第23話 1人目の仲間 - ももち参上
22話分使って、ようやくスタート地点に立てました。
この作品は、魔王を倒す話でもなく、国を興す話でもなく、ヒカルと7人の仲間達の豊かな異世界ライフのおはなしです。
「資料室は、階段を上って、左手突き当たりです。」
エバさんは、ニコッと笑って教えてくれた。僕もニコッと笑って手を振った。心が温かい、帰りも挨拶して帰ろう。
資料室のドアの前でノックすると、「どうぞ」という男性の声が聞こえた。ドアを開けると右手に受け付けがあり、若い男性が座っていた。
男性の後ろの壁には、「本・資料は持ち帰らない事、汚さないこと、元に戻すこと。書き写す時のインク使用は禁止」と注意書きが貼られていた。
「済みません、僕はヒカルと申します。本を見たいのですが、どうすれば良いのですか?」
「あちらの書架にある本や資料は、自由に閲覧できます。貴重本や稀覯本は、男爵様やギルド長の許可が必要ですが。」
「そんなたいそうな本ではなく、魔物や薬草の種類、魔石の利用法が書かれている本なんですが」
「それなら左手の図鑑の書架ですね」
「それと、この国の地図や、お金、暦など、常識的なことが書いてある本はありますか。」
「地図は、中央の書架の地理・歴史の本に簡単な図が書いてありますが、詳しい物は、道具屋でお求めになられた方が宜しいかと思います。暦については、今年の物が、1階の購買に売っています。3ヶ月過ぎてますから、割引していると思います。お金や常識的なこととは、具体的にはどのようなものを言われているのでしょうか?」
「例えば、この国に初めて来た人が、常識を知らないため恥をかくことがないように勉強するための本とかありませんか。」
「難しいですね。子供向けの学校では本とか使ってませんからね。人を雇うか、奴隷を買って勉強するのはどうでしょう」
出ました、異世界(小説)定番の奴隷が。この世界での奴隷の扱いはどうなっているのだろう。
「その、奴隷というのは、どのようなものでしょうか?」
「奴隷については、商業ギルドが担当していますから、そちらで聞かれた方がよろしいかと思います」」
「ありがとうございます。後で、行ってみます。では、図鑑を見させていただきます。」
「ちょっとまって下さい、ヒカルさん。今年の暦、間違って2つ買ってしまったので、ひとつ差し上げます。」
僕は、お礼を言って、暦を受け取った。
受付を通ると、机が4つあり、その向こうが書架となっている。また、それぞれの机に、向かい合う形で椅子がおいてある。定員8人ということか。
僕は椅子に座り、貰った暦を机の上に拡げた。A3を少し大きくしたサイズで、4度折られて、16分割されている。一分割に、一月分が載っており、全部で12月分ある。
月の呼び方は、日本と同じように、1月から12月まで、数字で呼ばれている。月は全て30日で、光、風、火、水、木、金、土の七曜である。日本のカレンダーの様に、日曜が赤数字、土曜が青数字で表示されることは無く、全部黒数字である。13分割目には、上に曜日が振ってある5日間が表示されている。
どうやら、この国も、1年は365日で、一月を30日とした分、帳尻あわせとして、最後に5日間を付け加えているようだ。
残りの三分割には、祝日の説明が書かれているようだ。1月28日はビギンの日、9月14日はモーム神の日、10月30日は女神フークの日などなど、当然ながら日本にはない祝日ばかりだ。
どうしてそうなったのかは謎だが、要するに、24時間制も含めて、前の世界とほぼ同じに考えて良いということだ。
次に、魔物図鑑でも見てみようと、書架の前に立っていたら、背中越しに声をかけられた。
「街を救った勇者さんは、勉強熱心なのね。」
職業「忍者」でステータス高めの僕が、背後に立たれて、全く気付かなかった。おどろいて振り返ると、そこには、黒髪ツインテールで小柄な女の子が立っていた。
「あなたのおかげで、昨日の夜は、3日ぶりに、ちゃんとしたご飯を食べることができたわ」
昨日の夜というと、壁の前に集まった冒険者か。たらふく食って、飲んだのだろうな。それにしても、「3日ぶりに、ちゃんとしたご飯」って、僕と同じじゃないか。んっ?僕と同じ?
