第29話 魔法を覚える - 方向性、これで良いの
リビングに戻り、[浄化もどき]をかけていたら、ももちがやって来た。
「ヒカル、それ、昨日もやっていたでしょう。それをやると綺麗になるみたいね。やり方を教えて、教えて。」
「ちょっと待って、みんなが来たら、教えるよ」
直ぐに、残り2人もリビングに来た。
「ニヘイちゃんは、生活魔法が使えるよね。[浄化]って言うのは、どんな効果があるの?」
「お洋服にソースをこぼした時のしみ抜きとか、傷口の消毒とか、髪の毛をすっきりさせるとか、ちょっとした汚れを取り除きたい時に使います。兄なんかは、落とした食べ物でも、[浄化]して食べていましたよ」
「身体全体の汚れや、服の汚れや埃をいっぺんに[浄化]するのは可能?」
「いっぺんにそれだけ[浄化]するためには、MPが沢山必要なので、私には無理です。」
「なるほど、僕の[浄化もどき]とは、違うんだな」
「ヒカルの[浄化もどき]というのは、どういうの」
「僕のは、服や身体の汚れ、埃を[収納1]に納めて、廃棄しているだけの、なんちゃって浄化なんだ。だから、MPは必要ない。」
「じゃあ、[収納」スキルの無い、私やニヘイちゃんは無理ってこと」
「MPさえ多ければ良いんだろう。だから、今からMPを増やして貰う。その前に、さきちゃんのポイント割り振りからだ」
「さきちゃん、ステータスを開いて、スキルを見て。スキルの横に、△印があるだろう。それを押すとポイントを割り振りできるんだ。さきちゃんは、[収納]と[回復]が中級で、[弓術」、[料理]、[統率]が上級だから、中級を早く上級にするために、[収納]と[回復]を30にしよう。それから、攻撃力を強化したいから、[弓術]を20に、残り2つを10にすれば、合計で100になるだろう」
「次に、ステータスへの割り振りだけど、これは、その人の趣味趣向も関係するから、なんとも言えないけど、僕の説明に納得できたら、そのとおりにして欲しい」
「この世界は、何が起きるか分からないから、生き延びる、逃げ切ることが、重要だと思う。だから、VIT(体力)、AGI(敏捷)に、それぞれ30ポイントを割り振ろう。[弓術」と[料理]に役にたちそうなDEX(器用)を20にして、残りのSTR(筋力)、INT(知力)を10にしよう」
「わたし、知力が低いことになるの」
「元々の地頭が良さそうだから、10ポイントしか割り振らなくても、十分知力は高いと思うよ。」
「えへっ、スキルも、ステータスも言われたとおり割り振ることにする。」
「ももち、なにも考えていなかったから、ステータスは、全部20ポイントにしちゃったよ」
「忍者は、オールラウンドのスキルだから、平均して割り振ることは、悪い事じゃないと思う」
「ヒカル様、さっきからお話の出ている、ポイントを割り振るということは、どういうことですか」
「持っているポイントを、上げたいスキルやステータスに割り振ることだけど」
「そんなことが出来るのですか?」
「逆に、ニヘイちゃんは、増えたポイントをどうしているの」
「どうしているも何も、勝手にポイントが上がるだけで、自分で選ぶことはできません。ただ、火魔法を一生懸命頑張れば、火魔法のポイントが上がりやすくなりますし、身体を鍛えれば、STR(筋力)、VIT(体力)のポイントがあがります」
努力した分だけ、その努力が報われる。至極まっとうなシステムだ。ゲーム開始前のステータス設定のように、なにもしない内から、ポイントを割り振るなんて、現実世界ではあり得ない話だ。転移者だけの特典なんだろうけど、殆どの転移者は、ステータス設定は済んでいるはずだ。女神から貰ったポイントが残っている僕は、まだ、ステータス設定が済んでいないということになるの。
「ポイントの割り振りは、僕たち転移した者だけかも知れない。この話は、聞かなかったことにしてね。」
「さて、次は魔法の修得だ。ももち、さきちゃん、生活魔法書をあげるので読んでみて」
