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風と雷

影達が一斉に地面を蹴った。


 黒い群れが村の広場へ雪崩れ込む。数は二十を超えていた。


「散開しろ!」


 斬寺の一喝が響く。


 同時に本人も前へ飛び出していた。


 速い。


 いや、速いというより無駄がない。


 抜き放たれた長刀が一直線に振り抜かれる。


 次の瞬間、先頭の影が真っ二つになった。


 だが斬寺は立ち止まらない。


 一歩。


 また一歩。


 前進する度に影が斬り伏せられていく。


 まるで戦場を進む軍勢のようだった。


「すげぇ……」


 思わず呟く。


 剣硝とは違う。


 剣硝が静かな殺意なら、斬寺は圧倒的な武威だった。


 だが影達も止まらない。


 左右から一気に襲い掛かる。


 その時だった。


 風が吹く。


 いや。


 吹いたように見えた。


 次の瞬間、影の首が三つ同時に飛んでいた。


「なっ――」


 俺は思わず目を見開く。


 少し離れた屋根の上。


 ミストが立っていた。


 いつ移動したのか分からない。


 いや、さっきまでそこにいたのかすら分からない。


 ただ気付けばそこにいる。


 気付けば影が倒れている。


 不気味なほど静かだった。


「見失うなよ」


 ギンが苦笑する。


「俺でもたまに見失います」


 お前でもかよ。


 その時だった。


 影の一体が俺へ向かって飛び込んでくる。


 反射的に雷を纏う。


「――雷走」


 身体が前へ弾けた。


 一瞬で間合いを潰す。


「――雷牙!」


 轟音。


 拳が影の胴を撃ち抜く。


 だが。


 影は崩れながらも雷を放った。


「っ!」


 横へ飛ぶ。


 地面が爆ぜる。


 やはり模倣している。


 戦うほど厄介になる。


「鷲津様!」


 凜が前へ出た。


 長刀が鋭く閃く。


 一閃。


 影の腕が宙を舞う。


 さらに踏み込み、そのまま流れるように二体目を斬り伏せる。


 無駄のない太刀筋だった。


「お下がりください」


 凜は影から視線を外さない。


 その間にギンの鎖が飛び、影を絡め取る。


「隙ありです!」


 鎖が締め上げられ、黒い身体が引き裂かれた。


「こいつら、本当に面倒ですねぇ!」


「同感だ!」


 答えながら次の影へ向かう。


 その時だった。


 ゴロォォォォォン!!


 空が鳴った。


 全員の動きが一瞬止まる。


 雷柱が変化していた。


 天へ伸びていた光が渦を巻き始めている。


 まるで巨大な門のように。


「まずいな」


 剣硝が空を見る。


「何がだ?」


「集まっている」


 短い言葉だった。


 だが斬寺は理解したらしい。


 表情が険しくなる。


「霊脈か」


 剣硝が頷く。


「影だけじゃない」


 その時だった。


 村の外れで地面が割れた。


 轟音と共に土煙が舞い上がる。


 影達が一斉に後退する。


 まるで何かを恐れるように。


 全員の視線がそこへ向く。


 土煙の中。


 巨大な影がゆっくり立ち上がった。


 今までの影とは明らかに違う。


 三メートルを超える巨体。


 全身を走る雷。


 そして胸の中央には、人間の心臓のように脈打つ黄色い光。


 ギンの顔から笑みが消える。


「……冗談でしょ」


 シエルも眉をひそめた。


「大きいわね」


 だが斬寺は長刀を構える。


 ミストも屋根の上から静かにその巨体を見つめていた。


 そして俺は気付く。


 あの化け物。


 俺達を見ている。


 いや。


 正確には――


 俺を見ていた。

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