第22話 冒険者ギルド長と商業ギルド長 - 無駄遣いはしません(除:推し活)
3人は慌ただしく出て行った。応接室には、僕とトーベンさんが残ったが、直ぐに、ノックも無く1人の女性が入ってきた。入ってくるなり、
「遅れちゃって、ごめんなさい。朝から立て込んでしまって。あら。男爵様達はまだなの」
「もう、要件をすませて帰ったよ。ここに居るのがヒカル、今回の立役者だ。こちらは、商業ギルドのギルド長ホーマだ。」
「初めまして。あなたが、噂のヒカルね。少し待ってね」
そう言ってホーマさんは、鞄から革袋の水筒を取り出し、グビグビ、ゴキュゴキュといい音をさせて飲んだ。
「フゥーッ、相変わらず革袋の水は不味いわね。そうかと言って、私のような魔法下手が出した生活魔法水は不味いから。と言うことでヒカル、アルトさんから聞いたけど、素敵な水筒と、面白いナイフを作ったそうね」
「おいおい、いきなり仕事の話か」
「私は忙しいの。あんたみたいに暇じゃないの」
「好きで暇しているんじゃない。部下が優秀だから、仕事が回ってこないんだ」
「ハイハイ、あんたの娘、エバちゃんは優秀ですよ。でも娘自慢するなら、私のメイも、商業ギルドで一番人気の娘よ。そんなことより、仕事、仕事」
「水筒と面白ナイフを出して頂戴」
そう言われて、鉄の木製水筒と5徳ナイフをマイミー鞄から取り出した。ホーマさんは、水筒を手に取り、一瞬考えて、そして蓋を回してうなずいた。
「あなた、これ、鉄の木じゃないの。どうして鉄の木でこんな細工ができるの。あなた、上級錬金術士?」
「それを作ったの、僕の祖父なんです」
「そうでしょうね。その年で上級ってことは、あり得ないし。蓋を回すだけで、開け閉めができて、その蓋が、コップになっているのは、なかなかのアイデアね。ただし、普通の木で簡単に作れるか、そして水が漏れないかが問題ね」
僕は、[収納1]内で、普通の木から水筒を作り、マイミー鞄経由でホーマさんに渡した。
「普通の木製もあるのね。あなた、生活魔法が使えるなら、これに水を入れて頂戴」
生活魔法水なら、さっき練習したので、水筒の入れ口に向けて、人差し指の先から水を出した。
「ずいぶんな勢いで水を出すのね。魔法の力が強いのね」
そう言って、ホーマさんは、いきなり水筒から水を飲んだ。
「あぁ、美味しい。二日酔いが吹き飛ぶわ。あなた、商業ギルドで働かない。そうしたら、私、毎日美味しい水が飲めるわ」
「おいおい、ヒカルは、冒険者になってもらう予定だ。ヒカルの実力ならビギンの看板冒険者になれるぞ」
「何をいってるの、ヒカルは、どう見ても冒険より物作りの方が楽しいって顔をしてるわ」
「だったら、工房ギルドだろう」
「いちいち、冗談に反応しないで。」
そう言って、ホーマさんは水筒の蓋を閉め、振ったり、ひっくり返したりした。「なるほど、水は漏れないわ。材質を軽くて堅い木にすれば使えるようになるわね。まってよ、ポーションの瓶も同じように作れないかな」
ホーマさんは、ブツブツ言いながらしばらく考えていたが、突然、顔をあげ、
「ヒカル、水筒については、商業ギルドで、木のほかに、ガラス、陶器、鉄などで試作してみて、使えそうなら、王都の商業ギルドに登録するわ。利益は、あなたが8、商業ギルドが2と言うことで良いわね」
「次は、面白ナイフね」
ホーマさんは、僕の返事も聞かずに、話を進めた。5徳ナイフの名前も「面白ナイフ」になりそうだ。
「ナイフ、スプーン、のこぎり、錐は分かるけど、畑で使うフォークの小さいのは何に使うの」
「フォークですが。食事の時に、食べ物を刺したり、押さえたりして....」
「これも、フォークって言うの。こんなの使うより、手を使う方がずっと速くて便利じゃない」
「それだと、手が汚れるし、衛生的じゃないし」
「とにかく、ナイフとスプーンがくっ付いていたら、使いにくいじゃない。そのあたりを、もう一工夫して持ってきて頂戴」
