第30話 ユーカー商会 - ぼろ儲けしている未来しか見えない
ギルド長室に入ると、ホーマさんが、椅子に座って頭を抱えていた。
「あっ、ヒカル、良いところに来た。水、あの美味しい水を頂戴。昨日、飲み過ぎちゃって」
指の先から出る水って、自分で飲むのはともかく、人に飲ませるのは抵抗があるので、マグカップに清水を入れて取り出した。ホーマさんは受け取るや否や、ゴキュゴキュと良い音をたてて一気に飲み干した。
「なに、この水、昨日のより美味しいじゃない。二日酔いも吹っ飛ぶわ」
「森の湧き水ですから、魔力も回復しますよ」
「もしかして、『ビギンの清水』なの。どこから、そんなもの、ああ、[収納]スキル持ちだったわね。この水、どのくらい収納しているの」
「大きな声で[収納]って、言わないでください。1m立方くらいです(嘘です、その27倍です)」
「そ、それだけあったら、ポーションを作り放題じゃない。というか、実際、作っているわね」
「あ、そうだ、ヒカル印のハイヒールポーションも、ハイキュアポーションも、申し込み殺到しているわ。値段据え置きで、従来のものより2割増しの薬効があるということで、大好評よ。ハイキュアも高品質だったので、買い取り価格を1本100万モグにしたから、来月初めの振り込みを楽しみにして。」
「あら、そこにいるのはニヘイじゃないの。ヒカルが身請けしてくれたのね。良かったわね。ヒカルだったら、大切にしてくれると思うわ」
「はい、昨日身請けして頂いて、先ほど、解放して頂きました」
「か、解放? どういうこと」
「それはですね、このたび商会を設立しようと思いまして、ニヘイちゃんをその商会長にするつもりなんです。」
「はぁー、そんないきなりで、突拍子もない話、成功すると思っているの。」
「失敗したら、その時は、その時です。資金はありますし、儲けるあても、ポーション以外にありますから。」
「ヒカルがそう言うんだったら、大丈夫なんでしょうね。で、今日は、何をしたいの」
「3人の商業ギルド登録と、『ユーカー商会』の設立、3500万モグの入金、『ももちナイフ』の申請、フォレストタイガーの肉と魔石の売却です」
「あと、2週間もしたら、ハイキュアポーションの代金5000万モグ入るのに、3500万モグの入金って、あっ、貴方、イッペイとサンペイも買い取る気」
「はい。人材派遣所のトーベンさんから、買い取り可能なので、商業ギルドの口座にお金を入金するように言われました。」
「テンポ、速すぎない」
「ホーマさんに言われてもね」
「まあ、分かったわ。メイ、登録と入金と買い取りをお願いね。私は、商会設立と『なんとかナイフ』の申請手続きをやるわ。さきにメイの手続きからお願いね。それと、『なんとかナイフ』を預かるわ」
「『ももちナイフ』です。申請はももち名でお願いしまーす」
それから僕らは、ギルド受付に戻った。
「ニヘイちゃん、奴隷から解放されたの、最初に教えてよ。これで、また、エバちゃんと3人で一緒に遊べるね」
「それは、ヒカル様に聞かないと」
「いや、仕事以外は、ニヘイちゃんの好きにしてくれれば良いよ。それから、もう奴隷じゃないんだから、『ヒカルさん』と呼んで欲しいな」
まず、3人の商業ギルド登録から始めた。3人とも木級(冒険者ギルドで言うと初心者のFクラス)のカードをもらったが、ももちは、僕の銅級と差があるのに不満らしい。1人10万モグの登録費用を出したの、僕なんだけどなあ。さきちゃんは、口座を持てたのが、嬉しいらしい。大人の階段を登ったと喜んでいた。ニヘイちゃんは、これから始まる戦いの第一歩だと覚悟を決めた顔をしていた。
3500万モグの入金については、盗賊の残した大白金貨7枚を使った。
「1、2枚だったら触ったことあるけど、7枚もいっぺんに手に取るのは初めて」と、メイちゃんは震える手で受け取って、金庫に入れていた。なんか金貨ってのは実感がわかないが、日本円で1億円超えだもんな、1万円札1万枚だったら、僕の手も震えていたよ。
フォレストタイガーについては、黒魔石が通常よりも大きいということで、300万モグ、肉は120kgあったので、200万モグ。そのほか、爪、牙、目玉を含めて、計550万モグで売れた。ももちが、「しめて1650万円! 大金だぁ!」と興奮していた。
