王の剣を思う
「ん・・・」
ゆっくりと目を開けたメルフィの視界に映ったのはレオナの顔だった。夢か。夢ならば好きにしてもいいかと口付ける。柔らかい唇の感触が心地いい。するとゆっくりレオナの目が開かれた。寝起きの少しトロンとした目がまた可愛らしく、もう一度キスをした。すると、寝ぼけ眼だった瞳は大きく見開かれ、真っ赤になる。
「え・・・」
反応も感触もあまりにリアルでメルフィはサーッと青くなった直後、レオナの平手が思いきりメルフィの頬に決まった。大きくできた紅葉が夢でなかったことを知らせる。
「ばかばかばかばかばかー!!!」
真っ赤な顔で怒鳴るレオナにメルフィは平謝りするしかなかった。レオナは枕を抱き締め、メルフィはベットの上で正座している。
「すみません・・・。夢かと思ってて・・・」
レオナはメルフィと同じベットで横になって眠っていたのだ。正直同じベットで寝ていたレオナも悪いと思うのだが、言える立場ではない。寝込みを襲ったようなものなのだから。
「夢でも許可とって!!」
正直半泣き、真っ赤な顔で怒鳴る様子も素直に可愛いなと思えるため、もう色々吹っ切れているようだ。
「本当にすみませんでした。順序も無茶苦茶で」
メルフィはまっすぐレオナを見つめる。
「僕は、貴女が好きです」
メルフィはレオナの返事を聞く前にただ、と続ける。
「僕の過去を聞いてください」
「過去?」
「はい。僕は・・・両親をこの手で殺しています」
目を見開くレオナにメルフィは言葉を重ねる。
「僕はスラムの生まれで、両親も同じくそうでした。前王の政治はスラムの人間が生きることすら難しくするもので、毎日喰うもののために誰かを殺すような日々を皆が繰り返していました。そんなある日、もう耐えきれないと思った両親は、ゴミのように動けなくなって死ぬ前に心中しようと計ったのです。泣きながら謝り、僕の首に手をかける母を僕は殺しました。隠し持っていたナイフで。父も僕を殺す気なのだと殺される前に殺しました。僕は・・・生きたかった。あんな汚泥にまみれた世界でも、生きたかったんです。両親を殺してでも」
メルフィは自分の手を見つめる。
「この手は何人もの罪なき人間を殺してきました。自分が生きるためだけに」
爪が食い込むほど握り締めればその手が暖かく包まれた。
「ごめんね・・・メルフィ・・・ 」
「何故・・・貴女が謝るんですか?」
レオナはメルフィの手を包み込んだままその手を額に当てる。
「貴方はご両親を手にかけたことをとても気に病んでる。それでも、それでもアタシは・・・貴方が生きてて良かったと思ってるからっ」
レオナは目を伏せたまま言葉を紡ぐ。
「それに前、知らなかったけどご両親のこと何も考えず聞いてごめん。それから・・・」
続くはずだった言葉は衝撃により飲み込まれた。勢いよくメルフィに抱き締められ、レオナは驚く。
「ありがとう・・・ございます」
「め、メルフィ?」
「十分です・・・」
掻き抱くように抱き締められ、レオナは少し考えて口を開く。
「あ、アタシもメルフィのこと、好きだか・・・ら・・・」
小さくなる語尾と共に赤くなる顔も自覚していた。静かに離れていったかと思えばメルフィは真っ直ぐレオナを見つめる。
「キスしても、いいですか?」
レオナはその問いに僅かに頷いて答えた。重なりあう唇は一度で終わりはなかった。




