氷の覇王と歌姫の始まり
歌姫と覇王の結婚は国内だけでなく、国外にも知れ渡り隣国の王達も訪れる盛大な式が挙げられることとなった。
「大丈夫ですか?ラディウス」
「あぁ。平気だ」
ディーナが心配する王の頬は赤く腫れていた。そこまで目立つものではなくなったが、これはディーナの父が王につけたものだ。政務に追われ、挨拶が式の数日前になってしまったのだ。殴られるのは覚悟の上だったが、たった一発殴られただけだった。
【泣かせるなとは言わん。不安にさせるなとは言わん。だがそれ以上にディーナを愛せ。いいな?】
目に涙を貯めながら言われ、王ははいと確かにうなずいた。ディーナの母はただ一言、「よろしくお願いします」と言って微笑んだだけだった。ただ、その笑みが妙に意味深に思えた。
ディーナはパールの散りばめられ、白ゆりがモチーフの白いドレスを身にまとい、王はその姿に慣れるのに随分と時間がかかった。今ようやく目をそらさず見れるようになったところだ。
一方の王はウルアークの正装である襟の高い白のトップスに、白のパンツ、そして黒のマントといういつもとは反対の格好でディーナが目を奪われたのは言うまでもない。
「失礼します」
マルドアとイルリカが頭を下げ、部屋へと入ってきた。
「マルドア」
「イル姉」
二人は王とディーナの前まで来ると膝をつき、拝礼する。
「この度我が親愛なる陛下と」
「我が親愛なる妹との御結婚」
『心よりお喜び申し上げます』
揃った言葉に王とディーナは関心する。
顔を上げたマルドアの瞳には涙が滲んでいた。
「貴方のお幸せを何より思ってきました。この日ほど私が心震える日はないでしょう。どうか・・・お幸せに」
「・・・まるで、今生の別れのような台詞だな。マルドア」
王はマルドアの前に膝をつき、視線を合わせた。
「お前にはこれからも俺の片腕として政務に携わってもらう。俺の幸せも苦しみもお前と分かつことになるだろう。これからもよろしく頼むぞ。マルドア」
「御意・・・っ」
ついにこぼれ落ちた涙にディーナが小さく微笑む。
「まるでマルドア様と御結婚なされるかのような物言いですね。陛下」
イルリカの刺々しい物言いにディーナが姉さん!とたしなめる。
「お前もマルドアと共に俺を支えてくれ。イルリカ」
真っ直ぐな瞳で見つめ返されイルリカは一つ息を吐き、口を開く。
「貴方には勝てる気がしませんから、私は二番に甘んじますよ」
「イルリカ!?陛下とお前に対する情は違ってだな・・・っ」
慌てるマルドアの様子に笑いが溢れた。イルリカは冗談ですよと笑う。
「それではこの幸せを皆にも分けましょう」
「あぁ」
「うん」
ディーナの右隣にイルリカ、王の左隣にマルドアが立つ。
そして、バルコニーへと続く扉を開き、前に出れば大きな歓声が沸いた。
式は城で行うことになり、庭には大勢の国民が押し寄せていた。
「「ディーナぁぁぁあ!!!」」
大きく手を降りながら叫んでいるのはレオナとシンだった。
「幸せにねぇぇえ!!!」
「幸せにしろよ!!」
レオナはディーナに、シンは王に向けて言葉を贈った。泣きながら叫んでいるものだから隣のメルフィが苦笑しながらハンカチを差し出している。
ディーナはとても優しい子で優しいからこそ心配だった。だから自分が守らなければとレオナは気を張っていたこともあった。しかし、守らなければいけないと思っていた妹は覇王の隣とで凛と立てるほど立派になっていた。
「もう・・・守ってあげなくていいね・・・」
「何をですか?」
顔を覗きこんでくる伴侶をレオナは笑って抱き締めた。
シンにとっては長年片思いを続けていた憧れの相手の結婚。正直複雑ではあった。それでも、今なら心から言える。
「おめでとう!!」
心から、嬉しく思う。
「うぅ・・・っ」
「可愛い娘の晴れ姿涙に濡れて見えなかったなんて損よ?あなた」
可愛い娘が離れていく寂しさと、可愛い娘の晴れ姿に泣く夫に妻は声をかける。人を愛することなんて出来ないと思っていた自分が夫と出会い、可愛い娘が三人も生まれ、自分と同じように愛する人を見つけ、添い遂げようとしている。その姿は酷く美しいものだった。これは親だからこそ味わえる感動、喜びだ。
「ありがとう・・・」
私の子として生まれてきてくれてーー。
子の幸せが親の幸せでもある。
「あれ・・・お兄ちゃんとお姉ちゃんだ!!」
「あのお二人は・・・」
