第37話 イケメンの馬を購入 - と思ったけれど、やっぱり嘘
タイトルを少し修正しました。2026/08/02
修正前 第37話 イケメン馬を買った - と思ったけれど、やっぱり嘘
修正後 第37話 イケメンの馬を購入 - と思ったけれど、やっぱり嘘
冒険者ギルドへ入ると、エバちゃんが僕を見つけて、手を振ってきた。
「ヒカルさん、昨日は有り難うございました。お陰で、1年ぶりに3人でおしゃべりすることができました。領都に行っても、よろしくお願いします」
「その領都に行く件だけど、領都に行っても、今借りているパーティーハウスを借りたままにできる? ちょくちょく戻って来るつもりだけど」
「できますよ。ただ、パーティハウスの貸し出しは、1パーティーに1軒だけなので、領都では借りられなくなりますが」
「大丈夫。領都では、ユーカー商会で家を借りるので」
「分かりました。家賃は、パーティーの口座から月々引き落とすことでよろしいですか」
「それで良いけれど、いま、パーティーの口座にはお金が入っていないので、これを入金するね」
そう言って、ゲッター嬢救出の報奨金800万モグを差し出した。
「それと、今後入る予定の盗賊討伐報奨金1000万モグと、フォレストタイガーの毛皮売却金も、パーティー口座に入金よろしく。それから、オーク3匹と、フォレストワーム1匹を売却するので、その代金もパーティー口座へ振り込んでね」
「えっ、フォレストワームを倒したのですか」
「つい、最近、ビギンの森で、アポの実の根元と、バナの実の根元にいた奴を倒したんだ。1匹分だけ売却するね」
「ちょっと待って下さい、パ、ギルド長を呼んできます」
直ぐにギルド長が、受付にやって来た。
「ヒカルさんよ、そういうことは最初に言っといてくれ。ワーム討伐隊を組もうとしているところだったんだぞ。討伐したのは、アポの実と、バナの実の所にいた2匹で良いな。これでまた、果物が採れるようになるな」
「あのう、アポの実はもう残ってませんし、バナの実はモンキーとエイプがたむろしていましたよ」
「猿系は、発情期が過ぎたらいなくなるし、あの森は魔素が濃いので、一月もすれば、また実がなるようになるさ」
一月で果物が出来るとは、なんと素敵な魔法の世界だ。
「ヒカル、依頼の掲示板は、ちゃんと見といてくれよ。ワーム討伐もちゃんと出ていたはずだ。」
そういえば、ギルドの掲示板、まだ見ていなかった。
エバちゃんに、大口の買い取り受付に連れられてきた。
「ヒカルさん、さっき言っていたワームとオークを出して下さい。それとアポの実とバナの実も出してもらえれば、嬉しいのですが」
可愛い女子から嬉しいといわれれば、普通の男だったら、出さざるを得ないよね。僕は、アポの実1000個と、バナの実500本を追加した。エバちゃん、ちょっとビックリしてた。
「あ、ありがとうございます。早速、査定しますね」
「これから寄るとこがあるので、査定が済んだら、パーティの口座に入金しといてください」
と、後のことはエバちゃんに頼もうとしたら、
「査定額を聞いて、売却するかどうか決めるのが普通だよね、ヒカル」
[隠密]? [忍足]? ももちの気配が読めない。
「そ、そうだね。エバちゃん、用事を済ませたら戻るので、査定額はその時にね」
「どうしたの、ももち。馬は買えたの?」
「ロシナンの熱烈な希望で、候補は絞れたけれど、ちょっと問題があるの。後ろ足を少しだけ引きずっていて、これからの旅に耐えられるか、ヒカルに鑑定して欲しいの」
「それは良いけど、ロシナンは、何故その馬を希望しているの」
「イケメンなんだって」
僕は、少し頭を整理した。
「つまり、ロシナンは牝馬で、買おうとしている雄馬に一目惚れしたって言うこと」
「早い話がそういうこと。ロシナンが言うには、『その馬を仲間にしてくれたら、これまで以上に、一生懸命働くから』だって」
「とりあえず、見に行こう」
厩舎は、東門を抜けて直ぐの所にあった。厩舎までは、ももちはロシナンに騎乗、僕は走って追いかけた。大通りはスピードが出せないので、普通に走っても遅れることは、無かったが、端から見たら、格好悪そう。僕は「サンチョ」か。
「あの馬よ」
ももちが指さした馬を鑑定した。
8歳の雄馬、後ろ足が疲労骨折寸前で、危険な状態であるが、ハイヒールで完治するとのこと。名前はなんと「ジゴロ」だった。
「ももち、後ろ足が疲労骨折気味だけど、ハイヒールをかければ完治するって。8歳だから、人間でいうと20代半ばかな。ロシナンが二つ上なので、姉さん女房になるよ」
「まだ、夫婦になるか分からないよ。100万モグって言ってるので、値切ってくる」
業者と話をしていたももちが戻ってきた。
「ヒカル、足の状態を問い詰めたら、50万モグにまけてくれた。知らない振りして売りつけようとしていたみたい。飼い葉10日分をサービスで、ハウスまで届けてくれるって」
「ユーカー商会は、ももちとニヘイちゃんがいれば、安泰だな。僕は、さきちゃんと一緒に喫茶店でもやろうかな」
「馬鹿なこと言ってないで、早く治療してよ」
厩舎から離れた、人気の無いところで、ジゴロにエクストラヒールをかけた。どうせ魔力をチョッピリ消費するだけだからと、1ランク上のエクストラにしたが、完治どころか、たくましくなったような気がする。それを見たロシナンが妙に興奮している。
