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ポイント活用で豊かな異世界ライフ  作者: 朝倉瑞穂
【第1章】

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第27話 4日目の終わり - ニヘイの涙

 ハウスを出るときに、エバさんがソルグスの(今は僕の)馬を連れてやって来た。ギルドの受付ってなんでもやるんだな。ももちに「馬が来たよ」と叫んだら、飛んで出てきた。

「なんていう名前」って聞かれたけど、僕だって知らない。

「[テイマー]スキルで聞いてみたら」

と、適当なことを言って、男爵邸に向かった。エバさんとすれ違う時、軽く会釈すると、ニコッと笑って返してくれた。本当に、可愛い。エバ推しになるか、メイ推しになるか、迷うところだ。グループ(ギルド)が一緒なら、箱推し出来るのに。


 男爵邸につくと、スカーレット嬢が、流暢なカテーシーで出迎えてくれた。昨日ぶりなのに、

「お久しぶりです、ヒカル様」とニコニコ笑顔だ。

 会場の1階食堂へは、ザーク副執事が案内してくれた。既に10人近くの人がいた。中央にテーブルがあり、大皿で料理が提供されていたので、立食のようだ。


 僕は、スカーレット嬢に手を引かれ、ゲッター男爵の前に出た。

「お父様、ヒカル様がいらっしゃいました」

「朝から晩まで、『ヒカル様、ヒカル様』とうるさい奴だ。まるで婚約者が来たみたいじゃないか」

 スカーレット嬢は、顔を真っ赤にしていた。父親が、こんな冗談を言って良いのか?

「あら、男爵様、ヒカルはもう、うちのメイが予約済みですのよ」

 男爵様があんなことを言うので、ホーマさんも調子に乗っているじゃないか。ももちを連れてくれば良かった。とりあえず、ここは、ご挨拶。

「男爵様、今日は、お招きいただき有り難うございました」

「そんな堅苦しい挨拶は抜きだ。今日は、立食だから、気楽にやるぞ。ザーク副執事とヴァルディ副団長兄弟は知っているな」

 えぇー、知っているけど、兄弟だとは聞いていない。恐るべし、モーツ一族、この街を牛耳っているのでは。

「ホーマギルド長も知っているな。同じ名前の4人のトーベンを紹介するぞ、あっちが司祭、その横で話しているのが薬師ギルド長、中央は、朝に紹介した冒険者ギルド長、隅っこにいる丸いのが奴隷商館長。ヒカルは、もう、奴隷を買ったそうだな。」

 スカーレット嬢が、目を丸くしている。この世界、個人情報という概念はないな。

「奥にいるのが工房ギルド長のハイドだ。あと、魔法ギルド長、裁定所長、納税所長、もう一人の奴隷商館長が来る予定だ。紹介は、その時に」

 この街のお偉いさんが、一堂に集まるようだ。


「みんな聞いてくれ。ここにいるのがヒカルだ。我が娘をゴブリンから救い出し、専横を振るっていた我が弟スパークと、ホルス前副団長を諫めてくれた若き冒険者だ。儂は、このヒカルの働きに対し、800万モグの報奨金を贈ることにした」

 「謀反」ではなく「専横」ということで発表しようとしている、男爵の苦しい胸の内が分かる気がする。参加者も盛大に拍手をしているが、みんな裏の事情は知っているのだろうな。


「今日は、フォレストタイガーの肉が手に入ったので、後ほど提供しよう。奴隷屋のトーベン、独り占めは厳禁だぞ。ますます丸くなるぞ」

 まさかの容姿いじり。現代日本だったらアウトだぞ。親父ギャグに引いている僕の横に、ホーマさんが近寄ってきた。

「ねぇ、ヒカル。フォレストタイガーの毛皮、エバに預けたんだって。」

「はい。」

 バナの実の情報も伝わっていたんだから、これも当然伝わるなぁ。

「肉と黒魔石は?」

「まだ、持ってますが」

「じゃ、明日、メイのところへ持って行ってね」

「はい、暇があれば」

「何言ってるの、ハウスとギルドは隣同士みたいなものでしょ。出かけるときに、ちょっと寄って、渡してくれるだけで良いのよ。分かった?」

「はい、分かりました」

 僕、いつから、ホーマさんの部下になったの?


