第19話 一難去ってビギンの街へ - ヒカルよ、あれが街の灯だ?
冒頭から戦闘シーンになります。嫌いな方は、3行空白の所まで飛ばしてからお読みください。
敵との距離は、8mほど。
「8人の男達の身につけている物すべてを[収納1]へ」
[収納]スキルを試したけど、何にも起きない。何らかの制限があるのだろう。そりゃそうだ、これが出来たら、[収納]スキル持ちは、天下無敵になる。でも、上級やそれ以上にレベルが上がったら、どうなんだろう。
[収納]スキルがだめだったので、[鑑定2]を使った。騎士は2人とも冒険者Cランク相当で[剣術]スキル持ち。ホルスは、[火魔法]スキルも持ち、もう1人の騎士は[投擲]スキルも持っている。ナイフを投げてきたのは、こっちの方だな。従士は6人ともDランク相当で剣術スキル持ち。
相当に厳しい。転移後で一番厳しい(まだ、3日目だけど)。実力を見せないようにしようとか、殺さないようにしようとか、甘いことは言ってられない。全力でやらなければやられる。
INT(知力)[300]のおかげか、これだけのことを、一瞬で考えた。まだ、相手に動きはない。僕は、猿飛を発動し、盗賊から貰った剣をアルトじいやに渡し、叫んだ。
「アルトは、スカーレットを守って。ソルグスはホルスの相手を。火魔法に気をつけて。残りは僕がやる。」
ホルスの足下に、バナの実の皮を蒔き、6人の従士には、鉄の木の丸太を頭上から落とした。ホルスがバナの実の皮で滑っているのを横目に、「相手は格上だけど、頑張れソルグス」と心の中で応援した。
対峙した騎士からは、ナイフが飛んできたが、苦無を投げて打ち落とした。
「お前も、[投擲]持ちか。これならどうだ」
騎士から5本のナイフが、立て続けに飛んできたので、5本の苦無で打ち落とした。[投擲]スキルの初級より、[忍術](上忍)の[投擲]の方が上回っているようだ。
鉄の木から逃れた4人の従士が、僕の横をすり抜けた。頑張れ、アルト。
グズグズしては居られない。僕は騎士に向けて、10本の苦無を立て続けに[投擲]した。騎士は、苦無5本までは、剣で払ったが、残り5本はすべて命中し、倒れ込んだ。次に、アルトへ向かっている従士4人に苦無を投擲。アルトの一歩手前で従士は、すべて倒れた。
その時、「ウギャア」という叫び声が、ソルグスの方から聞こえてきた。振り返ると、ソルグスが炎に包まれていた。僕は、慌てて[収納1]の清水を掛けた。炎は消えたが、その隙に、ホルスがソルグスに斬りかかった。僕は5本の苦無を立て続けに[投擲]した。ホルスの剣が、ソルグスの肩口に上段から振り下ろされる。「苦無よ先に届け!」という僕の願いむなしく、ソルグスが切り裂かれた後に、苦無5本がホルスに突き刺さった。
僕は、ソルグスへ、ハイヒールを唱えた。何の反応も無い。[神足]で駆け寄りハイヒールポーションをふりかけた。何の反応もない。[収納1]を唱えた。ソルグスは消えた。
ソルグスとは、出会ったばかりだ。彼が死んでも、悲嘆に暮れたり、絶叫することはない。ただ、ついさっきまで話してた人が、目の前で殺された事実は、僕の心にズシンと響く。
今日だけで、12人の人が死んだ。その内9人は、僕が殺めた。いや、僕が殺した。人型のゴブリン、オークも含めると、100人近くになる。
この世界に来て、魔物も含めると、数え切れないほどの殺生をしてしまった。魔物は、まだ人々のためという、言い訳ができる。でも、ホーンラビットも角がなければ、普通のウサギだよ。転移後、死に対する感覚が麻痺してきた。それは、異世界という状況から来るものなのか。それとも、強いステータスが、弱い心を守っているのか。
でも、僕が望んでいるのは、戦いの強者になることじゃない。たくさんのポイントとスキルを使って、豊かで楽しい生活をすることだ。弱い心や優しい心を持っていなければ、本当の豊かさや、本当の楽しさを感じることは出来ないと思う。
僕は、この戦いで使った、苦無、鉄の木、バナの実の皮を淡々と[収納]した。アルトじいやから盗賊の剣も返して貰い、最後に騎士と従士の死体も、[収納1]に納めた。
「あれっ、ホルスの死体が消えない」
ホルスが[収納1]に収納できなかったので、思わず口に出た。と言うことは、死んでないということだ。
ホルスに駆け寄り、苦無の傷跡にハイヒールポーションを振りかけた。更に、もう1本を飲ませてみた。顔に赤みがさし、荒い呼吸をするようになった。服の下に鎖帷子を着ていたので、致命傷を避けられたようだ。
