第15話 1人 Vs.軍団 - 戦い終えて、日は真上
「残酷描写」というのが、どこまでの描写なのかが、よく分かりませんが、今話は、戦闘シーンがメインですので、読み飛ばしたい方のために、後書きに要約を載せています。よろしくお願いします。
2026.4.12
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振り向きざまに、2人のゴブリンに苦無を命中させた。もう1人は逃げ出して、「グゲェ、グゲェ」と騒いでいる。仲間に知らせたんだろう。人型のどうのと迷っている暇はない。僕は覚悟を決めた。
「ここでじっとしていて下さい。何とかします。」
「わしも、わしも戦うぞ」
じいやが決死の顔で立ち上がった。如何にも足手まといになりそうな雰囲気だし、何よりも、僕の戦う姿を見せたくない。多分、忍者戦法は、この世界の人達には、異質に感じるだろう。
「お願いします、じっとしていて下さい。」
「しかし、お主1人では」
「お願いです」
「じいや、言うとおりにして」
じいやが、座り込んだ。お嬢様のお願いは絶対だ。
僕は振り向いて、小屋から出た。その瞬間、2本の矢が飛んできた。余裕で躱し、矢が飛んできた先を見た。木の上に2匹のゴブリンがいる。ゴブリンアーチャー(射手)に向けて、牽制の苦無を[投擲]した。2匹とも木から落ちていった。命中率が上がっている。
前を向くと、50匹あまりのゴブリンが、棍棒や剣を持ってこちらを見ている。僕は10m前方へ[跳躍]し、[収納1]に納めている300個のマキビシを前方10mに適当な間隔でばらまき、元の位置に戻った。これで、僕とゴブリン軍団の間に10m幅のマキビシロードができた。
「ブモーウ」と言う声で、ゴブリンが一斉に押し寄せてきた。多分、オークが統率しているのだろう。押し寄せるゴブリン軍団の先頭がマキビシを踏んで、立ち止まって痛がる。動きの止まったゴブリンの額に苦無を命中させる。後続が仲間の屍を乗り越えて押し寄せるが、同様にマキビシを踏んで立ち止まる。そして苦無を命中させる。[集団攻撃]でなんとかなると思っているのか、この繰り返しで、殆どが苦無の餌食だった。残り5匹くらいが状況に気付いて、反転して逃げていった。
僕は、苦無とマキビシを回収し、逃げたゴブリンの後を追った。逃げた先に新たなゴブリン軍団がいた。
30匹程のゴブリン全部が、剣と盾を持ち、皮のような胸当てをしている。そして靴をはいているので、マキビシが効かない。軍団の後ろには、裸のオークが3匹、「ムホ、グホ、ブホ」と言っている。「野郎ども、やっちまえ」とでも言っているのかな。統一がとれている。これが、正規軍なんだろう。
転移後、沢山の魔物を[収納1]送りにしたが、その殆どが、苦無、槍、毒肉で仕留めたもので、刀で切ったのは、薙刀で2回ほどである。刀で切ると、血が飛び散り、返り血を浴びる可能性があるので極力避けてきた。また、刃物で切る映像が苦手で、映画などの手術シーンも、作り物と分かっていても目を背けてきた。
これだけの装備をしているゴブリンを、苦無だけで倒すのは無理がある。今日、2度目の覚悟を決めた。
ゴブリンは、ゆっくりと迫ってくる。僕もゴブリンとの間を詰め、前列の5匹の眉間に苦無を[投擲]した。5本とも命中した。後続が乗り越えてくるが、盾を顔の所に構えてきた。今度は5匹の鳩尾に苦無を[投擲]した。ミスリル並の苦無は、胸当てを貫いて、ゴブリンを倒した。そして、さらに進もうとした僕に向かって、バレーボール大の火の玉が飛んできた。その火の玉を躱した先に氷の槍が飛んで来たので、手甲でたたき落とした。飛んで来た方向を見ると、2頭のオークの肩に、ゴブリンが座っていた。すかさず、2匹のゴブリンメイジ(魔術師)へ苦無を[投擲]したが、オークの持つ棍棒で防がれた。
20匹のゴブリン軍団が目の前に迫って来た。僕は後ろへ2回[跳躍]し、距離を取った。そして、ゴブリンメイジに向けて、ミスリル並みの槍を2本、渾身の力を込めて立て続けに[投擲]した。槍はまるでミサイルのような速さでメイジの元へ到達し、2頭のオークは、棍棒で槍を止めようとした。しかし、棍棒は粉砕し、メイジの頭は吹き飛んだ。