 そんな話をしていたら、司祭様が近寄って来た。

「これは、お二人さん丁度良い。少し宜しいかな」

「手短にしていただければ、嬉しいんですけど」

「今度、効き目の高い『ヒカル印のハイヒールポーション』を売りに出すと小耳に挟みましたが、値段は高めに設定されるのでしょうな」

「いえ、これまでと一緒の値段ですが」

「なんと、それは問題ですな。ただでさえ、教会の回復魔法は高いと言われているのに、出来の良いポーションの料金が、今までと同じ値段となると、教会に来る怪我人がいなくなるじゃないですか」

「その内、病人も行かなくなりますよ」

「な、なんと、ハイキュアポーションもですか」

「ポーションの話を、私抜きで進めないでくださいよ」

「聞いてくださいよ、薬師ギルド長。司祭様がポーションの値段を上げろといわれるんですよ」

「それは不味いですね。冒険者が暴動をおこしますよ。いっそのこと、回復魔法のお布施を下げられたら如何ですか。昔はポーションより安かったじゃないですか」

「教会の経営、いや運営をなんと心得られる。分かりました、そういうお考えなのですね。どうなっても知りませんよ」

 どうなるんだろう? ポーションがあれば、回復魔法は特に要らないかな。


 その時、男爵の声が響き渡った

「なに! ハープが」

「お父様、ハープがどうしたのですか」

「ハープが、毒を飲んだ。司祭様、一緒に来ていただきたい。」

「私も行きます。ヒカル様、一緒に来て下さい」

 どうして、僕も連れて行くの。そして、なぜ、ホーマさんも付いてくるの。


 ハープ嬢を収容している場所は、男爵邸北隣の騎士団建物の地下牢とのこと。みんな走ったが、司祭様が息も絶え絶えになっていたので、こっそり[キュア]を掛けたら、どうにかまた、走れるようになったようだ。

 牢に着くと、ハープ嬢がベッドに横たわっていた。顔色は青い土色で、もう手遅れのように見えたが、司祭様がベッドの横に立ち、ハープ嬢に手をかざした。

「神よ、この者の身体から、悪しきものを取り除き、生きる力を与えたまえ、ハイキュア!」

 なにも起きなかった。

「残念ながら、既に手遅れでしたな。もう少し早く、私が来ていれば」


「ヒカル様、お願いです。ヒカル様のお力で、ハープを救ってやってください。」

「スカーレット、無理なことを言うでない、いくらヒカル殿でも」

 それでも、スカーレット嬢はすがるような目で僕を見ている。スカーレット嬢は知っている、僕がハイヒールを使えることを。でもハイヒールでは、司祭様と同じ結果になるのでは。

 もう一度スカーレット嬢の顔を見た。もうだめだ、こんな顔されたら、なんとかしてやらなきゃ。ステータス300の力に賭けよう。スキルがばれても良いや。


 僕は、ハープ嬢にハイヒールをかけた、司祭様のような恥ずかしい詠唱無しで。ハープ嬢の手足が少し動いた。更にもう一度、「悪しきものを取り除き、生きる力を与える」イメージでハイヒールをかけた。

 ハープ嬢は、ゴホッと口から黒い塊を吐き出した。それから、顔に赤みがさしてきた。


「ヒカル様!」 スカーレット嬢が、僕に飛びついてきた。向こうで司祭様が恐い顔をして睨んでいる。

「司祭様、有り難うございます。司祭様が、さきにハイヒールをかけられたお陰で、私のつたないヒールでも、効果を発揮することができました。」

「そうじゃろう。儂も、もう少し若ければ、一人で遣り切れたんじゃがのう。それにしても、ヒカル君が回復魔法を使えたとはのう。どうじゃ、教会所属の聖騎士にならないか」

「いえいえ、私のような不信心な者は、錬金術師が似合っています。今回のことは何卒、内密にお願いします」


 司祭様は、当然、内密にするだろう。男爵様も頷いている。問題はホーマさんだ。

 男爵邸に戻る道すがら、ホーマさんが僕に話しかけてきた。

「あなた、回復スキルも、持っていたとはね。収納スキルも持っているでしょう。ポーションを魔法鞄から出したとき、ぎこちなかったのよね。凄腕の錬金術師だし、あなたたち一体何者なの。」