「今度は、商業ギルドにも毛皮を回して下さいね」
とメイちゃんがニッコリ微笑んでくれたので、[収納1]にある毛皮を、1頭分差し出したら、喜んで受け取ってくれて、
「ありがとうございます。こんな綺麗なフォレストタイガーの毛皮、初めて見ました。高値で売れるように頑張ります」
と、ファイトポーズをしてくれたので、なんだか「推し」に貢いでいる気分になり、心が熱くなった。でも、ももちが睨んでいた。
「ねぇ、ヒカルさん、フォレストタイガーのお肉って、1kgいくらぐらいするの」
「120kgで600万円だから、1kg50000円だな」
「えぇ! A5黒毛和牛より高いんだ。さきも食べてみたい」
「いいよ、[収納1]に、まだ残っているから、今日の夜は、焼き肉パーティーにしようか」
「やったー、焼き肉パーティー! ももち、一生、ヒカルについて行く」
「メイさんもどうですか?」
「私も良いんですか?」
「お肉は、食べきれないほどありますので、どうぞ。7時に、ぼくらのパーティーハウスに来て下さい」
「ももち、なんとなくヒカルの性格、分かったような気がする」
「それから、メイさん、観光マップを3枚いただけますか」
「はい、承知しました。そう言えば、いろいろあって、ニヘイちゃんに渡してなかった。作成者の1人に渡していないなんて、うっかりだわ」
「作成者の1人とは?」
「観光マップは、ニヘイちゃんとエバちゃんと私の3人で作ったんです。完成した時には、ニヘイちゃんはもう.... とにかく、はい。刷り上がったのを見るのは初めてでしょう」
「このマップ、とても良く出来ているね」
「そうでしょう、私たち3人は[芸術]スキル持ちだから、絵を描くのは得意なんです。あっ、スキルのことは内緒にしておいてくださいね」
とかなんとか話している内に、ギルド長室に呼ばれた。
「これが、商会設立の申請書よ。『ユーカー商会』の名前で、商会長のニヘイちゃんを筆頭に、ヒカルとさきちゃんとももちの名前を入れといたわ、商会の口座も作ったし、保証金の500万モグを入れて置いてね。ギルドで引き落とすから」
「それと、商会の場所はどうするの」
「ビギンの街で、お願いします」
「ビギンの街だと、商会を大きくしようとした時、息苦しくなるわよ。だから、ニヘイのご両親も王都進出を考えたんじゃない、詐欺にあったけどね。場所は、無難なとこで、領都にしときなさい。4月からメイも領都のギルドに異動するから、面倒見てくれるわよ」
「分かりました、どうせその内に行こうと思ってたんです。領都でお願いします。ニヘイちゃんも、それど良いよね」
ニヘイちゃんが頷く。
「領都での住所が決まったら報告しますので、申請手続きお願いします。しかし、異動なんですか。ホーマさんも寂しくなりますね」
「私もギルドを辞めて、ニヘイ商会で雇って貰おうかな。毎日、美味しい水を飲めることだし」
ギクッ!この人の言うこと、洒落にならないんだよね。
「それと、『ももナイフ』だけど」
「『ももちナイフ』でーす」
「前回から、飛躍的に良くなっているわ。とくに先が割れているスプーン。ナイフで切る時に肉を押さえたりするのに便利だし、麺もすくえるし。特に素晴らしいのが、二つの柄を合体させる仕組み。間違い無く売れる商品になるわ。利益は、水筒と同じように商業ギルドが2、そちらが8で良いわね」
「それで良いですけどー、その代わり、申請料は無しということで」
「分かったわよ、ちゃっかりしてるわね。利益が出たら、ももちの口座に振り込めば良いのね」
「よろしく、お願いしまーす」
「だから、その話し方は止めなさいって、言ってるでしょう」
「とりあえず、ギルドでの用件は済みましたので、これで失礼します」
ホーマさんとももち、ハブとマングースを見ているようで、ハラハラする。
あれこれと働いたのに、時刻は、まだ午前11時。これから、道具屋で地図を買って、衣料品屋に寄って、お昼ご飯にしよう。
ニヘイちゃんお勧めの道具屋は、噴水広場近くの北東地区、工房ギルドの近くにあった。店に入ると、いろいろな道具が所狭しと置いてあった。ニヘイちゃんによると、ここにある道具は、主に魔道具で、魔石や魔力を込めると使えるようになるらしい。興味は大いにあったが、詳しく見ている暇はないので、取りあえず、サクラ王国とハーロ大陸の地図をかった。
