氷の覇王と歌姫
幸せなまどろみの中で美しい歌声が聞こえた。覚えがある。この歌声は最も愛した人のものだ。
「ディーナ・・・」
「はい。なんでしょう陛下」
歌が止むのと引き換えに名を呼ばれ、王は目を覚ます。見下ろしてくるディーナを見て膝枕をされていたことを悟る。
体を起こし、これまでの経緯を振り返れば、カルマが去った後男達は糸が切れたように三人同時に倒れこんだことを思い出した。それを思い出すのと同時に全身の痛みも思いだし、呻く。
「大丈夫ですか!?陛下」
「あ、あぁ・・・」
傷を擦りながらふと思う。あの男ーーカルマは勝つ気などなかったのではないかと。まるで確かめるような戦い方だった。
ただ、命懸けの戦いで王達を試すほどにディーナ達を愛していたのだろうことも悟れた。奴の愛は勘違いなどではなく本物だ。そんな奴に託されたのだ。
【己の全てをかけて、俺の妹達を幸せにしろ】
自分がもし反対の立場だったときこの台詞をどんな気持ちで吐いただろうか。それを思うと奴の覚悟のほどが知れる。
惚れた女を他の男に託すと決めたその覚悟に応えなければならない。
「ディーナ」
「はい」
まっすぐ向き合えば、ディーナは微笑んで王を見返した。
「俺は・・・お前の幸せを第一に考えたかった。お前の幸せのためならお前を手放すことだって考えた。お前が・・・他の男を想うことがあったなら後腐れなく後押しするつもりでさえいた」
ディーナは言いたいことが山ほどあったが、今はただ王の言葉を待つ。
「だが・・・っもう無理だ」
王はディーナの手に自分の手を重ね強く握りしめる。
「お前がいなければ俺は生きていけない。お前のいなかった時間などもう思い出せない。他の男を愛してしまったのだとしても手放せない。俺は・・・どうしようもなくお前に惚れている」
これまで感じたことのない溢れるような思い。それは言葉となって口から滑り出す。
「一生俺の隣にいて欲しい。ディーナ
結婚してくれ 」
真っ直ぐ、真っ直ぐ見つめてくる王の瞳が不安で僅かに揺れているのがディーナには分かった。
王はいつだって自分を大切に思ってくれていた。いつだって優先してくれた。
そんな王を同じくらい愛してるのに、王はいつも不安そうにディーナをうかがう。
それはきっと自分に自信がないから。だから不安になる。
そして、伝わっていないのは言葉にしていないから。
言葉にしたって100も伝わらないのに、言葉にせず100が伝わる訳がない。
ディーナは王の瞳を見つめて笑う。
「私も貴方をどうしようもなく愛してます。誰より、何より、この世界よりも貴方を愛してます。だから、私は貴方の傍に居られるだけで幸せなんです。どうか・・・私をずっと貴方の傍に置いてください。
私と、結婚してください」
そう言った瞬間、強く強く抱き締められた。
「愛している・・・ディーナ」
「私もです。陛下」
その大きな背に手を回せば、王はディーナの耳元でささやいた。
「お前は・・・ラディウスと呼んでくれ。俺の名を」
ディーナは同じように耳元でささやいた。
「はい。ラディウス」
「っ!!」
不意にディーナはベットに押し倒される。少し驚いたが、余裕のない表情を浮かべる王を見て優しく笑う。
「貴方になら何をされても構いません。大好きですよ。ラディウス」
王はそっと頬に添えられた手に口づけを落とす。
「愛してる。ディーナ」
その言葉と共に吸い込まれるように口付けを交わし、二人は愛し合った。




