王の側近の暗礁
長い廊下をひたすら走り、息も乱れ始めたところで、イルリカが叫ぶ。
「何処まで行かれるのですか!?」
ハッとしたようにマルドアは振り返り立ち止まる。
「す、すまない」
素早く手を離しながら謝るマルドアにイルリカはいえと返す。
「お仕事の内容の方は?」
「え?あ、そうだな。えっと・・・」
いつもの彼らしくない挙動不審な様子にイルリカは察する。
「私のことを助けてくださったのですね」
「いや・・・そのだな・・・」
「自惚れなら申し訳ありません「違う!」
強い否定にイルリカは少し驚く。当人のマルドアも驚いた様子で視線をさ迷わせた後、クシャリと前髪をかきあげた。
「すまない・・・。俺も混乱している・・・」
「混乱?」
「貴女にとって一国の王と婚約するのはこの上ない幸福だろう。身分の差で最初は問題もあるだろうが、貴女ならすぐに切り抜けられる。それだと言うのに俺は邪魔を・・・「つまりマルドア様は私がカルマ陛下と結婚すればよいとお思いなのですね?」
え?と顔を上げればイルリカが鋭く睨んできていたため、思わず動揺する。
「そ、その・・・王の妻になればなに不自なく暮らせて君の幸せになるかと「もういいです!」
イルリカはそう叫び走り去った。
「イルリカ!?」
追いかけようとしたが、不意に現れたギドに阻まれる。
「どっから現れた!邪魔だ!!」
ギドの横をすり抜けようとしたマルドアだったが、一瞬視界が真っ暗になった。二度ほど衝撃を受け、ゆっくり目を開けた時映るのは天井だった。頬の痛みと、血の味にようやく殴られたことを悟る。その直後ギドに胸ぐらを掴まれた。
「俺が一番嫌いなのは女に手をあげる奴だ。二番目に嫌いなのは・・・女を泣かせる奴だ。お前、本当にイルリカちゃんはカルマ帝王とくっついて幸せになるって思ってんのか?」
「・・・単純に考えればそうだろう「ならお前は二度とイルリカちゃんに近付くんじゃねぇ」
「何でお前にそんなことをっ」
言われなければならないんだ!と続くはずだった言葉は胸ぐらを掴みあげられたことで止まる。
「今のお前は間違いなくあの子をまた傷つける」
ギドの鋭い瞳には確かな怒りが込められていた。
「また・・・?」
「傍にいたら恋愛ごとまで似て来ちまうのか?本当にあの子があの王とくっついて幸せになると思うならもうあの子に近付くな。それがあの子の幸せの近道になる」
ギドは言いたいことを言いたいだけ言い、マルドアを放って去って行った。マルドアはギドの言葉を頭の中で反芻しながら俯く。
「だって・・・そうだろ?」
この国の女幹部として働くより、一国の王の后として生きれる方が幸せに決まってる。
決まっているのに定まらない心があり、マルドアは壁に拳を打ち付けた。