徐々に元気になってきたので、暴れられないように捕縄した。
「仲間は、仲間はどうした」
「死んだ。魔法鞄に入れた」
「貴様が、貴様がやったのか、おのれー」
「少し静かにしてくれ。あんただって、スカーレット嬢達を殺そうとしただろう。ソルグスは、あんたが殺したんだ。先に手を出しておいて、今更、何だ」
そう言うと、俯いて静かになった。
捕縄の縄を引いて、アルトじいやに渡した。
「これは、ゲッター家のお家騒動だ。ソルグスは気の毒な事だったが、僕は口を挟む立場ではない。アルトさんの方で収めてください」
「確かに、ゲッター家の問題だ。執事として、しっかりと旦那様に報告いたす」
「どうして、どうして私が死んだら、ビギンの街が叔父様のものになるの」
「ただ待っていれば、男爵の地位が手に入るお嬢さんには、分かるまい」
「私が死んでも、後継者は、弟のドゥーリルになるだけよ。弟もお父様も殺す気なの。そんなことしたら、王都の調査が入るだけよ」
「そんなことはしない。ただ、スパーク様のご令嬢、ハープ様に、ドゥーリル殿と結婚して貰うだけさ。そうすれば、スパーク様が亡くなっても、ハープ嬢は貴族のままだし、孫も男爵を受け継ぐことになる。あんた、1人が邪魔...」
ホルスがそう言いかけた時、アルトじいやの鉄拳がホルスの頬に炸裂した。アルトじいやがやらなければ、僕がやっていた。
「それ以上言ったら、ワシはあんたを、あんたを」
「やめるんだ。こんな奴をやったって、あんたの手が汚れるだけだ」
僕は、激高するアルトじいやの拳を押さえて止めた。
「ハープは、ハープはこのことを知っているの」
「多分、知らないだろう。お嬢様は、あんたや、ドゥーリル君のことを好いている。このことを知れば、大騒ぎしているだろう」
「今回のこと、何人の騎士が賛同しているんだ」
「騎士の半分は、スパーク騎士団長を支持している。1年の半分は領都にいる男爵様と違って、スパーク様は、我々騎士に寄り添って、親身に接してくださる。」
「旦那様が領都に行かれるのは、伯爵様が王都におられる間、伯爵様の仕事を肩代わりされるためだ。そんなことが分からない訳ではあるまい。騎士団長に従っている者は、誰だ」
「仲間を売るようなことは出来ない」
「良く考えろ。今回の件は『謀反』だ。遅かれ早かれ、このことは、領都、王都の知ることになる。謀反に加担した者は、一族郎党、処罰される。それも重い処罰だ。騎士20名、従士40名の半分が処罰の対象だ。騎士団は、壊滅するぞ」
「徹底的に口封じをするさ」
「それは無理だろう。もう、部外者の僕が知っているんだ。噂を止めることはできないぞ。」
ホルスは、唇を噛んでいた。
「こうしてはいられません。ビギンの街で、何か動きがあるかもしれません。日が暮れる前に着くよう、急ぎましょう」
そう言って僕は、スカーレット嬢を馬に乗せようとして、サドルバッグに手が触れた。
「魔法鞄の新しい所有者になりました。」
と声が聞こえた。誰か死ぬたび、魔法鞄が僕の物になっていくようで、あまり良い気分はしない。
スカーレット嬢の身体は、小刻みに震えていた。それが、寒さのためなのか、ショッキングな出来事のためなのかは分からないが、僕は、マイミー鞄からフライトジャケットを取り出し、スカーレット嬢の肩にかけた。(勿論、浄化もどき済みです)
「変わったお召し物ですね。暖かくて、軽い。有り難うございます、一生大事にします。」
街へ着いたら返してもらうつもりだったが、どうにも言い出せなくなってしまった。それを言えないのが、僕の弱さかもしれない。
馬に揺られながら、スカーレット嬢はずっと俯いている。信じた者に裏切られた気持ち、それは僕も、一ヶ月前に経験したから良く分かる。僕は、命を狙われてはいない。スカーレット嬢の悲しみはいかばかりだろう。
しばらく歩いていると、アルトじいやが、僕に聞いてきた。
「いったい、ヒカル殿は何者ですか」
「駆け出しの錬金術師です」
「駆け出しの錬金術師が、回復スキルは使えませんよ。しかも、お嬢様より強力だ。それに、騎士達を倒した、あのスピード、あのナイフ投げ。達人の技に近いと思います。なによりも一番驚いたのは、突然出てきた材木です。ヒカル殿は収納スキルを持っていますね。それも大きな容量の」
「それは、秘密ということでお願いします。」
「そうですか。あなたのおかげで助かったのですから、あなたがそう仰るのなら他言はしません。ただ、ビギンの街はこれからどうなるか分かりません。あなたにお嬢様を支えていただければ、何よりですが」