届け屋の少年とその母は二人を見上げて驚く。以前足を痛め、寝たきりになっていた母子の元を訪れた二人の若者。自分達を助けてくれたかと思えば颯爽と去り、そのあと国の制度が改善され、まともに生活ができるようになった。偶然だと思っていたが、あの二人が今国の王と后として祝いの席に立っている。
「母さん・・・どんなことがあってもあの王様に着いていくわ」
「母さんがそうするなら僕も!お兄ちゃんもお姉ちゃんも好きだもん!」
自分のせいで盗みまで働いていた少年の屈託ない笑顔はあの二人が守ってくれたものだ。母はそっと子を抱き締めた。
「あーぁ、ついに結婚されちゃったかぁ・・・」
美しきものを愛する王子は眉を下げ、呟いた。何でも手に入る人生だった。美しいものを愛でる日々は充実していた。しかし、あんなにも美しい歌声を持つ少女に出会ってしまったら全てが空虚に思えて、自分の生活を見直した。そうしたら・・・もしかしたら彼女が自分に目を向けてくれるんじゃないか。そんな淡い期待もあった。期待は予想していた通り、淡く消え去る。
「幸せにね。僕のmi amor(愛しい人)」
せめて君のために祈ろう。
「もう!突然なんだよ!もう少し余裕もって決行できなかったのかな!」
年も性別も不詳な容姿で頬を膨らませる相手を眼鏡の青年がなだめる。
「まぁええやん。仕事は何とかなるよう根回ししてくれとったんやし」
「それに、我が王のめでたいことだ」
三長官は幸せそうな王の姿を見上げ言葉を続ける。
「何も求めなかった王が唯一求めて手に入れた者。別にそれに関してとやかく言う気はないよ」
「嫁も貰って箔がつくってもんやろ」
「それにあの少女も聡明だ。王の良き伴侶になってくれることだろう」
自分が愛する者達のためにと頼んだ鎮魂歌を思い出す。清浄で美しく、思いの込められた歌だった。
「我が王とその伴侶の少女に敬意を」
三人は同時に王に向けて拝礼した。
屈強な男は王とその隣に立つ少女を見上げ、微笑んだ。
「やっぱ、大事な奴等の幸せな姿見んのって嬉しいなー。・・・絶対幸せになれよ。ラディ、嬢ちゃん」
それは自分が成せなかったからこその男の願いだった。きっと、自分が想像していた幸せな未来をあの二人なら作れることだろう。男はそっと目を閉じた。
「結構早かったな」
仮面の帝王はそう言って苦笑する。
「ええ。ですから陛下もいいお相手を早く見つけましょう」
隣の側近はまだ諦めないことを知りつつそう言った。
「あぁ。頼むぞ」
そう言いつつ思う少女を見上げる瞳は逸らされない。その事実に側近はため息をついた。
王は隣の美しい少女を見下ろし、口を開く。
「新たな始まりだ。共に生きていこう。愛している。ディーナ」
「はい。私も愛してます。ラディウス」
二人が口づけを交わせばまた歓声が巻き起こった。
氷の覇王と言われた男と村娘だった歌姫に永劫の幸あれ。
ーendー
完結致しました!!!
正直詰めはあまあまで勢いで完結させてしまいましたが、皆が幸せならそれで満足なハピエン某です!!
幸せになれてない人たちもいるけどね!!
皆様ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます!!自分の趣味にこんなに沢山の方に付き合っていただくことになるとは思っていませんでした!バリバリ趣味全開の展開でしたが、楽しんでいただけたでしょうか?一言感想いただけるとうれしいです!勿論強制ではありません!飢えてるだけです!
冷酷な覇王が特徴のない村娘に惚れる話とか自分好みな展開だったんですが・・・駄目です。自分じゃ冷酷な覇王が書けません!!どうしても伴侶大好きなデレデレマンになってしまうのです!!あまあまは好きだけど、好きだけど違うんだ!自給自足はできない・・・っと悟りました。
正直ギドさんの話とか、ディーナのお母さんの話とか、マリアさんの話とか、ライドさんの話とかちょこちょこ書きたいのは残ってるんですよねぇ・・・。ギドさんの小説の方に短編として書こうかなとは考え中。
よかったらギドさんメインの短編「優しき修羅の行く道は」もご覧ください
あとは結婚した皆の子供とかね!書きたいけどね!多分恐らく絶対にまとまらないんだろうね!!まとまったら書きたいですねぇ・・・
さて、最後になりますが、もしかしたら新しい作品を書くかも知れませんがひとまず覇王ラディウスと歌姫ディーナのお話はこれにて閉幕いたします。ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました!
またお会いしましょう!そのときはまたよろしくお願いします!!
日明
2016 4月22日 完結




