第25話 ヒカル、奴隷を買う - さきちゃん登場
2026.05.23訂正
ホーマさんのセリフ
誤:ワタル、頼りになる人材を見つけたのね → 正:ヒカル、頼りになる人材を見つけたのね
「ねぇ、ヒカル。バナの実を分けてくれない」
不意を突かれて、「はい」と答えて、50本ほど、応接テーブルに出してしまった。きっと、冒険者ギルドでの情報が伝わっているんだ。横目で、ももちをみると、なぜかニコッと笑っていた。
「こんにちはー、ももちです。お近づきの印として、バナの実、プレゼントしまーす」
「誰、この子」
「冒険者パーティー仲間の、ももちです。こちらは、ギルド長のホーマさん」
「冒険者? このあざとい笑顔、商人の方が向いているんじゃない。」
「ももちもー、商人ギルドに登録したいんだけどー、登録料が払えないんですー」
「その話し方、やめなさい。登録料だったら、ヒカルに払って貰えば良いでしょう。これから、もっと儲けるんだから。ということでヒカル、あなた、ハイキュアポーションも持っているでしょう」
「持ってはいますが、容器が鉄の木製で.....」
「それで良いから出して頂戴」
「50本くらいで良いですか」
「ご、ご50本! あなたハイキュアポーションも50本持っているの?」
「持ってますけど、容器が鉄の木なので色が分からないですよ。」
「そう、分かった。取りあえず50本、1本につき80万モグで預かるわ。代金は後日ということで、良いわね」
「後日というのは、いつ頃に?」 と、ももちのツッコミ。
「来月の1週目には支払います。ヒカル、頼りになる人材を見つけたのね。私からは以上。」
「あのう、1つお聞きしたいことがあって。奴隷のことは、商業ギルドが担当していると聞いたのですが」
「奴隷も商品と考えたら、商売という範疇になるから担当はしているけれど。別に詳しいと言うわけじゃないのよ。ただ、懇意にしている奴隷商がいるから、紹介はできるけど。でも、どうして奴隷のことが気になるの」
「僕もももちも(2回目)田舎の出身なんで、都会の常識やしきたりを知らないんです。それを教えて貰うのに、口の堅い奴隷が良いかなと。それと、今回、パーティーハウスを借りまして、そのお世話もしてもらえるかなと思っています。」
「成る程、それなら丁度良い奴隷を知っているわ。ユーカー商会という新進の商会があったんだけど、とある事情で破産して大赤字を抱えたの。商会長には3人の子供がいたけど、赤字の補填のため奴隷になったの。上のイッペイと下のサンペイは領都で売りに出されているけど、真ん中のニヘイはビギンで売られているわ。エバちゃんやメイとも同じぐらいの歳だから、不憫でね。頭が良くて、とっても働き者だから、お望みにピッタリだと思うわ。確か、1500万モグだったと思う。今のヒカルなら余裕で出せるでしょう」
余裕という訳ではないが、今後、報奨金が併せて1800万モグ入るし、ハイキュアポーションの代金も入る。生活費は十分にあるので、ニヘイさんを買い取ることにした。
「分かりました。具体的に、どこに行けば良いのでしょう」
そう言うと、ホーマさんは観光マップを取り出した。
「そのマップ、良く出来てますね。ビギンの街のことが、とっても良く分かりました。釣りの絵とか、所々に描いてある小さな絵が可愛くて、最高です」
「最高だって、メイ。良かったね」
「有り難うございます。絵を描くのに、一番時間がかかったので、褒めていただいて、嬉しいです」
「メイは、仕事も出来るけど、こういうことも得意なの。お料理も美味しいし、ヒカル、お嫁さんにどう?」
「お、お、お嫁さんですか」
「イヤですわ、ギルド長。ヒカルはー、女の人には、弱いのでー、からかっちゃだめですよー」
「(チッ)だから、その話し方やめなさいって言ってるでしょう」
最初の舌打ちが聞こえてしまった。何を考えているんだろう、この人。
「ここが噴水広場。南西角に市場があって、その西隣が公衆浴場。そして、その西に遊技場区画があって、そのまた西にあるのが、奴隷商館。奴隷商館は2つあって、どちらも『人材派遣所』の看板が出ているわ。西の方にある、少し小さめな商館を訪ねていって。商館長のトーベンさんに、ホーマの紹介っていえば、対応してくれるわ。」
「トーベンさん?」
「冒険者ギルド長も同じ名前ね。他に、薬師ギルド長、教会の司祭様もトーベンね。司祭様は、奴隷商館長と同じ名前なのが気に食わないみたいだけど、私にしてみれば、奴隷商館長の方が、よっぽど貧民の役に立っているわ」
「お母様!」
「おっと、今の話はここだけでね。『支払いは商業ギルドの口座から』って言って貰ったら、即日に引き落とすわ。それじゃ宜しくね」