早速、ももちがティムしようとした。
「ヒカル、ティムされる条件として、名前を変えてくれって言われたの。散々虐待した前の飼い主から付けられた名前は嫌なんだって。だから「ゲンジ」って付けたら、喜んでティムされてくれたわ」
「なんだ、「ゲンジ」って。あっ、僕の名前とセットで平安時代のジゴロじゃないか。変えろ、変えろ」
「もう、遅いよ。「ゲンジ」つて名前、かなり気に入っているみたい」
飼い葉が届くと言うことで、ももちは、2頭の馬を連れて、先にハウスへ帰ることになった。僕は、次の目的の魔法ギルドまで、いろいろな馬車を[分析]しながら、のんびりと歩いた。
観光マップによると、北東地区の噴水広場寄りから東へ、冒険者ギルド→商業ギルド→工房ギルド→道具屋→魔法ギルド→魔法屋→薬師ギルド→薬屋と並んでいる。魔法ギルドに行く前に、薬屋へ寄り道した。
どんなポーションや薬が売っているのか、商品を見ていると、店の人が声を掛けてきた。
「いらっしゃい、何かお探しですか。あっ、ヒカル印のポーションなら、売り切れですよ。あっという間に売れてしまって。今では、5倍の値段で取引されているとか。」
「どうして、そんなことに」
「手を切り落として2日経ったのに、元に戻ったと言う人が現れたそうです。効き目が、ハイポーションとエクストラポーションの中間ぐらいだという噂が立ち、こんなことになりました。それと、製作者のヒカルさんが商業ギルドだけに卸したので、商人が買い占めて値段をつり上げてるとか。せめて、ハイヒールポーションだけでも適正価格で売らないと、冒険者が怒りだしますよ」
「じゃ、どうすれば、適正価格で手に入るのですか」
「ヒカルさん次第ですね。ポーションの値段を決めているのは薬師ギルドですから、薬師ギルドに卸す限りは、大陸の薬師ギルド、薬屋は、値段が統一されるはずです」
「わかりました。薬師ギルドに行ってみます」
「薬師ギルドに行っても、売り切れてますよ」
少し行き違いがあるようだが、とにかく、隣の薬師ギルドに行くことにした。
薬師ギルドに入ると、受付に直行した。普通のおじさんが座っていた。
「あのう、ポーションを売りたいのですが」
「まず、ギルド証を出して」
「商業ギルド証でも良いですか」
「何を言っているのだ。ここが商業ギルドじゃあるまいし、薬を売るのなら、薬師のあかしとしての、薬師ギルド証が必要に決まっているじゃないか。薬師登録をしたいなら、登録料3万モグと、薬師能力審査のための自作ポーションが必要だ」
登録料は、冒険者ギルドの1万モグより高いけど、商業ギルドの10万モグより安い設定だ。受付に、小金貨3枚とハイヒールポーションを出した。
受付のおじさんは、ポーションを手に取り、「ウーン」と唸った後、
「君、名前は」
と聞いてきたので、「ヒカルです」と答えた。
「少し、待ってくれ」
とおじさんは、2階に駆け上がり、男の人を連れてきた。その人は、おととい、ゲッター邸での感謝・歓迎の宴で会った、トーベン薬師ギルド長だった。
「これはこれは、ヒカルさん。ポーションを売って頂けるとか」
「薬師ギルドに卸せば、定価で販売して頂けると聞いたので、ハイヒールポーションを50本程売ろうかなと思っています」
「高品質のハイヒールポーションでしたら、定価は75万モグなのですが、ヒカルさんのポーションの場合、その品質を超えていまして、定価で売ると争奪戦になります。恐らく薬屋の窓口が対応に苦慮するかと思います。それに、高品質のポーションを安価で販売すると、教会からも苦情がでます」
ほとんど元値が掛かっていないポーションなので、そんなに高値で売りつける気はしない。それに、冒険者が大怪我をしても、直ぐに治療して、長く冒険者を続けて欲しい。ユーカー商会のお得意様は、末永く確保しておきたい。目先の利益に欲かいたらあかんのや。「損して得取れ」の心で細く長くのお付き合いや。
「僕としては、できる限り手に入りやすい価格で販売して欲しいのですが」
「ヒカルさんの冒険者を思う気持ちは、重々承知しています。とは言え、このままでは、余計な混乱を招いてしまいます。そこで一つ提案があります」
薬師ギルド長の提案はこうだ。
僕のハイヒールボーションは、従来のハイヒールポーションより、はるかに品質が高い。このまま、ハイヒールポーション扱いをすれば、混乱を生じる。そこで、「準エクストラヒールポーション」というランクを創設し、価格を従来の2倍の150万モグに設定する。これでも安い方だが、150万モグであれば、冒険者が手に届かない額でもない。ギルドの買い取り価格は、120万モグとするがどうだろうか。
なかなかできるギルド長だ。落とし所としては、妥当な線であると思うので、準エキストラヒールポーション50本を、薬師ギルドへ売却した。しめて6000万モグ。ハープちゃんの落札代になるな。
代金は、薬師ギルドに口座を作り振り込んでもらった。今回もまた、ギルドの登録料はサービスだった。おまけに、登録者限定の「ポーション・薬買取価格一覧」を貰った。ラッキー。
お金が増えることは良いことだ。だけど貯め込んでいては、経済が回らない。「次の魔法ギルドでは、お買い物しようかな」とつぶやいて、ハッとして直ぐに辺りを見回した。どうやら、ももちはいないようだ。