「ブゴッホー」オークが咆えた。怒りの咆哮だろうか? その声に煽られてゴブリン軍団がバラバラに走り寄ってきた。正に混戦模様。ゴブリンにとっては混戦だが、僕は落ち着いて、苦無を[投擲]し、[忍刀]を振り回した。中学生の時イメージしていた忍刀の動きをはるかに超える速度で切り回し、ゴブリンを全滅させた。そしてオークの元に走り寄る。
メイジを肩に乗せていた2頭のオークは、メイジを殺された怒りからか顔の色がピンクから真っ赤になっている。赤オークの1頭が怒りに任せて、新たな棍棒を上段から振り下ろしてきた。僕は、地面に叩き付けられた棍棒を踏み台にして、オークの頭の上に飛び、忍刀を後頭部から下に向けて突き刺した。そのまま忍刀から手を離して、[収納1]から2本目の忍刀を取り出し、2頭目の赤オークと向き合った。
2頭目も棍棒を上段に構えた。少し迷っていたようだが、やはり振り下ろしてきた。僕は、1頭目と同じように前に出ようとしたが、その時、3頭目のピンクオークが、踏み込もうとした先に剣を横薙ぎに払ってきた。1頭目との戦いをしっかり見ていたようだ。僕は後ろに飛んで剣を躱し、忍刀から薙刀へ持ち替えた。
赤オークが、再度、棍棒を振りかぶった隙に、目にめがけて2本の苦無を[投擲]し、間をおかず、ピンクオークの膝を薙刀で切り払った。ピンクオークが足から血を流し跪いたので、返す薙刀で、丁度良い高さになった首をはねた。手応えを殆ど感じなかったが、頸は飛んでいき、血しぶきを浴びた。赤オークの方を振り返ると地面に倒れ込んで動いていない。目潰しのための苦無だったが、どうやら深く刺さったため、絶命したようだ。戦闘を開始してから約5分、ゴブリンとオークは全滅した。今回の戦いで確信した、「僕は強い」と。さて、これからは戦後処理だ。
約80のゴブリンとオークの死体、このまま残すと、僕の実力がバレるし、どうやって戦ったのか、しつこく聞かれかねない。目立つこと無く、悠々自適の暮らしを目指す僕の願いが危うくなる。全部、[収納1]に納めると、あれだけのゴブリンはどこへ行ったのかと、これもしつこく聞かれる。15匹ほどのゴブリンを残し、後は、何故か逃げて行ったことにして、[収納1]してしまうのが無難か。
そうと決まれば、早速実行だ。[神足]でそこらを走り回り、苦無などの武器と、ゴブリン、オークの死体を回収していった。
すべて終わって、お嬢様達がいる掘っ立て小屋に入ろうとした時、返り血を浴びて、全身が赤くなっていることに気が付いた。[収納1]内の清水を頭から被ろうかとも思ったが、閃いてしまった。
「身体や衣服に着いた血や汚れ、ほこりを[収納1]、ついでに肌についた汗や汚れを[収納1]、これまたついでに歯垢を[収納1]、それらを[廃棄]」
こちらの世界へ来てから2日間、風呂に入らず、歯も磨かなかったが、これで、すっきりした。まるで[浄化]スキルを使ったみたいだな。[収納]スキルって、有能。
掘っ立て小屋に入ると、お嬢様が震えながら、じいやの胸に顔を埋めていた。じいやはそっと抱きしめていた。なんか、うらやましい。
「終わりました」と、僕は声をかけた。お嬢様はビクッとした後、顔を起こした。
「何が終わったのですか?」と、震える声で聞いてきた。
「ゴブリンはいなくなりました」
「あれだけ居たゴブリンが?」と、お嬢様とじいやが声を揃えた。
「あれだけと言っても30匹ぐらいでしたから。15匹くらい倒したら、何故か、ゴブリンもオークも逃げて行きました」
「なんと、こんな短い時間で、ゴブリンを15匹も倒されたのか。お若いながら、実力のある冒険者とお見受けいたす」
「いえ、いえ、どこにでもいる初級錬金術師ですよ。それより、ここにいたら奴らが戻ってくるかも知れません。早く安全なところへ行きましょう」
僕の提案に2人は、一も二もなく頷いた。じいやは普通に歩けるくらい回復しているが、お嬢様は靴をなくしていたので、僕が背負って歩くことになった。とりあえず、ゴブリンと最初に遭遇した地点に戻り、それから北を目指すことにした。お嬢様が軽いのか、それともステータス300のおかげか、背中の重みを感じることなく歩ける。ただ、お嬢様が小刻みに震えているのが伝わってくるので、助かった今でもショックが続いているのが分かるし、じいやも無口で歩いている。
10分程で、ゴブリンと遭遇した元の場所へ戻った。普通は初めて来た森で、元の場所とか迷うはずだが、意識せず戻って来られた。これもステータス300?