「ヒカル様、ニヘイのこと、よろしくお願いします。エバも心配していました」
「あっ、忘れてた。例の『水筒の蓋』、他でもいろいろ使えそうなので、領都ギルドを通じて、王都ギルドに申請することにしたわ、楽しみにしてね。それと『面白ナイフ』の改良版も持ってきてね」
今朝のことなのに、展開が早すぎる。
僕たちは、ホーマさんにお礼を言って、商業ギルドを後にした。メイさんが手を振って見送ってくれた。緑の制服が春の青空に映える。
「ねぇ、ヒカル、『水筒の蓋』と『面白ナイフ』って、何の話?」
「転移してから、水を入れる物がなかったので、『鉄の木』という堅くて軽い木を使って水筒を作ったんだ。その時、ペットボトルを参考に蓋を作ったんだけど、それがこの世界では珍しく、特許みたいなものを申請してるのさ」
「なんか、ずるいような気がする。でも、どうしてこの世界にきたばかりで、木製の水筒なんか作れるの?」
「[錬金術]のスキルを選んだからね」
「あーあ、ももちも、[錬金術]を選べば良かった。正直、[忍術]以外は適当に選んだから。」
「それと、『面白ナイフ』って何?」
「あー、それは、ホーマさんが適当に名付けているだけで、日本で言うところの『5徳ナイフ』だよ。ナイフ、スプーン、フォーク、ノコギリ、錐を1つにまとめた道具を見せたんだ。そしたら、この世界には、食事用のフォークは無いらしく、『これは何?』って聞かれたよ。でも、衛生面からもフォークは必要だよね。それと、ナイフとスプーンは分離出来た方が良いらしい」
「あら、ナイフとスプーンが離れるサバイバルナイフ、見たことあるわよ。それぞれに、ポッチと受け口を作って、それを合わせて捻ったら、1つにまとまる奴。それと、どこかのラーメン屋で見た、スプーンの先がフォークになっているのを作れば、どっちにも使えて便利じゃない」
「そうか、その手があったか」
「アイデアは私が出したから、申請者は私にしてね。名前は『ももちナイフ』。これで儲けたら、百地流忍術道場を作るわ」
半ば冗談めかして話していたが、後に、「ももちナイフ」は大陸中に大流行し、冒険者や貴族の必需品になった。ももちは、領都と王都に大きな道場を作ることになる。
話をしながら歩いていたら人材派遣所の前についた。ギルドと同じような建物で、トーベンさんの商館は、隣の3分の2くらいの大きさだった。
受付で、ホーマさんの紹介でトーベンさんに会いに来た旨、伝えると、直ぐに商館長室へ案内された。
こちらのトーベンさんは、顔と体型が○(丸)で構成されているような風貌で、背中を押したら転がって行きそうな人だった。
ホーマさんのアドバイスにより、ニヘイさんを買いに来たことを伝えると、ソファーに座るよう促され、そもそもの長い話が始まった。
「奴隷を購入される前に、承知して頂きたい事が、数点あります。」
まとめると、次のとおりだ。
奴隷の種類としては、犯罪奴隷と経済奴隷がある。
犯罪奴隷は、文字どおり、奴隷罰に相当する犯罪を犯した者に対する刑罰であり、主に重労働等を課せられる。基本的には、定められた年数(刑期)を経ないと、奴隷から解放されないが、例えば、戦争で大きな成果を上げる等の功績があれば刑期の繰り上げ措置が取られる。
また、重労働等に不向きな奴隷については、経済奴隷として売却される。この場合も相応の功績がなければ、奴隷から解放されることはない。
こういった事情から、全て国が管理している。
これに対し、経済奴隷は、借金がある者や、経済的困窮者が対象の奴隷制度である。借金がある者については、奴隷商会が一時的に借金を立て替え、利益・手数料等を上乗せした額で売却する。
経済困窮者については、奴隷を志願することで利益を得(身売り金)、その金で家族等を養うものである。
経済奴隷には、相応の給与が支給されており、貯蓄する事により、自分を買い戻す(奴隷からの解放)ことも可能である。しかし、借金奴隷については、往々にして借金額が大きいため、事実上、買い戻しは不可能である。経済困窮者についても、その給与が家族の生活費に回るため、負のスパイラルから抜け出すことは、困難である。
この経済奴隷については、民間の奴隷商会が管理する。
経済奴隷に課される基本的な義務は、
1.奴隷は、命令が法に反しない限り、それに従わなければならない
2.奴隷は、自分の身を犠牲にしても、主人の身を守らなければならない
3.奴隷時及び奴隷解放後も、主人の秘密については、守らなければならない
4.奴隷時に生まれた子は、主人の奴隷となる
主人が経済奴隷に対して負う義務は、
1.衣食住の保証
