドの扉を開けると、そこは別世界であった。照明は、全体的に抑えてあり、入って手前左の喫茶スペースでは、全身黒ずくめ衣装の人達が、泡の立ち上がる飲み物を飲んでいた(多分、炭酸飲料だと思うけど)。右手の掲示板前には、これまた黒い衣装で、中には、とんがり帽子をかぶり、杖を持って立っている人もいた。
そして、奥の受付には、いました、いや、いらっしゃいました。耳の上部が少しとがった、銀髪ロングの“エルフ”様が。暗い部屋で、そこだけが光って見える(実際には、筆記用の手元照明が光っているなんですけど)。
僕は、手の汗をズボンで拭いながら、受付の前に立った。
「あ、あのーう」
と声をかけた時、クールな顔の中に、一瞬、優しい笑顔が浮かんだ。
「いらっしゃいませ、ご用件は?」
「えーと、ゴ、ゴーレムのことで質問があります」
彼女は、怪訝そうな顔で聞いてきた。
「ゴーレムの、どんなことをお尋ねですか?」
「ゴーレムは、どうやって作るのか知りたいのですが」
彼女は、呆れたような顔で答えてくれた。
「ゴーレムの器については、この建物から西にある工房ギルドでお尋ねください。魔石からゴーレム核を作る方法については、このギルドである程度のことはお教えしますが、会員登録が必要です。汎用のゴーレム核については、隣の魔法屋でも販売していますが、汎用なので一般的な動作しかできませんし、何より高価ですよ」
「一般的な動作とは?」
「立つ、しゃがむ、歩く、止まる、持つ、離すなどの、基本動作です。荷物持ち程度の作業しか出来ません」
今、欲しいゴーレムは、農作業用だ。雑草取りとか収穫などの細かい作業も必要だ。やはり、自分で自作する必要があるので、魔法ギルドに登録することにした。
「やっぱり、魔法ギルドに登録します」
「それじゃ、10万モグと、会員登録に必要なので、名前、年齢、出身国、あと、差し支えなければ職業とスキルを教えてください」
「分かりました。名前はヒカル、19歳でサクラ王国出身です。職業は錬金術師、スキルは錬金術と生活魔法です」
ギルドカードを作っているエルフさんの手が止まった。
「ヒカルさんと言えば、最近この街を騒がせている ヒカル さんですか」
「騒がせているつもりは無いんですが」
「ゴブリン軍団を討伐して、騎士団の反乱を未然に防ぎ、高品質のポーションを作り、食材を買い込んでいる ヒカル さんですよね」
「最後の食材については、身に覚えがありませんが」
「あなたのお仲間が沢山の食材を買い込んでいるって、市場のおばさん達から聞きました」
「だったら、全部該当します」
「ヒカルさん、魔法ギルドにようこそ。これがギルドカードです。魔法ギルドは結果主義ですので、特にランク分けはしていません」
そう言って、エルフさんは受付から出てきて、黒いカードを渡してくれた。細身の高身長で、黒いシャツと黒いズボンが、良く似合っている。
「私は、ピース・ライタップル。今後ともよろしくお願いします」
「姓があるってことは、貴族で、あら、あら、あられるんですか?」
エルフさんは、笑いながら説明してくれた。
「違いますよ。エルフはみんな姓を持っているんです。ちなみに、ピースが姓で、ライタップルが名前ですので、間違わないでくださいね。私のことは、ライタップルって呼んで下さい」
姓名の順番は、日本と同じなんだな。
「それでは、会員登録が終了しましたので、ゴーレムについて、少しお話します。ここは騒がしいので、応接室へどうぞ」
応接室は受付の奥にあった。美形エルフと二人っきりになると思うと、胸がドキドキする。
「ゴーレムの器は、錬金術で作ります。ヒカルさんは錬金術師ですが、器を作ったことがありますか」
「実は、今朝初めて、試しに小型の物を作ったのですが、これで良いのか自身が無くて」
と、言いながら、[収納1]からマイミー鞄経由で、鉄の木から作った試作品を取り出した。
ライタップルさんは、試作品を手に取り、しばらく手で感触を確かめ、関節を動かしたり、手足を引っ張ったりしていた。そして、長い息をひとつ吐いた後、話を切り出した。
「硬い鉄の木で、こんなに細かな細工が出来るとは。しかも緑魔石で強化までしてあります。このように精巧な器に、どんなゴーレム核を入れるつもりなのですか。ヒカルさん、貴方は何を作ろうとしているのですか?」
「農業のお手伝いが出来るゴーレムを作りたいのですが」
「これだけ、関節が精巧に動くのであれば、ゴーレム核に自律機能を組み込んで、オートマタ(自動人形)を作ることも可能なんでは」
この世界の住人から、「オートマタ」という単語が出て来ることに驚いた。そして、今、話に出た「自律機能」と言うのが使えれば、農業以外にも、例えば、声を出さなくても良いバックダンサーや、楽器演奏者も作る事ができると、様々な可能性が頭に浮かんできた。
「良く鉄の木で作ったことや、緑魔石での強化が分かりましたね」
「私はエルフですから、樹木や緑魔石には詳しいんです。むしろ、人族であるヒカルさんが、ここまで樹木や緑魔石を使いこなせているのが不思議です」