観光マップが素晴らしかったので、地図も期待していたが、とんでもなかった。ハーロ大陸の地図は、大陸の形が、直線や曲線で大雑把に書いてあり、島や半島などは省略されているようだ。各国は、城などの稚拙なイラストに国名が書かれているだけで、国境、道路、河川も書いていない。サクラ王国の地図は、河川や主要な道路は書いてあるが、全て直線なので信用できそうもない。どちらも1万モグとは、暴利を貪っているとしか言いようがない。
店の入り口には、魔道具に使う魔石が売っていた。魔石小で1個1000モグ前後だが、黒魔石だけは1個50モグで山盛り売っていた。なぜ黒魔石だけ格安なのか、ニヘイちゃんに聞いたところ、黒魔石は、中魔石以上であれば、魔法鞄に使えるが、小魔石では動作しないため、飾りにしかならないとの事だった。少し、気になったので、200個程、購入したら、ももちに「無駄遣い」と怒られた。
それから、昨日寄った衣料品屋に行った。昨日と同じように、ワイワイキャッキャが始まったので、服は浄化できるし、破れたら、僕の[錬金術]スキルで修復できるので、とりあえず、1着で良いのではと、提案した。「そんな問題じゃない」と一喝された。
なめし革が売っていたので、防具作成用に20枚ほど買ったが、他にすることがなくなったので、さっき買った黒魔石小を取り出した。
[錬金術]には[合成]のスキルがある。魔石の[合成]も可能ではと、黒魔石小を購入したのだが、とりあえず、チャレンジだ。
魔石中の大きさになるように、魔石小20個程を、右の手の平に乗せ、左手で蓋をした。そして、それぞれの石が強固に結ばれるイメージで、ギュッと手を絞った。手を開けると、そこに、先ほど商業ギルドで売却した程度の黒魔石中ができあがっていた。調子に乗って、もう4個程、黒魔石中を作り上げた。
黒魔石小が、残り100個程になった。一辺に合成しようかと思ったが、手の平に100個も乗せると、こぼれ落ちてしまう。ふと思いついて、袋ごと手の平に乗せ、袋の中で石がより強固に結ばれるイメージで[合成]した。ズーンと身体から力が抜けた。ステータスを唱えると、HPが[98/310]、MPが[90/415]になっていた。[合成]って、身を削るスキル? 袋の中をみると、ちゃんと一個の魔石になっていた。鑑定してみると、
[名称(黒魔石大)、価値・用途(良質の魔力が込められている。大容量の魔法鞄の作成が可能。空間魔法発動時の触媒に最適。3000万モグ相当の価値がある。)]
[合成」だけでなく、魔石に魔力を込めたため、HP、MPが減ったのかな。しかし、3000万モグって、僕の中でお金の価値が崩壊して行く。
洋服の買い物が終わったようなので、「無駄遣い」と怒っていたももちに、黒魔石大を見せた。
「これ、さっきギルドへ売ったのより大きい。この大きさでいくらぐらいするの」
「ももちは『無駄遣い』って言ってたけど、これは、さっき買った黒魔石小を[合成]して作ったんだ。3000万モグの価値はあるみたいだよ」
「えぇ! ヒカル、さっきの店の黒魔石小を買い占めに行こうよ」
「ももちさん、急に買い占めると怪しまれるわ。値段もつりあげられるし、噂を聞いた人が投資目的で買ったりするの。こういうのは、目立たないようにするのが重要。そして、勝負どころは一気に動くの」
さすが、商人の娘。「ユーカー商会」の未来は明るいな。
正午近くになったので、そろそろ昼ご飯にすることにした。
30話になっても、まだ転移5日目を書いているんですが、遅いですよね。いきなり、日月が飛ぶと、その間に何があったのだろうか、気になるんです。空白の時間を作りたくないという、一種の病気ですかね。なるべくテンポアップしようと思っているんですが、いわく「細かいことが気になって」でグダグダしています。
一応、第1編は、王都で、ももち、夏目都、キュッテ共和国のアイリーンがユニットを組んで、「初恋はシュワシュワポン」をヒットさせるところで終わる予定ですが、いつになることやら。
どうか、気を長~くして、お付き合い頂きますようお願いします。
なんで、焼き肉パーティーを開くって、言ったのだろう。また、遅くなる。




