第36話 ホーマーさんの説教 - 今後はチョッピリ自重しよう
アース・スターノベル大賞の発表があったので、受賞作を読んだのですが、皆さん、すっきりとした分かり易い文章を書かれていたので、ねちねちとクドい文章しか書けない私は、少し凹んでいます。
なかでも、小狐さんの書かれた「会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった」が面白くて、読み耽っていたら、自分の作品の更新が、大幅に遅れてしまいました。すみません。
「盛り上がっているところ、申し訳ないが、本日の予定を発表します。午後から、街の外に出て、魔物を狩って、みんなの実力チェックとレベル上げをします。それまでに、皆にはやって欲しいことがあります。」
「ニヘイちゃん、馬車を引く馬は、いくらぐらいするの」
「馬の能力にもよりますが、領都まで二頭立てで馬車を引ける馬でしたら、100万モグ程度で買えます」
「意外と安いんだね」
「馬は、購入するのは安いのですが、飼い葉代とか、病気・怪我の時の治療代とか、結構維持費がかかります」
「人間用のポーションは使えるの」
「使えますが、そんな贅沢はできません」
「ももち、200万モグを渡すから、ももちやロシナンと気が合いそうな馬を買ってきて。ついでに、2頭の1週間分の飼い葉も届けて貰って」
「了解です。ロシナンと相談しながら買いまーす」
「次に、さきちゃん、僕の[収納1]にある食材や調味料を出すので、さきちゃんの[収納1]に収納しなおして。ホーンラビット肉が大量にあるし、フォレストタイガーの肉は2頭分以上あるから、しばらく肉は買う必要はないと思う。アポの実も1万個、バナの実も3000本出すので、美味しいデザートよろしく。」
「あとは、足りない野菜とか、果物とか、乳製品を市場で補充して下さい。白パンも沢山買って良いよ。それと、闇領地で畑をするので、いろんな種も買って下さい。当面の買い物代として、200万モグ渡しておきます。少々高い物でも欲しいものは気にせず買ってね」
「手動ミキサー、かき氷製造機を渡しとくね。それと、ハンバーグ用に肉をミンチにする「ミンサー」もその内、作るからね」
「ありがとう。昨日の餃子に使ったミンチ、包丁で細かく刻んで作ったから、大変だったの。ミンサーがあれば、魚のつみれや、味噌も、麺も作りやすくなるわ」
「ニヘイちゃんは、さきちゃんの買い物のサポートと、ポーションの瓶に貼るラベルの絵を描いて欲しいんだ」
そう言って、「魔物寄せ」、「スリップ油」、「猛毒」の絵のイメージを伝えた。
「それじゃ、正午に、ここで昼食を取るということで、料理をお願いします。それと、皆に懐中時計を渡しておきます」
盗賊から回収した懐中時計から、紋章が付いていない時計を[修復]し、新品同様の時計にして渡した。
「ももちは、腕時計の方がよかったなぁー。ボタンを押したら眠り薬の付いた針が飛び出す奴」
「考えときます」
「この後、ヒカルはどうするの」
「エクストラポーションを作ったり、手動ミキサーとかき氷製造機を商業ギルドで申請したり、トーベンさんの人材派遣所でハープちゃんの買い取りについて確認したり、ゴーレムの作り方を魔法ギルドで聞いたりと、結構忙しいんだ」
「あと、僕のお金をユーカー商会の口座にいれたり、ベリーズの口座に入れたりするので、今後は、そこから自由に引き出して良いよ」
「さすが、ヒカル、さすヒカ。と言いたいところだけど、一番の目的は、最後の魔法ギルドのエルフに会いに行くことでしょう」
「そ、そんなことは、ないよ。そんなことよりも、仕事開始だ」と、とぼけたが、さすもも、鋭い奴だ。
なにがそんなに楽しいのか分からないが、みんなキャッキャ言いながら出ていった。静かになったリビングで、先ずは、エクストラ系ポーション作り。
エクストラヒールポーションのレシピは、チャオウの花、サラマンダーの血、清水。チャオウの花は10本採取したし、サラマンダーの血は、デスデス団首領のウエストポーチに入っていた。
エクストラキュアポーションのレシピは、ハピネの花、コカトリスの血、清水。ハピネの花は7本採取済み。コカトリスの血は、これも首領のウエストポーチに入っていた。
容器については、まだ100本程残っているので、[収納1]内で、一気にポーションを作成した。その結果、エクストラヒールポーションが10本、エクストラキュアポーションが7本作成できた。血の方は、どちらも少し減っただけなので、できあがる本数は、花の数に比例するようだ。