「それと、出来の良いハイヒールポーションを持っているそうね。それも見せて頂戴」
ガラスの容器が、使い回しの1本しかないので、それに[収納1]にあるハイヒールポーションを入れて、ホーマさんに渡した。
「きれいな赤ね。効能にも依るけど、最低でも40万モグで引き取るわ。あと何本ぐらい提供できるの」
「50本くらいは」
「ご、ご、50本。あなた、何言ってるか分かっているの。それだけで2000万モグになるじゃない。」
「50本はあるんですけど、鉄の木のポーション容器に入っているので。」
「それで良いので出して頂戴。鉄の木の方が割れにくいので、そっちが良いという人もいるかもしれない。」
「とりあえず、商業ギルドに口座を作って、2000万モグ振り込んでおくわ。ついでに商業ギルドの身分証も作っておくわ。ギルドの登録料はサービスするね」
「何を勝手なことを言っている。ヒカル、口座も身分証も、冒険者ギルドで作るぞ。盗賊討伐の報奨金もそこに入金するからな」
「2つ作っても構わないでしょ。それじゃあ私、ギルドに戻るわ。ヒカル、この後、商業ギルドに来てね。身分証渡すから。受付のメイに話しておくわ。」
「あ、そうだ。アポの実を持ってたら、少し分けてくれない」
ホーマさんは、50本のポーションを全部鞄に入れていたので、魔法鞄に違いないと思って、30個ほど、アポの実を出した。
「な、なんでこんなに沢山持ってるの、品不足だと言うのに。」
「ビギンの森で採ったんです」
「ビギンの森にあるのは分かってるの。ワームはどうしたの? あなたってほんと規格外ね」
そう言いながらも、アポの実を鞄に入れて、ホーマさんは去っていった。
「嵐のような女だな」
トーベンさんは、ため息を吐いた後、キリッとした顔つきになった。
「ところでヒカル、いったいお前は何者だ」
「何者といっても、初級の錬金術士です」
「ヒカルが倒した3人の盗賊は、1人がBランク冒険者から、2人はCランク冒険者から盗賊落ちした者だ。」
「僕だけじゃなく、ソルグスさんがいたから倒せたんです」
「ソルグスが倒したのは、ヒカルが投げた石があたったせいで転げ回っていたCランク2人だと、アルトさんから聞いている。Bランクについては、ヒカル1人で、ウインド・ブレードを、剣でたたき落としながら、投擲で倒したそうじゃないか。初級錬金術士がそんなことが出来る分けない。まあ、それはいい。問題はここからだ。ヒカルが倒したのは、領都付近を荒らしている盗賊団デスデス団の首領と副首領だ。頭を潰されたと言え、200人程の盗賊がいる。ヒカル、首領の魔法袋には、結構な物が入っていただろう。」
「全部は確認していませんが、お金だけでも沢山あったような」
「奴らは、それを取り返しに来る。ヒカルが盗賊の首領を倒したことを知る者はギルドでも、騎士団でも一部の者だけだ。当然箝口令は敷いている。ヒカルも、他人に話さないようにしてくれ。それと、魔法鞄を使うなら、色や形を変えてバレないようにしてくれ。あと、紋章が付いている物で、元の所有者に買い取って貰う物についても、ほとぼりが冷めるまで凍結するので、ヒカルの方で持っておいといてくれ」
「報奨金は3人分で1000万モグだ。後日、冒険者ギルドのヒカルの口座に入る。それと受付のエバから、身分証を貰ってくれ。」
「さて、次は、ソルグスの件だ。あいつは、領都の孤児院育ちだから、身内はいない。一緒に育った俺が言うのだから、間違いない。」
トーベンさん、サラリと衝撃的な事を言っている。
「魔法鞄については、所有者を殺すなどして、不正に手に入れたものでない限り、遺族がいない場合、新しい所有者の物になる。馬についても、持ち主がいないものを拾ったと言うふうに考えれば、これも遺族がいないので、ヒカルの物になる。」
「あいつの魔法鞄に何が入っているか、鞄の所有者のヒカルしか分からないが、ここからは、相談だ。イヤ、お願いだ。」