僕は彼女を[鑑定2]し、プフッと吹き出した。
「人の顔を見て、いきなり笑うって、失礼じゃありません?私の顔のどこが可笑しいんですか?」
「いや、顔じゃなくて、名前が、あっ」
「私の名前のどこが可笑しいんですか? それよりどうして私の名前がわかるんですか? 初対面なのに」
はい、まったく僕のミスです。鑑定したから分かったなんて、言えません。
「ねえ、どうしてですか?」
受付の男性が、こちらを見ている。僕は、彼女の手を引いて、書架の奥の方へ行こうとした。
「止めて下さい。あなたも、他の冒険者と同じなんですね。私のこのプリティーな身体が目当てなんですか」
「大丈夫ですか、何か問題でも」と、受付の男性
「いえ、なんでもありません」
僕は、そう言って、男性から見えないように、彼女に苦無を見せた。
「それは、くな」
苦無に反応した彼女の口を塞いで、書架の奥へ連れて行った。僕が彼女に苦無を見せた理由は、彼女のステータスが、
名前[もも・ももち]、種族[人間]、年齢[18歳]、出身地[日本]
称号[転移者]、職業[忍者]、レベル[1]
HP[100/100]、MP[100/100]
ス キ ル:忍術(上忍)[ 60]
回避(上級)[ 10]
俊足(上級)[ 10]
暗器(上級)[ 10]
テイマー(上級)[ 10]
ステータス:STR(筋力)[ 20] VIT(体力)[ 20]
DEX(器用)[ 20] INT(知力)[ 20]
AGI(敏捷)[ 20]
と、なっていたからだ。
苦無に続いて、忍刀も見せた。
「どうしてあなたが忍具を持っているの。この世界にも忍者が存在するの?」
「普通は、そう考えないだろう。僕も、君と同じ転移者だよ」
「お仲間ってこと。流派は、伊賀? 甲賀? それとも戸隠?」
「いや、僕は忍者に憧れていただけだから、流派とか、関係ないよ。君もそうじゃないの」
「私は、正真正銘、百地流と藤林流のハイブリッドよ」
「ハイブリッドとは、どういうこと」
「そんなことより、エーっと」と、もも・ももちさんが僕を指さしたので、
「僕の名前は、寺田光。ヒカルと呼んでくれ」
「私は、百地桃。ももちと呼んで。ヒカルはいつ頃転移したの。」
「ももちと同じ、3日前だよ」
「えぇ、あの時の39人の中には入っていなかったけど」
「きっと目覚めるのが遅かったので、誰も気が付かなかったと思う。というか、ももちは、あの時の人数も顔も覚えているのかい」
「当然でしょう。現代を生き抜く忍者は、それくらい出来ないと、食べていけないわ。それくらい出来ても、この世界では食べていけないんだけどね。ヒカルは食べ物とかお金はどうしていたの」
「食べ物は、森の果物で済ませていた。お金は、ポーションを売ったりとか、色々あって、今では、ちょっとしたお金持ちだけど」
「たった3日でお金持ちって、信じられない。ねえ、少しお金を貸してくれない。身分証もらうための冒険者登録もできない。お金を稼げないから、ご飯もまともに食べられない。もう、完全に詰んでるの」
同じ日本人として、困っている人を見捨てることはできない。それに、可愛いし。と言うことで、小金貨を10枚貸すことにした。
「ありがとう、で、これ日本円になおすとどのくらいなの」
「普通の宿屋が朝食付きで2000モグだから、物価は日本の3分の1だと思う。小金貨1枚で10000モグ、10枚だから10万モグ。日本円になおすと、30万円くらいかな」
「そんな大金、ついこの間、高校を卒業したばかりの女子にとっては、手が震えるわ」
「まあまあ、ハイヒールポーション1本売れば40万モグ手に入るから、あんまり気にしないで。返すのは出来た時で良いし、出来なかったら返さなくても良いし」
「返します。百地一族の名にかけて」
「先ほどから出ている百地とか藤林って、伊賀の上忍3家の?」
「そう、良く知っているわね」
「勉強はしたからね、忍者の。ところで、ハイブリッドとは?」
「百地家のママと、藤林家のパパが結婚して生まれたのが私。私が7歳の時、パパが任務中に亡くなったの。しばらく2人で暮らしていたけど、私が10歳の時、ママが、百地家の当主の長男と再婚したの。新しいパパは、昔からママのことが好きだったみたい。それで姓が百地に戻って、今に至る」
「それで名前が、へ、ファンタジーな名前になったんだね。」
「今、『へ』って言わなかった」
「いやいや、ファンタジーをヘンタジーと間違えそうになっただけ。だいたい、真樹さんのお母さんが原さんと再婚したとか、真理さんのお母さんが水田さんと再婚したとか、良くある話じゃないか」
