↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

4 - 初心者への手ほどき -

 巨大な襖をくぐった途端、冷たい空気に鳥肌が立った。

 頭上には怪しく光る満月。道の両側には古びた木造家屋。俺を含めた九人全員が通り終えるのを待っていたように、背後の襖が音もなく閉じた。


「いやはや、雰囲気ありまくりですぞ」

「お前、こういう和風ホラー好きじゃなかった?」

「ゲームなら大好物ですぞ。現実になると別ですが」

「だな。言えてるぜ」


 先頭を歩くベテランが振り返り、口元に指を立てる。


「静かに。初心者は真ん中を歩いて。左右にも気を配るように」


 メンバーの何人かが息を呑んだ。

 俺も刀に手を添えて警戒する。


 低級『裏世界(ダンジョン)』なら出てくる怪異も大半が雑魚だ。とはいえ、ここで死んでもゲームみたいにリスポーンするわけじゃない。一瞬の油断が命取りになる。

 そんなことを考えていると、右手の民家からガタリと音がした。

 続いて左からも。さらに屋根の上でも瓦が鳴る。


「来るぞ!」


 ベテランが斧を構えた瞬間、家屋の窓が内側から砕けた。


「ギィィィッ!」


 飛び出してきたのは、子供ほどの背丈をした餓鬼だった。

 骨と皮だけの細い手足に、不釣り合いなほど膨れた腹。黄色い歯を剥き出しにしたそいつに続き、屋根や路地から同じ餓鬼どもが現れる。


「十一、いや十二ですかな?」

「数えてる暇あったら構えろ」

「ご安心なされぃ!」


 九人に対して十二体。数だけなら向こうが上だが、低級怪異ばかりなら問題ない。

 俺は視界の隅に意識を向け《ステータス》を開いた。そこから項目を一段下へ送り、《戦技(スキル)》――《瞬歩》を選ぶ。


「ふッ!」


 選択した途端、脚に力が集中し、身体が自分の意識より早く前に出た。迫りくる餓鬼の爪をかわし、腰を落としたまま刀を振りかぶる。


 続けて《戦技(スキル)》――《一文字切り》。

 システムの補助に引かれて刃が横一線、鬼の首が石畳を転がった。


《低位怪異を討伐しました》

《経験値を獲得》


 表示を眺めている暇はない。すぐに二体目が襲ってきた。俺は迎え撃つべく構えたが、視界の端から十文字槍が突き出される。


「《穿突》!」


 餓鬼の胸を貫いた八雲が、そのまま得意げに眼鏡を光らせた。


「いかがですかな、某の華麗なる槍捌き!」

「よくやったけど、前見ろ」

「ぬおっ!?」


 八雲は慌てて槍を横に振り、背後から来た餓鬼を薙ぎ払った。


「ふぅ、危ない危ない。油断大敵ですな」

「でもまっ、雑魚で助かったよ」


 見れば、パーティメンバーも善戦していた。斧持ちが一匹を頭から両断し、別の護法使いは槍で二体まとめて貫く。九人それぞれが相手取ったことで、さっきまで徒党を組んでいた餓鬼どもは見る間に減っていった。


「う、うわっ!」


 中央から悲鳴。例の初心者だ。目の前の餓鬼に腰が引けている。


「《戦技(スキル)》使え!」


 俺が叫ぶと、少年は泣きそうな顔で叫んだ。


「ど、どれ!?」

「ステータス開いて《戦技(スキル)》! 一つくらいあるだろ!」

「あるけど、どうやって――」

「選べばいいんですぞ!」


 八雲まで口を挟む。


「あとは身体が勝手に動きます!」


 少年は慌てて視線を動かした。泳いだ視線が、しかと見開かれる。

 次の瞬間、それまでとは明らかに違う勇ましい挙動で応戦した。


「うわっ!」


 振り下ろした刀が餓鬼の肩口に食い込み、そのまま胴を切り裂く。

 自分がした行いなのに、少年は驚いた顔でつぶやいた。


「い、今のが《戦技(スキル)》?」

「そんなもんだよ」


 俺は足元に噛みつこうとした一匹を蹴り飛ばし、刀で止めを刺した。


「《戦技(スキル)》は覚えた技をシステムが自動で出してくれる。最初は任せりゃいいけど、それだけに頼りすぎると相手に隙を見せるから注意な」

「は、はい!」

「おお、不来方氏が先輩らしいことを」

「おお、じゃねぇよ。また来るぞ」


 八雲の頭上から餓鬼が降ってきた。


「うひぃ!?」


 槍を振り回して追い払う。少年の顔から少しだけ緊張が抜けた。

 これくらいでいい。低級『裏世界(ダンジョン)』は、初心者が実戦を覚える場所だ。


「でも……」


 少年は自分の刀をしげしげと眺めた。


「《戦技(スキル)》って、一つしか使えないんですか?」

「レベルを上げれば増えますぞ。もしくは、アイテムから覚える手段もありますな」


 八雲はそう答えてから、急に声を潜める。


「ですが世の中には――《戦術画》という特別枠がありましてな」

「せんじゅつかく?」

「選ばれたヤツだけに発現する固有能力(ユニークスキル)だよ」


 俺が続きを引き取った。


「《戦技(スキル)》と違って覚えるものじゃない。神々から贈られたり、『裏世界(ダンジョン)』ボスを攻略したり、とにかく特定の条件下でしか手に入らない代物だ」

「へぇ……っ!」


 少年の目が少しだけ輝く。

 なぜか八雲が胸を張った。


「能力の内容も千差万別! まさしく主人公の証ですぞ!」

「偉そうに言ってるが、コイツは持ってない」

「余計な一言ですな!」

「じゃあ、お兄さんは?」


 少年が俺を見る。


「……一応、あるよ」

「え、どんな能力ですか!?」


 期待に満ちた目を向けられても困る。

 俺はステータスの一番下にある項目を開いた。



【戦術画】――【親魔】。



「怪異に警戒されにくくなる。あと、仲良くなりやすい」

「…………」


 え、それだけ? っていう少年の顔。


「なんだよ」

「いや、別に」

「弱そうって思ったろ」

「思ってません!」

「ケッ、嘘つけよ」

「術画持ちというだけで贅沢ですぞ!」

「戦闘中、一回も役に立ったことないけどな」

「んん~っ! 某も欲しいですぞ~っ!」


 くだらない話をしている間に、最後の餓鬼がベテランに斬り伏せられた。

 急に静かになる。さっきまで耳障りな叫びに満ちていた石畳には死骸が転がり、その身体が黒い塵となって消えつつあった。


《戦闘終了》

《経験値を獲得しました》


『同時視聴神数:三』

「お、増えた」


 メダマの声に思わず顔が緩む。


「今の戦いで?」

『新規視聴、一柱ヲ確認』

「地味だったのにな」

「神々にも初心者の成長を見守る趣味があるのでしょう」

「それなら俺じゃなく、こいつの配信見ろよ」


 そう言って少年を指さした直後――


 ちりん。


 集落の奥から、鈴の音が鳴り響いた。

 場の空気が変わる。誰もが閉口して声の方向を見た。

 提灯が並ぶ道の先。そこに赤い光が、禍々しく渦巻いていた。


「……八雲」

「ええ。ダンジョンボスですぞ」

「だが、この圧力は……」


 低級『裏世界(ダンジョン)』。出現するのは、餓鬼のような雑魚怪異。そう聞いていた。

 だが、光の渦から放たれる圧倒的な殺意を前にすると、さっきまで気にならなかった線香の匂いが、妙に濃くなった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。