第21話 はやくもお金持ちに - 日本円でいくらになるの
朝6時に起きた。昨夜9時頃に寝たので、さわやかな目覚めである。しかし、ここ1年、深夜2時に寝て、8時に起きるという規則正しい睡眠だったので、少し、変な気分。
朝食の8時には、まだ間があるので、盗賊から僕の所有物になった魔法鞄の中身をチェックすることにした。
先ずは、小さなウエストポーチからチェック、と思ったが、何が入っているか分からないので、何を取り出せば良いのか分からない。それで、「入っている物全部を出す」と考えたら、えらいことになった。辺り一面、いろんな物が山積みになっている。正直、こんな小さいポーチにこれだけの物が入っているとは、思わなかった。床が抜けるかもしれない。
元に戻そうとおもったが、[収納1]に、[自動整理]、[検索取出]と言う便利機能があることを思いだした。
「ウエストポーチに入っていた物を、[収納1]へ」と唱えたら、あっという間に収納された。そこで、「ウエストポーチの物を[検索]」と唱えたら、その内容が頭に浮かんできた。沢山の物が種別ごとに集められている。おそらく、[自動整理]が働いていると思う。その内容については、
硬貨、宝飾品、短剣・懐剣、懐中時計、香辛料・砂糖、酒・ワイン、ポーション、錬金素材、魔法書
となっている。宝飾品としては、宝石、指輪、ペンダント、ネックレス、ティアラ、ブレスレット等があり、錬金素材については、いつか手に入れようと思っていた、「サラマンダーの血」、「コカトリスの血」や、ミスリルのインゴッド、各種魔石をはじめ、サーベルタイガーの牙、グリフォンの爪など用途が分からないものまであった。落ち着いてから、鑑定して見よう。
硬貨の袋の1つに、プラチナ(白金)と思われる大きな硬貨が入っている袋もあり、それだけで、一財産と思われる。おそらく、このウエストポーチは、盗賊が、「小さいながらも高額な物」を集めた魔法鞄だ。転移して3日しか経っていないのに、経済的には苦労しない状況になってしまった。ポーションを作らなくても、生活できそうだ。でも、錬金術士なので、ポーションは作るけどね。
大きめの背負い袋には、盗賊が身に付けていた物のほか、食糧(肉、魚、野菜)、調味料(塩、ミルク、バター)水、酒、ワイン、武具、防具、ポーションが大量に入っており、仲間と遠征する際の共有袋と推定する。
魔法鞄については、中身も含めて、後日検討するとして、次は生活魔法の検証だ。
昨日、生活魔法書を開いた時、あっという間に、生活魔法の知識が、頭の中に入ってきた。知識は残っているのだが、使う前に、ゆっくり反芻する必要がある。まず、知識としての生活魔法は、次のとおりだ。
・生活に便利な魔法を集めたもの
・光魔法、風魔法、火魔法、水魔法、木魔法、金属魔法、土魔法等、全属性の魔法
が使える
・MPが10ポイント付与される。この10ポイントは他の魔法にも使用できる。
・既にあるMPも、生活魔法に使用できる。
・通常の生活魔法であれば、個人差はあるが、MP1ポイントで使用できる。
・通常例:光(ライトボール、浄化)、風(そよ風)、火(火種)、水(飲み水)
木(加工、成長促進)、金属(研ぎ、研磨)、土(農耕、壁補修)
それなりの効果があれば、非常に便利な魔法だ。前の世界でも欲しかった。今後、使いながら慣れるとして、気になることもあった。
全属性が使えるとあるが、「土魔法等」の「等」が気になる。他にどんな属性があるのだろうか。
通常例とあるが、通常じゃない例とは。例えば、威力増加とか合わせ技とか。
そして一番気になるのが、ステータスにあるポイントUP用の△印だ。例えば、[10]から[1000]にアップすれば、MPも1000増えるのだろうか。
魔法鞄の中身も検証できていない。生活魔法も分からないことばかりだ。どちらも中途半端な状態だが、とりあえず、生活魔法の実験だ。
ステータスをオープンにすると、今のMPは[310/310]と出ている。
先ずは、ライトボール。イメージしたと途端、裸電球のような物が現れ、周りを照らしている。熱くはないが、かなりまぶしい。ダンジョンの中であれば、辺りを照らすのに、十分な明るさだ。次に、手元で書籍を読める程度の明るさに調整する。これ、ベッドの中で本を読むのに、とても便利。
MPは、まだ減らないので、同時並行で種火を出す。右の掌を上に向けて炎をイメージしたら、高さ50cm位の炎が上がったので、慌てて、小さくした。2cm位の炎になったので、掌から人差し指の先に移した。指先から炎が出ているようで、ちょっと格好いい。まだ、MPは310だ。
さらに同時並行で、[収納1]からマグカップを出し、今度は、左の人差し指の先から、蛇口の水が出るようなイメージで、カップに水を注いだ。カップいっぱいになったところで、水を止めた。
同時並行していた光、火、水の魔法を止めたが、まだ、MPは減っていない。通常なら3ポイントは減っているはずだ。「個人差はあるが」となっているが、個人差は、どこから来るのだろうか。ステータスのDEX(器用)が関係しているのだろうか。
マグカップの水を飲んでみた。とても美味しい水だった。魔法のない世界から来たら、なんかワクワクするような体験だ。生活魔法書10万モグ、お値打ちの金額だと思う。