「あなたたち、とは?」

「あの、ももちとかいう女の子よ。あの歳で私と対等にやり合うなんて、プロとしか言いようがないわ」

「それは、僕も思います。味方で良かったと」

「そうやって、話をはぐらかすのね」

「とりあえず、今回の件、内密にして頂いたら、今後、継続してポーションを納品します。もう少ししたら、エキストラポーションも作れそうなんですよね」

「ばぁ、ばかっ。こんなところで、そんな話しないで。これが知れたら、争奪戦が始まるわよ。そして、作ったら私にこっそり頂戴」

 この人は、絶対に敵に回さないと、心に誓った。


 食堂に戻ると、みんなの目が、一斉に男爵の方を向いた。

「どうにか、司祭様の回復魔法のおかげで、事なきに至ることが出来た。お騒がせして済まなかった。さあ、料理も沢山あるので、今夜は大いに食って、飲んでくれ。」

 しめしめ、司祭様一人の活躍におさめてくれた。これで僕のスキルがバレずに済む。男爵様、グッドジョブ。


 宴会の飲み物は、エールかワインだった。こういう席では、強い酒は出さないようだ。食事は、大皿に持ってあり、ナイフで切り分けて、スプーンか手で小皿に取り分ける様だ。手づかみで食べるのも構わないらしく、ワイルドな食事風景になっている。勿論、フィンガーボールや、手拭き用の布はふんだんに置いてある。パンで手を拭いているのは、どうかと思うが。

 お肉は、フォレストタイガーの他に、オーク、ワイルドボア、牛肉があった。見た目では分からなかったけど、[鑑定]スキルのお陰だ。

 野菜もいろんな物が、生サラダ、温野菜として提供されており、果物もあった。フォレストタイガーは、食べたことないけどA5ランク和牛並に美味しかった。けれど、一番気に入ったのは、ルルの実だった。ジュースではなく、果実そのもので出されていたのだが、言葉で表現出来ない美味しさだった。

 食事の間中、スカーレット嬢が僕にべったりくっ付いていた。ひょっとして、気に入られた?


 宴会は途中から、冒険者ギルド長がエバさんを呼んだり、ホーマさんが対抗してメイちゃんを呼んだりして、グダグダになってきた。若い娘さんが加わったので、おじさん連中、特に司祭様までもがハッスルして、お祭り騒ぎになって行った。男爵も大笑いしている。よっぽどストレスが溜まっていたのだろうな。


 途中、魔法ギルド長、裁定所長、納税所長を紹介された。もう一人の奴隷商館長は、欠席だった。

 宴会は3時間ほど続いた。おじさん連中がはしゃぎ疲れて、おとなしくなった頃、男爵が、宴会の終了を宣言した。

 僕は、アルト執事から白金貨8枚をもらって家路についた。白金貨1枚が100万モグか、って、日本円で300万円! 8枚で2400万円! [収納]スキルを持っていて良かった。