ライタップルさんは、更に熱く語り出した。
「オートマタを作るのが、私たちエルフの喫緊の課題なんです。実現のためには、高性能の器と、自律機能をゴーレム核へ付与することが、2大難関となっています。自律機能については、研究が進んでいるのですが、器については、エルフの錬金術師は少なく、また、能力も高くないので、少しも進んでいない状況です。工房ギルドにも頼んでみたのですが、「そんな物を作れるわけがない」と、けんもほろろに断られました。ヒカルさんは、これだけの物を作れるのですから、お若いのに、さぞ高名な錬金術師だとお見受けします。どうか、オートマタ作成に強力して頂けないでしょうか」
「ゴーレムの発展形がオートマタと言うのは分かったのですが、何故、オートマタが望みなんですか?」
「それは、今、エルフの里では....」
その時、応接室のドアが開き、ミントグリーンのドレスを着た女性が入ってきた。
「そこまでよ。ライタップル、熱くなり過ぎ。あなたの声は、ドアの外まで聞こえてきたわ。それに、エルフの問題をよその人に頼むのは、貴方の一存で済むような話では無いわ」
「でも、ギルド長、この器を見て下さい。こんなにもエルフや人族と同じ動きができる器があれば、私たちの問題も....」
「だから、声が大きいというのです。少し落ち着きなさい。」
そう言われて、ライタップルさんは口を閉じた。
「ヒカル、場所をギルド長室に移します。そこなら、盗聴防止の魔法陣が組み込まれています」
「魔法陣?」 異世界小説では良く聞く言葉だが、転移して初めて聞いた言葉だ。「オラ、ワクワクすっぞ!」
2階のギルド長室にいく途中、イソファガス・ギルド長に話しかけた。
「おととい、ゲッター邸での感謝・歓迎の宴で、イソファガスさんにお会いした時は、黒いフード付きのマントを羽織られていたので、エルフだとは気付きませんでした」
「あぁ、あのサービス衣装ね」
「サービス衣装?」
「魔法ギルドの者が、あの暑苦しい格好をすると、皆さん、何故か妙に納得するの。冬は良いけど、夏にあの格好はちょっとね」
「『納得』ですか」
「魔法使いは、神秘的でなくちゃならないという、思い込みかな。本当は、私エルフだから、今着ているようなグリーンが好きなのにね」
「ギルド長、私は赤もすきですよ」
異世界も、複雑な事情がありそうだ。
応接室のソファーに、ギルド長とライタップルさんが並んで座り、僕は、ギルド長と向き合う形で座った。
「早速ですが、私は、イソファガス・スプリング、ビギンの魔法ギルド長と、サクラ王国エルフ組合の副組合長を仰せつかっています。堅苦しいのはきらいなので、スプリングと呼んでください」
「エルフ組合と言うのがあるんですね」
「ええ、エルフと獣人は、人族から迫害された歴史があるので、それに対抗するため、国境を越えた組合組織で自衛しているのです。幸い、サクラ王国では他種族の種族特有の能力をリスペクトし、博愛の精神で国を治めているので、表立っては嫌な思いをしたことがありません」
「裏では、嫌な思いをされたのですか」
「子供の頃は、良く耳を引っ張られました。エルフの耳は、草花や樹木、風の声を聞き取る、非常に大切な器官です。それを尖っているというだけで、面白半分に触ってくる....。失礼、昔の嫌な思い出が蘇って、つい、喋りすぎました」
エルフって、クールでおとなしい種族かと思っていたけど、そうでもなさそうだ。
「話を本題に戻します。ライタップルの言うとおり、ヒカルの作ったゴーレムの器は、エルフ族が研究を進めているオートマタに非常に適している器かと思われます。ヒカルに強力して欲しいのはやまやまですが、その理由を話さなければならないとなると、事がエルフの秘密に関わるため、そう簡単な話ではないのです」
「そこで、ヒカルにお願いがあります。この件に関しては、他言しないという守秘契約を結んで欲しいのです」
「守秘契約とはどのようなものですか」
「両者の合意のもとに、秘密を守るという魔法契約を結んでいただきます。秘密を漏らそうとした場合は、喋れなくなったり、文字を書けなくなったりするものです」
「奴隷契約の、『主人の秘密を守る』という部分のみを魔法契約化したものですね。それって、僕にメリットはありますか」
「仰るとおり、メリットはありません。その代わり、ヒカルの望む物をその対価として提供することもできます」
「それでは、『魔法陣』に関して、可能な限り伝授していただけますか」
「それは構いませんが、『魔法陣』を修得することは非常に大変です。私も200年以上勉強して、ようやく、守秘契約程度の魔方陣は扱えるようになりました。それでも構いませんか?」
「えぇ、勿論です。覚えられないのは、能力不足という僕の方の問題ですから」
そう言ったものの、僕は密かにステータス400に期待していた。
僕の答えを聞いて、スプリングさんは、二人の間に、魔法陣を展開した。円形の中に複雑な模様がホログラムのように浮き上がってきた。これ、使えるようになったら、メチャ、カッコ良くない。