「なんか、適当に誤魔化された気がするけど。で、どうして私の名前がわかったの。」
「そ、それは後で説明するよ。とにかく冒険者登録に行こう。僕も一緒に行くよ。講習について聞きたいことがあるし」
僕たちは、受付の男性に会釈をして、資料室を出た。
「高校以降、女子とこれだけ長い時間話をしたのは、裏切られた恋人以外にはいなかったなぁ。高ステータスのお陰で、コミュニケーション下手が解消されているのかなぁ」と考えながら受付に向かった
受付に立つと、エバさんがニッコリ微笑んで、
「アポの実ありがとうございました。品不足で値段が高くなって、少ししか食べていなかったので、とっても美味しくいただきました」
飛びっきりの笑顔に、ズギュンと心臓を打ち抜かれ、調子に乗りました。
「良かったら、バナの実もどうぞ。」
と、50本ほどカウンターに置くと、
「わぁー、こんなに沢山、ありがとうございます。私、バナの実が大好物なんですけど、今年は、ワームとエイプのせいで、1本も食べていないんです。うれしぃー、独り占めしようかな」
最後のセリフに悶えていると、後ろから肩を突かれた。
「私の冒険者登録は、いつになるのかな」
「今からお願いしようと思っていたんだ。すみません、この子の冒険者登録をお願いしたいんですが」
「あら、ヒカルさんに隠れて気付きませんでした、ゴメンナサイ。こちらは、ヒカルさんのお知り合い?」
「ええ、田舎が一緒でして」
「ももちでーす。これ、登録料の10000モグでーす」
「確かにいただきました。それでは、いくつかお尋ねします。種族は人間で宜しいですね」
「はーい。桃の国の妖精とかでも良いですよ」
「お名前は、ももちさんで」
「はーい、ももちでーす」
「ちょっと待って、名前だから、『もも』の方じゃ」
「ももちでーす」
「あと、年齢と出身国、そして、これは任意ですが、職業とスキルを教えてください。身分証に登録しますね。」
「18歳でーす。出身は、日本でーす
「ニ ホ ン ?」
「僕とももちは、ニホン村の出身なんです。出身国は、サクラ王国です」
「サクラ王国でーす。職業は忍者、スキルは忍術でーす」
エバさんの手が止まっている。
「職業は斥候、スキルは斥候術です」
僕が訂正すると、エバさんの手が再始動して、カードはできあがり、血を垂らすよう、ももちに渡された。当然ながら、ももちのランクは、Gだった。
「そのカードは、身分証と口座のお金の出し入れに使いますので、無くさないようにして下さいね。それと、お二人は、パーティーを組まれるのですか」
またまた出ました、異世界(小説)の定番、パーティー。そう言えば、マイミーさん達も「絶好調」というパーティーを組んでたな。
「あのー、パーティーを組むと、どんな良いことがあるんですかー」
話し方は残念だけど、それは、僕も知りたい。
「ギルドが関係しているのは
・1年以上依頼を達成していない場合でも、パーティーの他のメンバーが達成すれば、冒険者登録を取り消されないこと。
・パーティー内メンバーの最上位のランクまでの依頼を受けられること。
・パーティーとしての口座を設けられること。
・ギルドからパーティーハウスを斡旋して貰えること。
・これは、王都に限りますが、パーティーを統合して、クランを設立できること。
くらいですかね。あと、パーティーの方が、信頼を受けやすいので、条件の良い指名依頼が増えますよ」
「パーティーを組みまーす」
「ちょっと、ももち、物事には、良い面と悪い面があるから」
「悪い面は、特にありませんよ。手数料は取りませんし、止めたいときは、自由に解消できます。ギルドとしても、単独で行動されるより、パーティーの方が生存確率があがりますので。」
「それと、レベルが上がりやすいとか、リーダーがポイントを分配できるようになるとか、どうしてそうなるのか分かっていない部分もありますが、特に悪いことではないかと思います。」
「了解しました。パーティーを組みます。」
「それでは、お二人のカードを提出願います」
エバさんは、手元の道具で操作していたが、フッと顔をあげ、
「そうだ、忘れてました。パーティー名はどうします」
「ピーチピーチで」
「いや、ももち.....」
「ピーチピーチでよろしくお願いします。リーダーはヒカルで」
これが、僕とももちと他の転移者を加えた、旅の始まりとなった。
(パーティー名は、その内に変えてやる。)