そこまで実験していたら、昨日のメイドさんが朝食を持ってきた。8時40分に迎えに来るので、それまでに食べ終えてくれとのことだった。
朝食は、ハム、チーズ、スクランブルエッグをバンズで挟んだものに、スープ、ルルの実のジュースと簡単なものだったので、直ぐに食べ終えた。
お迎えまで、少し時間があったので、ウエストポーチに入っていたもの(現在は[収納1])を確認することにした。
まず、気になる魔法書だが、生活魔法書が5冊、火魔法書、木魔法書、土魔法書が各3冊、光魔法書、風魔法書、水魔法書、金属魔法書が各2冊、そして闇魔法書が1冊あった。闇魔法は生活魔法の属性になかったので、特殊な魔法だろうか。しかし、生活魔法書だけでも50万モグになる。全て合わせたら、どのくらいの価値になるのだろうか
硬貨の袋は種類別に分けて、7袋あった。鑑定してみると、大白金貨が24枚、白金貨が50枚入った袋が各1つ、大金貨が50枚入った袋が2つ、金貨が100枚入った袋が3つだった。小金貨は袋に入っていなかったが、バラで200枚ほど入っていた。小金貨は10000モグだったので、小金貨だけでも200万モグ。普通の宿が、朝食付きで2000モグだと、コフスが言っていたので、これだけでも、3年ほど泊まれる。とりあえず、お金のことは気にしないですむ。
そうこうしている内に、メイドさんがやってきた。僕は、自分自身に浄化もどきをかけて、後について行った。馬車は、昨日乗った馬車だった。
冒険者ギルドは、噴水広場の北東角にあるので、10分も掛からない内に着いた。入り口を入ると、エバという名前の受付の女性が、2階の応接室へ案内してくれた。黄色の制服が似合う美人さんだった。
応接室には、4人の男性がいた。ゲッター男爵、アルト執事、年配の男性、30歳ほどの男性の4人だ。ゲッター男爵が、早速、口を開いた。
「これで関係者が揃った。ヒカル殿、朝早くから申し訳ない。今日、来て貰ったのは、謀反の件と、スカーレットを助けてくれた謝礼の件だ。」
「謝礼なんて、とんでもない」
「是非とも、謝礼を貰ってくれなければ困る。とりあえず、関係者の紹介から始めよう。」
「正式に名乗るのは初めてだが、私は、ライリー辺境伯からビギンの街を任されている ガッツ・ゲッターだ。私の横が、君も知っている執事のアルト、スカーレットの教育係も任せている。その横がヴァルディ、ビギンの騎士でアルトの息子だ。君の横に座っているのが、この街の冒険者ギルド長で、トーベンだ。受付のエバはトーベンの娘だから、手を出すんじゃないぞ、どうなっても知らんぞ」
誰も、男爵の冗談に笑っていない。もしかして、冗談じゃなく、本当にどうかなるのだろうか。それにしても、男爵とアルト執事は疲れ果てている。徹夜明け?
ここからは、男爵の独断場だ。一気に、ことの顛末をしゃべり出す。
「結果から言うと、今回の件、謀反で処分するのは、スパーク・ゲッター一家と、ホルス元副団長だ。スパークについては、謀反の首謀者だから、厳罰は免れない。ホルスについても、謀反の実行犯なので、処分する。」
「スパーク、ホルスの証言によると、死んだ7人を含め、騎士団の者達は、自らの意思ではなく、スパーク、ホルスの命により、仕方なく行動したと言うことだ。」
「死んだ7人については、自らの意思ではないと言え、実行犯であるので、弔慰の意は表さない。また、家族等の処分までは考えていない」
「謀反の計画を知りながら、私に報告をしなかった騎士、従士については、それぞれ従士、従士見習いに身分を落とし、今後の態度次第では、復帰もあり得る。」
「今後、このような事が起きないよう、騎士団については、その団長職をアルトに兼務させ厳しく対応するとともに、ヴァルディを副団長に任ずる」
「ヒカル殿については、我が娘スカーレット、執事のアルトをゴブリンから救い出し、また、謀反を未然に防ぐ一助となったことにより、深く謝意を述べるとともに、報奨金として、800万モグを贈呈する」
「これは、格段の報奨金なので、心して受領してください」
アルト執事が、僕に目くばせしてきた。なるほど、これは口止め料込みの金額だな。多分、今回の件、本気で処分するとなると、騎士団の半分近くが家族を含めて処分され、街の防衛組織が崩壊する。処分に手心を加えるので、お前も、現場で見聞きしたことを忘れろということか。
「有り難く、拝領いたします。あのう、少し質問してもよろしいでしょうか」
「可能な範囲で答えよう」
「スパークさんとホルスさんの処分ですが、どうなるのですか」
「スパークとその妻は、領都で処刑、娘のハープは奴隷に落とされる。ホルスは家族がいないので、自身の処刑のみだ」
男爵は、自分の弟一家の処刑の話なのに、淡々と語っている。つらいだろうな。
「ゴブリンに襲われた時に亡くなった、5人の冒険者はどうなるのですか。」
「それは、ギルド長のトーベンに任せている。家族を調べて、それ相応の対応をするよう、頼んでいる」
「分かりました。それを聞いて安心しました」
「すまないが、まだ、処理が山積みなので、私とモーツ親子はこれで失礼する。残りの件は、トーベンから話を聞いてくれ。それでは、今夜7時に。報奨金はその時にお渡しする」