「俺とソルグスと、3歳年下の女の子サーシは、女神ミューサを信奉する修道院が経営している孤児院で育った。経営と言っても、この国は、圧倒的に女神フークの信奉者が多いので、修道院は、いつも金策に走り回っていた。孤児院を出てから、俺とソルグスは、冒険者になったが、サーシは、シスターになるために、修道院に残った。ソルグスはサーシのことが好きだったので、シスターになることを反対した。しかし、自分たちと同じ様な孤児の力になりたいという、サーシの思いは強く、止めることが出来なかった。それからのソルグスは、結婚もせずに、孤児院とサーシのために、給料の大半を修道院に寄付していた。ソルグスが騎士団を辞めたのも、冒険者として一発当てて、病で苦しむサーシをなんとかしてやりたいという、想いからだったんだ。」
「できるだけで良いので、ソルグスの持ち物を売って出来た金を、修道院に寄付してくれないか。」
「わかりました。もともとソルグスさんの物ですから、彼の思いをくんで寄付させて貰います。報奨金も、半分はソルグスさんにも権利があるので、そうします」
「ありがとう、ヒカル。思ったとおり、お前は良い奴だな。修道院に行ったら、サーシかマリアに話してくれ。マリアも同じように孤児からシスターになった子だ。エバと同じくらい良いやつだ。」
よーく分かった。トーベンが、熱い男と言うことが。そして、娘大好き父親ということが。エバと結婚する男は大変だな。
「それでは、トーベンさん、今日のところはこれで失礼します。」
「受付に寄っていってくれよ。そうだヒカル、アポの実を少し分けてくれないか」
僕は、アポの実を30個ほど渡して、応接室を出た。
1階におりて受付に行ったら、黄色い制服のエバさんが、僕の方を見て微笑んでくれた。こんなの反則だ。もし握手券があれば、100枚ほど買うぞ。なんてたって、今の僕は、お金持ちだから。
「済みません、ヒカルと言います。トーベンさんから言われ、身分証を取りにきたのですが。」
「はい、聞いております。種族は人間で宜しいですね。」
「はい、そうです。」
「申し訳ございませんが、年齢と出身国、あと、これは任意ですが、職業とスキルを教えてください。身分証に登録します。」
「分かりました。19歳でサクラ王国出身です。職業は錬金術士、スキルは錬金術と生活魔法です」
エバさんは、手元の道具にカードを入れ、操作していたが、すぐにカードを取り出し、僕に渡した。
「これは身分証になっています。また、これで口座からお金を引き出せます。最後に、この部分に、ヒカルさんの血を1滴垂らして下さい。」
そう言われて、ナイフの先で親指をつついて、カードに血を垂らした。どういう仕組みなのかは分からないが、血がカードに染み込んでいく。不思議なもんだとカードを見ていたら、あることに気が付いた。カードの中央に、結構大きく、「D」と書かれていた。
「この『D』とは、どういう意味ですか」
「ギルド長からの支持です。本当はCランクスタートでも良かったらしいんですが、ビギンの街で出せるのは、Dランクまでなので。でも、Dランクでもお得ですよ。施設の使用料や購買での買い物も割引が適用されますし、指名依頼も貰えます。それに冒険者として一目置かれるのも、Dランクからです」
「ありがたく頂戴します。あっ、それと、この街に図書館ってありますか。」
「教会にありますが、そこそこのお布施を取られますよ。でも、今のヒカルさんなら大した額ではないかも知れませんね。それと各ギルドには、無料の資料室があります。」
推しに使うお金はあっても、教会に使うお金は躊躇する。そういうことで、手始めに、このギルドの資料室に行くことにした。
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そして、そこで、1人目の仲間に出会う。