2人を近くの切り株に座らせて、僕だけ森の中へ入ろうとした。
「少し、失礼します」
「どこに行かれるのですか」 お嬢様が縋るような目で僕を見た。
「隠した荷物を取りに行くだけです。直ぐに戻ります」
2人の前で、マイミー鞄を取り出すと、僕が[収納]スキル持ちであることがバレてしまうので、隠していたという体で、少し離れた木の裏に回り、[収納]から鞄を取り出した。
2人のところへ戻ると、お嬢様がほっとした顔で僕を見ている。僕は[収納1]内で、鉄の木水筒を2つ作り、清水で満たした。水筒はイメージするだけで作れるのだが、1回作ったこともあり、完成まで1秒と掛からなかった。水筒をマイミー鞄から取り出したように見せかけて、2人に渡した。
「まず、水でも飲んで落ち着いてください」
2人は水筒を受け取ったが、じっと見つめて飲もうとしない。
「どうしたんですか? 変な物は入っていませんから、安心して飲んでください」
「これは、どのようにして、飲めばいいのですか?」
そういえば、江戸時代の水筒と言えば、瓢箪か竹製で、栓で蓋をしていたような気がする。ネジ式の蓋は、近世に入ってからか? 僕は、自分の水筒を取り出して、蓋をひねって開けて見せた。
「ほら、こうやって右に回せば蓋が取れて飲めますよ」
2人は、言われたとおり蓋をはずし、ゴクゴクと水を飲んだ。
「おいしい」、「うまい、これほどうまい水は、久しぶりだ」
「よほど、喉が渇いておられたから、うまく感じるんですよ。森の奥の湧き水から汲んだ、普通の水ですよ」
「ひょっとして、ポーションを作る時に使う水ではないのですか。そんな貴重な水をありがとうございます」 そう言ったあと、じいやはスクッと立ち上がった。
「気が動転していて、申し遅れました。私は、ゲッター男爵の執事を務めます、アルトと申します。ご存じかも知れませんが、ゲッター男爵はビギンの街の代官をされております。そちらは、ゲッター男爵のご令嬢のスカーレット様です。この度は、危ないところを助けて頂き、有り難うございました」
「お嬢様」と聞いたときからイヤな予感がしていた。代官と見知りおきになった方が良いのか、厄介毎の種が増えるのか、とりあえず、なるようになるしかない。時計を見ると、午前11時を過ぎたばかり。朝が早いと、昼までが長い。
【15話要約】
ゴブリンと1人で戦うことを覚悟したヒカル。ゴブリンアーチャー(射手)の狙撃にあうも難なく倒し、50人からなるゴブリン軍団も、苦無とマキビシの忍具、忍者スキルの活用で撃退した。続く30人のゴブリン正規軍、ゴブリンメイジ(魔術師)、そして3頭のオークも苦無、忍刀、薙刀の活用で、あっさり撃退。ステータスオール300の実力が発揮されたようだ。
実力を知られたくないヒカルは、ゴブリン15匹の死体を残し、残りは逃げたことにして、[収納1]へ。お嬢様達の元にもどり、現場から離れることになった。
しばらく歩いた場所で、一休みしている時、じいやから自己紹介。2人はなんと、ビギンの街の代官であるゲッター男爵の令嬢と執事であることが判明した。