「ヒカル、魔法書って高いんでしょう?」
「生活魔法書は、意外と安くて、10万モグ程度なんだ」
「10万モグ程度って言っても、日本円で30万円よ。大金よ、大金」
「良いから、早く読んでよ」
ももちとさきちゃんは、本を開いた。そして、修得するかとの問いに「はい」と答えた。2人とも直ぐにビクンと反応し、生活魔法書は消えた。
「ヒカル、大変、大変、30万円がどこかに消えちゃった」
「ももち、落ち着いて、自分のステータスを見て。スキルに[生活魔法」が追加されただろう。」
「あっ、本当だ。」
「[生活魔法]を修得できたから、魔法書は消えたんだよ。ちなみに、ステータスの[生活魔法」の横に△印は出ている?」
「△印なんて、どこにもないけど」
後から手に入れた[生活魔法]にも、僕だけポイントを割り振れる。僕のポイントはどうなっているんだろう。
「さて、今日は予定が沢山あるから、ゆっくりとしていられないよ。次は、一般の魔法の修得だ。」
「光、風、火、水、木、金、土、闇の魔法から、覚えたい魔法を選んで。ニヘイちゃんは、何が良い?」
「私も良いのですか。魔法書って、高いのは500万モグすると聞いたことがありますが」
「大丈夫、大丈夫、元手は掛かっていないので。この世界、いろいろ危ないこともあるから、攻撃や防御のための魔法を覚えておいた方が良いと思うけど」
ニヘイちゃんは、両親のことを思い出したのか、少し考えている。
「ありがとうございます。土の魔法書をお願いします」
「土?」
「ええ、土魔法だったら、[土壁]を作って、みんなを守ることができそうです。それに、薬草を育てる良い土も作れそうです」
「わかった。次、さきちゃんは、何が良い?」
「うーん、水魔法かな。どんなところでもお風呂に入れそうだし、料理にも使えるし」
「攻撃とか、防御とか、考えなくて良いの」
「それは、ヒカルさんがなんとかしてくれそうだし」
「まぁ、良いか。訓練すれば、[ウォーターボール(水球)]、[ウォータースラッシュ(水刃)、ウォータースピア(水槍)とか出来そうだけどなあ]
「ももちは、どうする」
「ねえ、ヒカル、風魔法を覚えたら、[木の葉隠れ」が使えるかな」
「それも、訓練次第だと思うけど」
「うーん、忍術の基本から考えると、火魔法も覚えたいし、闇に生きる忍者としては、闇魔法も気になるし。ももち、悩んじゃう」
「2つまでは良いよ。スキルのポイントアップを考えると、それ以上は、多分、使いこなせないと思う」
「わーい、ありがとう、ヒカル。じゃーあ、風と火にする」
「じゃあ、さきも木魔法が欲しい。そしたら、素敵なお庭が作れそう」
魔法の方向性は、これで良いのか。
「分かりました。二つずつと言うことで。ニヘイちゃんは」
「私は、一つの魔法に専念します。」
「ということなので、今から魔法書を渡します。使うのは後回しで、とりあえず読んでください。」
僕は、黒魔法を選んだ。みんな読み始めて、ビクンとなって、本が消えていく。魔法の知識が頭に渦巻いていて、3人ともキャッキャしている。それを制して、
「魔法からは、一旦離れて、今から出発するよ。それとももち、これあげる」
と、僕は忍刀と苦無を1本差し出した。
「えっ、貰って良いの?」
「他にも数本持っているから、大丈夫。それより、刃先は魔石で強化しているので、ミスリル並の切れ味だから注意してね」
「ミスリルが、どういうものか知らないけど、刃物の取り扱いは、小学校に入る前から訓練していたので大丈夫」
練習じゃなくて、訓練なんだ。ももちは、チャラチャラしているようで、ハードな人生を送っているのだな。大体、18歳で馬の世話ができる女の子って、そうそういないよな。
歩いて、トーベンさんの人材派遣所へ向かう道すがら、ももちとさきちゃんは、生活魔法で遊んでいた。2人は直ぐに慣れたみたいで、さきちゃんは、指先に出した炎を、細いトーチバーナーにして、これで焦がしプリンが作れると喜んでいた。
