第24話 ヒカル、家を借りる - 恐るべし[忍法くノ一]
「それと、3日間の講習があると聞いたのですが」
「えぇ、今日が17日火曜なので、一番近い講習で20日金曜からの3日間です。これを外すと、一月後になりますよ。」
「分かりました。その日に、僕とももちの2名でお願いします。」
「えっ、ヒカルさんも受講されるんですか?」
「はい、初歩から勉強しようと思いまして。それと、ソルグスさんの馬、しばらく預かって貰えませんか。できるだけ早く、住むところを決めますので」
「それなら、パーティーハウスはどうですか。ギルドの直ぐ裏に、家具付きの良い物件がありますよ。馬2頭が入る厩舎付きです。ギルドの補助もあるので、月額50000モグです」
「じゃあ、その物件、見せて貰っても良いですか?」
「どうぞ、どうぞ。ご案内する準備をしますので、少しお待ちくださいね。」
そう言って、エバさんは奥の方にひっこんだ。
「ねえ、月50000モグって、日本で言うと、15万円ってことよね。大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。ポーション1本、40万モグで売れるって言っただろう」
「でも、今後の生活費を考えれば、40万モグって、あっという間よ」
「50本売れるから」
「50本? 40万モグが50本売れるということ? それだと、2000万モグだから、日本円で、ろ、ろ6000万円。ヒカル、私にもポーションの作り方を教えて」
「錬金術のスキルを持っていないから無理だよ。そんなことよりももち、名前の登録は『もも』じゃ無くて名字で良かったの?」
「私、修行中に30mの崖から落ちたから、多分、死んじゃったの。女神様も、元の世界には戻れないって言ってたし。だったら、この世界で、百地流忍術を広めようと思って、少しでもみんなに『ももち』という名を覚えて欲しいの。」
「成る程ね。名前の件は分かったけど、エバさんに対して、あの残念な話し方はなんだ」
「可愛いけど、少し残念な子の方が、相手の懐に飛び込み易いの。つまり、[くノ一]の術よ。あ、それとヒカル、私もパーティーハウス、使っても良いのよね」
「パーティーの一員だから、当然、使えるけど」
「やったー、これで宿泊費が浮くわ。でもヒカル、絶対に変なことしないでよ」
そうこうしている内に、エバさんが戻ってきた。
エバさんが案内してくれたパーティーハウスは、歩いて2~3分の距離で、大通りには面していないが、その分閑静な高級住宅地にあった。
家は、5万モグの家賃からは想像できないくらいの邸宅で、石造りの洒落た3階建て洋風建築だった(和風だったら笑えるけど)。
「どうですか、結構、大きな家でしょう。以前は8人パーティーが使ってたんですよ。家具は備え付けで、年に3~4回、浄化魔法をかけているので、後は、魔石さえ入れれば、今からでも住めますよ」
「魔石はどういう物を? 大きさは?」
「基本的には、お風呂や台所で青色を、台所で赤色を、あと部屋の灯り用に透明が必要です。大きさは中魔石があれば、1年以上交換不要ですが、高く付きますので、小魔石を交換しながら使った方が、お得ですよ」
「青、赤、透明ですか。黒とか緑は使わないのですね」
「ヒカル様は、黒魔石をお持ちなのですか」
「えぇ、中程度ですが」
「黒魔石で中と言ったら、この辺りではフォレストタイガーのものですね。肉や毛皮はどうされました。」
「魔法鞄に入れてますが」
「是非、冒険者ギルドに売ってください。基本的に素材の買取価格は、どこのギルドでも同じですが、フォレストタイガーの毛皮については、人気があり、値段交渉による販売となります。当ギルドに任せて頂ければ、全力で交渉に当たります」
「毛皮の件は分かりましたが、取りあえずは、この家の契約をお願いします。」
「あっ、済みません。私ったら、つい熱が入って。早速ギルドに戻って、契約書を作成します。」
ギルドに戻った僕たちは、エバさんが契約書を作成する間、ギルド1階にある食堂で昼食を取ることにした。
昼食は、A定食(300モグ:オーク肉入りスープ、山盛りサラダ、ベーコンエッグ、白パン)、B定食(200モグ:ホーンラビット肉入りスープ、サラダ、目玉焼き、白パン)、C定食(100モグ:肉入りスープ、サラダ、黒パン)の3つしかない。値段的には、一般の食堂と変わらないらしいが、冒険者ギルドだけあって、量は、2割増しらしい。