 ハウスに着くと、ニヘイさんが起きて待っていた。

「先に寝てくれていても良かったのに」

「そんな訳にはいきません。今、お茶を入れてきますから」

 リビングで待っていると、しばらくして、お茶を持ってきた。ちょっと濃いめで、熱すぎない紅茶だ。贅沢を言えば緑茶だったら酔い覚ましに最高だけど。


 僕がお茶を飲んでいる間、ニヘイさんは下を向いていた。飲み終わっても顔をあげないので、気分でも悪いのかと聞いてみた。

 ニヘイさんは、ゆっくりと顔を上げ、しばらく僕の顔を見つめた後、意を決したように話し出した。

「ヒカル様から頂いた、袋入りの胡椒は、どこで手に入れられた物でしょうか」

 冒険者ギルド長からは、他言しないように言われたけど、奴隷のニヘイさんには守秘義務が課せられているから、話しても良いだろう。

「実は、昨日たまたま、3人の盗賊を倒してしまって、その盗賊が持っていた魔法鞄が僕の物になったんだ。胡椒の袋は、その中に入っていたよ。倒したのは、首領と副首領2名だけど、その盗賊団は、残り200名近くの大きな盗賊団だから、魔法鞄を取り戻しに来るかも知れない。だから、このことは、くれぐれも秘密だよ」

「その盗賊団は、デスデス団ですか」

「そ、そうだけど。良く知っているね」

「さっきの胡椒の袋、父が王都に持って行くために、新たに作った袋なんです。それが、途中でデスデス団に襲われて....」

「ちょっ、ちょっと待ってね」

 僕は、盗賊の魔法鞄から、宝飾品を取り出した。

「この中に、見覚えのあるものある?」

 ニヘイさんは、宝飾品の山をじっと見て、直ぐに1つを手に取った。

「こ、これは、お母様の指輪です。おどうざまがらいだだいで、ずびー、だいぜづにざれでいだゆびばでず。ひーひー、おがあざばー、うぐっうぐっ」


 なんという巡り合わせなんだろう。いろんな偶然が重なって、1つの指輪が、持つべき人のもとに帰ってきた。ニヘイさんは、指輪を抱きしめ、ずっと泣いている。


 さて、どうやって慰めよう。と、思った時、ももちの声が聞こえてきた。

「ヒカルが帰ってきてないかと、リビングに降りてきたけど、ニヘイちゃんを泣かしてる」

「ちっ、違うんだ、これは、」

「ニヘイちゃん、泣きたいときは思いっきり泣くのよ。お布団の中で泣いて、泣いて、泣いていたら、その内、眠っちゃうから。朝起きた時は、少しは気分も軽くなっているわ。目のまわりは腫れているけど」

 ニヘイさんは、少し泣き止み、軽く頷いて、指輪を僕に差し出した。

「それは、ニヘイさんのものだよ。」

 また、ニヘイさんが泣きそうになったが、モモチが慌てて

「なになに、プロポーズしたの? ひと目会ったその日からって、ヒカルも隅に置けないなあ。さあ、襲われない内に、早くベッドに戻ろう。私が守ってやるから。ヒカル、お茶の後片付けよろしく」


 多分、ももちは、話を聞いていたと思う。ニヘイさんに泣かれて困っている僕に、救いの手を差し伸べてくれたんだ。プロだなあ。

 リビングを出る時、ももちが振り向いて、

「ヒカル、馬の名前は、ロシナンよ」

「ど、どうして分かったの」

「[テイマー」スキルに決まっているじゃない」と、ニヤリと笑った。


 茶器は、洗うのが面倒くさいので、浄化もどきをかけた。ついでに、全身も浄化もどきをかけた。きれいにはなったけど、転移してからずっと、同じ服を着ている。明日は、この世界の冒険者服でも買いに行こう。


 ソファーに横になって、これまでのことを考えた。転移して4日目だが、10年分の出来事を体験したような気分だ。特に、今日一日は、大変だった。

 ももちに会って、さきちゃんに会って、ニヘイさんに会って、エバさんにもメイさんにも会ったなあ。女の子だけじゃなく、4人のトーベンも強烈だった。でも一番インパクトが強かったのは、ホーマさんか。

 豪邸も借りたし、奴隷も買ったし、あと、ポーション売って大金も手に入れたし。明日は、平穏な一日を過ごしたいな。

 恒例のステータスチェックは、止めておこう。今日は、戦いが無かったから、そんなに上がっていないだろう。

 明日は、商業ギルドで、お肉と魔石を渡して、それから....。

 あれ、さきちゃんは、ちゃん付け、ニヘイさんは、さん付けなのに、ももちは、なんで呼び捨てなんだろう。明日の朝、みんなで呼び方を......zzz

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