2.最低給与日額300モグ、最低睡眠時間6時間
3.病気・怪我の治療
4.体罰・虐待の禁止
「以上が、この国の奴隷制度のあらましです。ヒカル様には、このことを了承のうえ、奴隷契約書に署名いただくことになります。なにか、ご質問はございますでしょうか」
「重労働等に不向きな犯罪奴隷とは、どのような人を言うのですか」
「妊婦、障害を持つ者、18歳以下の女性などが該当します」
それでいくと、ハープ・ゲッター嬢は、重労働に回されることはないな。
「どーして、看板が『奴隷商館』じゃなくてー、『人材派遣所」なんですかー」
「『奴隷商館』ですと、無理矢理、人身売買しているように聞こえるじゃないですか。いや、そうなんですけど。でも、私共としては、必要とされるところへ、経済的に問題のある方を送り込む仕事と考えているのです。そうすることによって、負債を返していったり、必要な生活費を家族のために作り出すことができると思っております。まあ、自己満足ですけど」
親の借金を子供が背負うということが、この世界では大前提なんだなあ。
「ただ、決して、儲けのためだけに、この商売をやっている訳ではないです。おとといも、一文無しでパン屋のパンを勝手に食べて捕まったうえ、身分証を持っておらなかったため、罰金も払えない人がいたんですが、とりあえず、うちで預かっています。そういう人も、人材として派遣できるようになれば、給与からパンの代金や罰金を払い、自由の身になることができます。そういう業務も含めて、人材派遣所なんです」
「分かりました。いろいろと大変そうですね。丁寧な説明、了解しましたので、先ずは、ニヘイさんに会わせてください」
「承知しました。今から、奴隷達の待機場所にご案内します。ついでに、先ほどのパン泥棒も見て行かれますか? 偶然にも、ヒカル様と同じような青いズボンをはいていますよ。この辺では、あまり見ないデザインですね」
僕とももちは、顔を見合わせた。
「ニヘイの親は、10年前から頭角を現してきた商人だったのですが、店舗の王都進出詐欺に引っかかり、多額の負債を抱えまして。それを挽回するために、森の素材を大量に仕入れ、馬車10台で王都まで運ぼうとしたんです。でも、馬車10台は目立ち過ぎて、案の定、盗賊に襲われ、夫婦ともども命を落としてしまったんです。残された子供達は、結局、負債を返しきれず、奴隷となってしまいました」
「着きました、この部屋です」
トーベンさんがドアを開けると、そこには50畳(9m×9m)ほどの部屋が広がっており、20人程の女性が、思い思いの姿勢で寛いでいた。ん? 女性?
ドアのところで立ち止まっている僕たちのところへ、一人の女性が近づいてきた。
「トーベンさん、私いつまで、拘束されるのですか。」
黒髪ショートカット、黒い瞳の、ももちよりちょっぴり背が高い、スレンダーな女の子だ。彼女は、ブルージーンズをはいていたので、[鑑定2]すると、
名前[さき・きよみず]、種族[人間]、年齢[18歳]、出身地[日本]
称号[転移者]、職業[経済奴隷]、レベル[1]
HP[100/100]、MP[100/100]
ス キ ル:ポイント[100]
収納(中級)[ 0]、回復(中級)[ 0]
弓術(上級)[ 0]、料理(上級)[ 0]
統率(上級)[ 0]
ステータス:ポイント[100]
STR(筋力)[ 0] VIT(体力)[ 0]
DEX(器用)[ 0] INT(知力)[ 0]
AGI(敏捷)[ 0]
ヘッ、ポイント割り振っていない。何してたんだ、この子。
「さきちゃん、安心して。君を買ってくれる人が現れたかも知れないよ」
「私、売り物じゃありません。この世界の『ジンケン』は、どうなっているの」
「このとおり、時々訳の分からないことをしゃべるので、困っているところです」
「僕に任せてください」
「さきちゃん、とりあえず、ここにいるジャージ着ている子の話を聞いてくれる」
「ジャージ? あっ、あなたジーンズ」
僕は、さきちゃんが転移者であることを、ももちに耳打ちし、対応を頼んだ。
ももちが、さきちゃんを部屋の隅に連れて行って、状況を説明している間に、もう一つの問題を片付けることにした。
「ところで、ニヘイさんは」
「そうでした、そうでした。ニヘイ、こっちに来て」
「ハーイ、何かご用ですか」
「こちらのヒカル様が、ニヘイに興味があるそうだ」
「やっぱり、女性なんですね」
「ヘッ、そりゃそうですよ。ニヘイ、ニヘラは女性の名前ですからね。」
「じゃあ、イッペイ、サンペイは?」
「そりゃ、男性の名前ですよ」
こういう知識を学ぶため、やっぱり奴隷は必要なのか?