昼間の食堂は、仕事に出ている冒険者が多いので、比較的空いていた。人型魔物の肉は、敷居が高いので、僕もももちも(少し笑える)、B定食にした。
「ねぇ、ヒカル。さっき話に出ていた、馬ってのは、何なの」
「いろいろあって、馬が1頭、僕のものになったんだ」
「えぇー、いいなあ。私も乗って良いの?」
「良いけど、ももち、馬に乗れるの?」
「前のパパが生きていた頃、田舎に住んでて、馬を飼っていたの。7歳までお世話係もやっていたから、結構乗れるわよ。忍者だから、鞍が無くても乗れるよ」
「じゃあ、世話をするという条件で、自由に乗って良いよ。その内、馬車を作って、領都まで行くつもりなんだ」
「やったー。領都って、ここより大きいのよね。どんなとこだろう」
この街のことも知らないのに、もう、領都に付いていく気になっている。
「それにしても、ホーンラビット肉、そこそこいけるわね。前の世界でも、ウサギは捕まえて食べていたけど、それよりも味が深いわ」
「おう、モモの嬢ちゃん、まだウロウロしていたのか。今度の男は、こりゃまた頼りなさそうな奴だな。お嬢ちゃんが守ってやる、ってかぁ」
二人で楽しく食事していたら、出たー、定番の「イケてない先輩冒険者の新人いびり」。きっとこの男だな、プリティーな身体が目当ての冒険者ってのは。
僕は、思わず笑いが込み上げる。ここは、僕のチートなステータスを生かして、壁まで吹き飛ばし、ビックリさせる展開だ。と期待していたのだが、
「おい、よせ。この人、ヒカルさんだ。昨日から、この街を救ったと評判になっている人だ」
後ろにいた男が、小声で忠告していた。それを聞いて、イケてない先輩は、急に顔色が変わった。
「ヒカル、この人よ。昨日、私を襲おうとした人は」
「違う、ちょっとからかっただけで、襲うなんてことは、していない」
「どっちにしろ、僕の『なかま』にちょっかいかけるのは、止めてくれないか」
「すっ、済みませんでした」
イケてない先輩は、そそくさと食堂を出て行った。派手な立ち回りは無かったが、隣でももちが、嬉しそうな顔をしていたので、良しとしよう。
食事が終わって受付へ行ったら、エバさんが、賃貸契約書を手に、待ち構えていた。賃貸契約書は、特に気になることもなかったので、直ぐにサインをした。今月の家賃は日割りで30000モグになっていた。
鍵を受け取ってハウスに行こうとしたが、フォレストタイガーの毛皮を出すのを忘れていた。
「フォレストタイガーは、どこに出しましょうか」
「解体所に、ご案内いたします」
「もう、解体は済んでいます」
「それでは、こちらの方へ」
エバさんが、隣の台を指さした。
フォレストタイガーの毛皮は、マイミー鞄の口より大きそうだ。そこは適当にごまかして、マイミー鞄から取り出したように見せかけ、[収納1]から取り出した。
「見事な毛皮ですね。眉間によく見ないと分からないような小さな傷があるだけで、とてもきれいな状態です。解体もしっかりとされていますので、高値で売却できますよ」
「よろしくお願いします。馬の方は、どうすれば良いですか?」
「後ほど、連れて行きます。飼い葉も3日分、サービスしますね。それと、これは、ソルグスさんのサドルバッグです。今、渡しておきますね」
「ありがとうございます。エバさん、お昼ご飯も食べずに、仕事されていたのですか」
「お昼ご飯なら、バナの実を2本頂いたので、元気いっぱいです」
と、ニッコリ微笑んでくれた。こんな笑顔が見られるなら、もう少しバナの実を渡そうかなと、思っていたら、横にいたももちから、お尻をつねられた。
「今からー、ハウスに行きまーす。馬のこと、お願いしまーす」
ハウスへ行く途中で、ももちから、あきれた顔で言われた。
「さっき、バナの実を追加で渡そうと思ったでしょう」
「ど、どうして分かったの」
「あんなに鼻の下を伸ばして、にやついていたんだもん。何かしようとしていたのは、丸分かりよ。」
「ねぇ、ヒカル。この街で今、バナの実1本、いくらするか知ってる?」
「ご、50モグくらいかな」