「さっきも申しましたように、この先、どうなるか分かりません。いろんな国や街を見てみたい気持ちもあります」
「残念ですが、仕方ありません。せめて、ビギンの街にいる間だけでもよろしくお願いします」
「承知しました。できる限りのことはします。『旅は道連れ、世は情け』といいますしね』
アルトじいやは喜んではいたが、最後の言葉には首を捻っていた。今後、余計な言い回しは止めておこう。
その後は、みんな無言で歩いていたが、その内、日が暮れ出して来た。
「まだ、時間かかりますかね?」
「もうじきに、街の壁が見えてくるはずです」
「あっ、火が見えた」
スカーレット嬢が、馬上から叫ぶ。松明の火だろうか、次々に火が点って行く。
「私達のために、お父様が灯して下さっているのだわ」
スカーレット嬢が、急に馬の足を速めた。ホルスを引き連れているアルトじいやが遅れる。
「アルトさん、後から来て下さい。僕は、スカーレット嬢に付いています」
スカーレット嬢が、僕やアルトじいやのことは忘れて、脇目も振らず早足で街へ向かう。暗い夜道は危険だというのに。この子、代官になった時、大丈夫なんだろうか。しっかりとサポートする人が必要だな。僕じゃないけどね。(フラグではないです)
街に近づくと、状況が分かってきた。たくさんの人が松明を持って集合している。腰には剣を下げているので、きっと、スカーレット嬢を救出に行こうとしているのだろう。そんな中、スカーレット嬢が、みんなの前に現れた。
「お嬢様だ、お嬢様が戻って来られたぞ」
「聖女様、ああ聖女様、よくぞご無事で」
「スカーレット、大丈夫か? 怪我は無いか? 良く戻った」 と、厳つい男が叫んでいる。
「お父様、お父様。」 とスカーレット嬢が飛びつく。
「スカーレット、スカーレット、心配したぞ、無事で良かった」
「ヒカル様に助けて頂いたの」
と僕を探そうとするが、僕は、この後に起きることを想定して、[隠密]で群衆に紛れていた。
「後から、じいやと一緒に来られるわ、裏切り者のホルスを連れて」
「スカーレット嬢、無事戻ってこられたのは、何よりじゃが、ホルスが裏切り者とは、聞き捨てならないですぞ」 と、スパーク騎士団長が、とぼけた顔で話す。
「ホルスが全て話しました。叔父様が何を企んでいるのか、そして、そのために私を殺そうとしたことを」
その時、アルトじいやがホルスを連れて、到着した。うな垂れたホルスの姿を見た騎士団長は、白を切り通すのは難しいと思ったのか、いきなり剣を抜いて、ゲッター男爵へ斬りかかった。
僕は、[神足]で近寄り、[忍刀]で剣を止め、騎士団長の腹を蹴り飛ばした。騎士団長は、「グェッ」と声を上げ転げ回った。STR(筋力)[300]の蹴りは思った以上に強烈なようだ。これで死なれたら気分悪いので、忍刀を首に突きつけながら、こっそりハイヒールをかけた。痛みが無くなった騎士団長が、
「コイツをどうにかしろ」
と、騎士団に向けて叫んだ。騎士団の半数は、剣に手をかけたが、僕が騎士団長の首に忍刀を突きつけているので、それ以上動けないでいる。その時、辺りを一喝するような大声が聞こえた。
「何をしているんだ。お前達がやろうとしていることは謀反だ。これだけの人がいるのだ、謀反のことは、直ぐに王都に伝わる。そうなれば、お前達だけでなく、親、兄弟、一族郎党、重い処罰の対象だ。まだ、何もしていないのだ。今、剣を捨てれば、謀反にはせず、お前達だけの処罰で済ませる。約束しよう」
さすがは執事、ここ一番の大声と迫力だ。剣に手をかけていた騎士達が、続々と剣を捨てた。
こうして、謀反の炎は、燃え上がる前に燃え尽きた。
「お父様、このお方です。私をゴブリンやホルスから守って下さった、ヒカル様です。とっても強くて、とっても優しい方です。サンダルを作って頂きました。この暖かいお召し物も頂きました。ゴブリンの住処から逃げるときも、ビギンの森の階段を降りるときも、背負って頂いたのです。お腹が空いた時は、アポの実と...」
「スカーレットや、そのくらいにしないか。お前もそうだが、ヒカル殿もお疲れの様だ。まずは、屋敷に戻って食べて、休むんだ。話は明日だ。」
「ヒカル殿も一緒に来て下され」
「僕は、まだ身分証を持っていないので」
「そんな物は、代官名でいくらでも作りますぞ」
2000モグ得した?
「ギルド長、集まった冒険者達に酒と料理を振る舞ってくれ。今夜は、朝まで飲み明かせ」
「ウォー」 という歓声があがった。
こうして僕は、ヒカルコールと聖女コールが渦巻く中、ビギンの街の門をくぐった。