僕は、ニヘイちゃんに、何の魔法書が500万モグもするのか聞いたら、闇の魔法書だとのこと。頭の中の闇魔法の解説を覗いたところ、思った通り、時間と空間に鑑賞する魔法のようだ。錬金術と合わせたら、魔法鞄ができるのではと、考えたりしている内に、目的地についた。
人材派遣所に入ると、直ぐに商館長室へ案内された。
「これはこれはヒカル様。昨日の今日とは、一体どのようなご用件でしょう」
「ニヘイの奴隷からの解放と、少し、聞きたいことがありまして」
「やはりそうですか。昨日のご様子では、遅かれ早かれ、解放されると思っていました。手数料2万モグいただきますが、直ぐに隷属魔法を解除します。」
手数料を払うと、トーベンさんは、例のスポイトを持ちだして、僕の腕に押し当て、少しだけ血を抜いた。それから、スポイトをニヘイちゃんの額に当てて、血を抜き出した。
「ヒカル様の血に誘われて、昨日入れたヒカル様の血が、この器具に戻っていくのですよ」
暫くして、スポイトが血で満たされたので、トーベンさんは、額からスポイトを離した。
「これで、解除できました。」
ニヘイちゃんのステータスを[鑑定2]すると、職業が、経済奴隷から無職に変わっていた。
「ヒカル様、有り難うございます」と、ニヘイちゃんが、泣きそうな顔になった。「ニヘイちゃん、泣いている場合じゃないよ、ここからがスタートだ」
そう言うと、ニヘイちゃんは顔をあげ、
「分かりました。私、頑張ります」と、泣くのをこらえた。
「それからトーベンさん、聞きたいことと言うのは、ニヘイの兄弟のことです。できれば、2人とも買い取りたいと思うのですが」
「ほう、それは、それは。確か、イッペイが2000万モグ、サンペイが1500万モグだと記憶していますが、大丈夫ですか」
「はい、お金は大丈夫です。他で売れないように、早いところ買い取りたいのですが」
「それでは、領都に問い合わせます。直ぐに分かるかと思いますので、ここでお待ち頂けますか。もし買い取り可能となれば、直ぐに、商業ギルドの口座に、3500万モグ入金して頂くことになりますが、よろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
どういうシステムで、直ぐに分かるのだろう? 考えたら口座のシステムといい、通信機能がなければ始まらないだろうに。特殊な魔法を使っているのだろうか。それとも魔道具かな。
待っている間に、「ももちナイフ」のイメージができあがり、[収納1]内で鉄の木を加工して、完成させた。
片方の柄に、ナイフと錐を折り曲げて収納し、もう片方の柄に、フォークスプーンとミニノコギリを折り曲げて収納した。それぞれの柄に、ポッチと穴を作り、それらを合わせて捻れば合体できるという便利グッズだ。
ももちに見せると、OKサインが出た。
「ヒカル様、2名とも確保できました。ヒカル様の商業ギルド口座に3500万モグを入金頂ければ、こちらで送金の手続きを取ります。2名の引き渡しは、如何いたしましょうか。領都の奴隷商館から送り届けて貰いましょうか、それとも引き取りに行かれますか?」
「お金は、今から商業ギルドに行って、入金します。引き渡し方法については、検討しますので、明日、回答するということで宜しいでしょうか?」
「承知いたしました。そのようにさせていただきます」
僕たち4人は、直ぐに商業ギルドへ向かった。ギルドに入ると、メイさんが受付から出て、こちらに走ってきた。そして、ニヘイちゃんを抱きしめた。
「ニヘイちゃん、良かったね。ヒカル様に買い受けて貰ったの。ヒカル様は優しい方だから、これで一安心だね」
「あっ、失礼しました、ヒカル様。フォレストタイガーの魔石と肉の売却ですね」
「それもありますが、この3人の商業ギルドへの登録と、3500万モグの入金と商会の立ち上げなど、いろいろありまして」
「さ、3500万! 商会の立ち上げ! 今からギルド長室に案内します」