エクストラヒールポーションは、濃いエンジ色、エクストラキュアポーションは濃紺だった。
次に、商業ギルドの申請用の手動ミキサーとかき氷製造機を作成した。かき氷製造機は、削る刃の出方を調整出来るようグレードアップした。これで、粗い氷からフワッと雪の様に軽いかき氷まで作れる様になった。
次は、肉を挽肉にするミンサーを作ることにした。使ったことは無いけれど、スマホでオフライン検索したら、図面入りで詳しい説明があった。素材によって変えるアタッチメントも図面があったので、図面どおりのイメージで鉄の木から作成した。取りあえず、キッチンに置いて、さきちゃんに試しに使って貰おう。
リビングでの用は済んだので、出かけることにした。まずは、トーベンさんの人材派遣所だ。
イッペイさんとサンペイさんの代金、3500万モグを昨日入金したことを話したら、もう既に、領都へ送金されており、正式に買い取りは完了しているとのことだった。
身柄の受け渡しについては、4~5日したら、領都へ向けて旅立つので、領都で引き渡してもらう旨、連絡をお願いした。
ハープちゃんについては、貴族から奴隷落ちした者は、礼儀作法が身についており、読み書き等の教養があること、一般的に器量が良いことで人気があるため、買値は決まっておらず、オークションになるらしい。何よりも、平民の富豪が、貴族を奴隷にすることで、優越感を味わえることもあり、特殊事情が無い限り、落札額は、最低でも5000万モグはするとのことだった。
「特殊事情とは、どんなものですか」
「例えば、四肢の欠損や奴隷落ちのショックで精神を病んだりすることです。それと、オークション会場への入場は、冷やかしの客を締め出すこともありますので、商業ギルド長の推薦状を貰って置いた方が良いですよ」
有益な情報に礼を言って、人材派遣所を後にした。
ハープちゃんの落札額は、最低5000万モグと言われたけれど、一体、僕はいくらぐらい持っているのだろう。短期間の内に大金の出し入れがあったので、頭が追いついてない。商業ギルドへ行く前に、噴水広場のベンチに座って、所持金などの整理をした。もちろん、誰かに見られないよう、[収納1]内での整理だ。
まず、転移後の収入は、
盗賊の首領のウエストポーチに入っていた現金は、
小金貨 : 1万モグ×200枚= 200万モグ
金 貨 : 10万モグ×300枚= 3000万モグ
大金貨 : 50万モグ×100枚= 5000万モグ
白金貨 :100万モグ× 50枚= 5000万モグ
大白金貨:500万モグ× 24枚=1億2000万モグ
計2億5200万モグ
このほか、
コフスのポーション代10万モグ
ゲッター嬢救出報奨金800万モグ
盗賊討伐報奨金1000万モグ(後日入金)
商業ギルドへ売却したハイヒールポーション代2500万モグ(入金済)
ハイキュアポーション代5000万モグ(4月当初の入金)
フォレストタイガー素材売却(黒魔石中300万、肉200万 素材50万)
計9860万モグ
総収入は、3億5060万モグ、日本円にして、10億5000万円だ。
今後、盗賊から得た貴金属の売却、フォレストタイガー毛皮売却(冒険者ギルド・商業ギルド各1枚)、水筒の特許料の収入が見込める。
支出については、適当に使っていたから自信が無いのだが、だいたい覚えているところは、次のとおり。
ももちへの貸し 10万モグ
ニヘイちゃんの身請け料金 1500万モグ
さきちゃんの身請け料金 12000モグ
ニヘイちゃん奴隷解除料金 20000モグ
買い物料金先渡し さき・ももち各1万モグ、ニヘイ10万モグ
イッペイ・サンペイ身請け料金 3500万モグ
ももち、さき、ニヘイ商業ギルド登録 10万モグ×3
ユーカー商会保証金 500万モグ
さき、ニヘイ冒険者登録 1万モグ×2
王国と大陸の地図 1万モグ×2
錬金素材(革、染料、魔石、ガラス材料) 59万モグ
馬購入費・飼い葉 200万モグ
今後の食糧・種 200万モグ
支出合計は、6018万2000モグ。現時点で2億9000万モグ残っているので、ハープちゃんの身請けは問題なさそうだ。
「メイさん、おはよう」
「あっ、ヒカルさん、昨日はありがとうございました。あんなに美味しくて、楽しいパーティーは初めてでした。今日はお一人ですか」
「ああ、ニヘイちゃん達は、買い物に行っているよ。今日は、僕の口座に入っているお金を全部、ユーカー商会の口座に移すことと、手動ミキサーとかき氷製造機を申請しに来たんだ」
「分かりました。まだ、オークションは先になりますが、フォレストタイガーの毛皮の売り上げも商会の口座で良いですか」