「とんでもない。1本1000モグよ。50本で50000モグ。日本円にしたら15万円の果物を、受付の女の子にホイホイプレゼントしたのよ。もう少し、お金の使い方を考えないと、その内に、破産するわよ」
「分かりました。済みません」
と、謝ってみたが、なんか、可笑しくない。ももちとは、今日、会ったばかりだよ。お金も貸したし、住むところも用意したし、お昼ご飯も奢ったし、怖いお兄さんも追っ払ってあげたし。なのにどうして、バナナ如きで説教されなきゃイケないんだ。もしかして、[くノ一]スキル発動中? 僕の忍者スキルには、男だから[くノ一]が無かったので、それがどんなスキルか分からない。[忍術(上忍)]がレベルアップして、あらたに[くノ一指導]みたいなスキルが加わったら、ガンガン仕事させてやるからな。
「ヒカル、目が上を向いて、口元が下がっているわよ。何を考えているの」
そもそも、家を借りるとき、家の中に入らず、外観だけで決めるというのは、どうかしていると思う。しかし、パーティーハウスの内側も、外観どおりの豪華さだった。
玄関をはいると、広いホールがあり、左手に、キッチン・食堂・リビングがある。右手は、洗濯室や物置、地下には、貯蔵室やワインセラーがある。
2階はダイニング、書斎、浴室、3つの寝室がある。3階は、2つの浴室、5つの寝室がある。当面は3階を使うことはないだろう。
魔石は1カ所で集中利用するらしく、赤と透明は、盗賊のウエストポーチに入っていた中魔石を使った。青は、ワームから沢山出てきた小魔石があったので、それを使用した。どれも快適に動作した。
家具は揃っているが、シーツ、タオルなどが無く、着替えも必要なので、買い物に行くことにした。途中、冒険者ギルドに寄って、留守にしていたら、適当に馬を厩舎にいれて貰うよう、お願いした。
買い物に行く前に、冒険者ギルドの隣に建っている商業ギルドに寄ることにした。商業ギルドも冒険者ギルドと同じような大きさだったが、食堂はなく、受付がずらっと並んでいた。一番可愛い受付の子に要件を伝えた。
「済みません、ホーマギルド長から言われて、メイさんに会いに来たのですが」
「ヒカルさんですね、メイです。ギルド長から聞いています。あっ、アポの実、ありがとうございました。」
やはり、一番可愛い子で正解だった。メイさんも、エバさん同様、明るい笑顔の素敵な子だ。
「では、身分証のカードを作成します。」
それから、冒険者ギルドとまったく同じ質問があり、最後にカードに血を垂らした。
カードを手に取ってみたが、ランクが表示されていない。
「あのぉ、僕のランクは」
「カードの素材で級が分かります。ヒカルさんは銅級ですね、冒険者でいうとDランクです。今後は、銀、金、白金、ミスリルと、ランクアップしていきます。ミスリル級は、国に一人程度と少ないですが、ヒカルさんなら、白金級までは確実にアップするだろうと、ギルド長が言ってましたよ」
「登録料は、サービスするようにと、ギルド長が申しておりました。それと、このカードで口座からお金を引き出せます。ハイヒールボーションの代金として、本日、2500万モグを入金しています。」
「1本40万モグの50本で、2000万モグの間違いでは」
また、横に立っていたももちからお尻をつねられた。横目で見ると、「貰えるものは貰っておけ」という顔をしていた。
「あまりにも、ポーションの赤色が濃かったので、たまたまいた負傷者で検証しました。半分の量で、前日の指の欠損も速やかに修復しましたので、最高級のハイヒールボーションと判断し、この値段になりました。今後は、『ヒカル印のハイヒールポーション』として、人気が出ると思いますよ」
「『ヒカル印』は、ちょっと」
「わーい、名前が付いたポーションって、かっこいいー。ももちも欲しくなっちゃったー」
「ももち、君にはいつでも作ってあげれるでしょう。あっ、紹介が遅れましたが、今度パーティーを組むことになった、ももちです」
「ももちでーす。」
「メイでーす、今後ともよろしくね」
「それと、ギルド長にお聞きしたいことがあるのですが」
「ギルド長からも、ヒカル様がいらっしゃったら、ギルド長室へ案内するように申しつかっております。こちらへどうぞ」
僕とももちは、メイさんから、ギルド長室に案内された。
部屋に入るなり、ギルド長は開口一番
「ねぇ、ヒカル。バナの実を分けてくれない」