「それで、お願いします」
「承知しました。直ぐに手続きします。道具の申請については、ギルド長室にご案内します」
「ヒカル、良いところに来たわ。美味しいお水頂戴。昨日、飲み過ぎちゃった」
ホーマーさんに会う時は、いつも美味しい水を要求される。いつも二日酔いなのかな。素直に清水を出すのも面白くないので、かき氷製造機でフワフワ雪を作って、上から清水をかける。
「はい、『みぞれ』です」
「ほんと、みぞれ雪みたいね。美味しい、トーベンが言ったように、酔い覚ましには最適ね」
「かき氷製造機は、刃が出るのを調整出来るようにしました。つぶつぶ氷から、フワ雪氷まで、氷の大きさを調整できます」
「分かったわ、かき氷製造機と手動ミキサーの申請手続きを進めるわ。取り分は、これまでと同じで良いわね」
「了解です。その代わり、申請料金はサービスということで」
「あなた、ももちに似てきたわね」
「そうだ、ヒカル。ワインを美味しくする方法を教えなさいよ。どんな保管をすれば良いのよ」
「まいったなぁ、ホーナーさんには敵わないな。保管と言っても、[収納]スキルでの保管なんです。[収納]スキルには、[収納2]というのがあって、そこでは、温度調整、時間調整が効くんです。ブランデーもワインも、[鑑定]かけたら、15℃で20~30年の熟成が必要と出たので、そのとおりに調整したんです。だから、[収納]持ちでないと......」
ホーナーさんが、目を見開いてこちらを見ている。
「ヒカル、あなた[鑑定]も使えるの? [収納]、[回復]、[錬金術]だけでなく、[鑑定]も使えるの。あなた、何者? こんなことが世間に知れたら、大変な騒ぎになるわよ。王国だけでなく、帝国も聖教国も共和国もあなたを囲い込もうとするわ。少しは、自覚しなさい」
「す、済みません。僕のスキルについては、何卒ご内密にお願いします。そのかわり、口止め料として、エキストラヒールポーションと、エキストラキュアポーションを進呈いたしますので」
「ヒカルさん、そのポーションの値段、どのくらいするかご存じですか。エキストラヒールは、最低でも500万モグ、エキストラキュアは、最低でも1000万モグするのですよ。あなたの提供するポーションは、効き目が高いので、相場よりも高値がつきます。そして、それ以前の問題として、エクストラ系ポーションは作成が難しいため、現在、入手困難となっています。富裕層や高ランク冒険者に、あなたがエクストラ系ポーションを作成出来ると知られれば、あなた、付きまとわれますよ」
ホーナーさんの目が恐い。
「す、済みません。この件も、内密にお願いします」
「今後は、自分が規格外の人物だと認識して、慎重に行動してちょうだい。とりあえず、このポーションは、貰っておきます」
「あのう」
「まだ何か隠していることがあるの」
黒魔石小を合成して、黒魔石中や大を作ったこと、それを使って魔法鞄を作ったこと、闇領地で農業をやろうとしていること、なんかを話したら、また、説教されそうだ。これは、黙っていよう。
「実は、犯罪奴隷になったハープ・ゲッターさんのオークションが4月に実施されるのですが、その会場に入るための推薦状を頂きたくて」
「父親はあまり好きじゃなかったけれど、娘のハープちゃんは、街の住民を大切にする良い子だったわ。落札を考えているのは、スカーレットちゃんからの頼み?」
「まいったな、ホーマーさん、すべてお見通しなんですね」
「奴隷落ちした貴族の落札は、いろいろ厄介よ。オークションに参加した者の多くは、『元貴族』を従属させることに異常にこだわっていて、ヒカルが落札したら、逆恨みされたりするわ。また、本人自身も奴隷という身分になじめず、おかしくなったりするの。ニヘイちゃんみたいに、救ってやろうと思っているかも知れないけれど、経済奴隷と違って、犯罪奴隷は簡単に奴隷解除はできないのよ」
「承知しています。ハープちゃんには、商会の事務仕事をやって貰おうと思っています」
「それだけのために、高額な落札額を払おうとしているの、お人好しだわね。まぁ、お金は持っていそうだから、ヒカルがそうしたいのだったら、止めはしないけれど。推薦状くらい、お安いご用よ。その代わり、昨日のワイン10本とブランデー1樽、よろしく」
ホーマーさんが推薦状を書く間に、[収納2]でワインとブランデーを熟成させた。推薦状と引き換えに渡したが、また、明日も二日酔いなのだろうか。
受付のメイちゃんの笑顔に癒やされながら、商業ギルドを後にした。次はエバちゃんの笑顔に癒やされに行こう。




