歌姫の本気
「これで半分の用事は終わった訳。忘れてるだろうけど、オレ達、陛下の婚約者にも不満あるからね?」
王は反射的という調子でアルルを睨みつける。
「そんな睨まないでよー。正直さ、彼女はただの村娘。貴族でも何でもないってことは教養もない。彼女の評価が王の評価に、王の評価が国の評価に繋がりかねない。だから普通の王達は教養の行き届いてる姫と結婚して、ついで友好も結ぶ。これが流れなの分かるかなー?婚約者さん」
「はい」
思ったより怯えないディーナにアルルはつまんないのーと内心ぼやく。
「何度も言うけど見た目も平凡。取り柄って噂の歌だけでしょ?ってな訳だから歌ってみせてよ。ちょっとやそっとの歌声ならオレは婚約の件も反対する。陛下、あんたは国のために尽くしてきたのは認めるよ。けど、王とはそうあるべきだし、ここまで来たなら国のためにすべて捧げるべきだ」
ディーナはその言葉を聞き、一番ふざけているようなアルルも国のために動いているんだと理解する。やはり、王の周りに集まるのは素敵な人ばかりだ。
――自分もその一人だと胸を張りたい。
「勿論です。私の取り得は歌声だけ。この歌声に価値がないと思われたなら婚約の破棄を受け入れます」
「ディーナ!!」
王ではなくマルドアが叱る。王のブチギレに遭遇したことのあるマルドアはその怖さを知っている。
だが、ディーナの表情に不安はなく、寧ろ晴れやかだった。
「大丈夫です。破棄になんて絶対にさせませんから」
いつもビクビクおどおどと自信なさげな少女の自信に溢れた表情にマルドアは驚いた。
ディーナは静かに立ち上がり、息を吸った。
その歌声はいつも以上に美しく、王は満足そうに目を閉じた。
透き通るように美しいのに、強く伸びていき、この世界に広がっていく。その世界に包まれると安心感に包まれ眠気を誘う。耳を揺さぶるその声が心地よく、ただただ感嘆の息しか漏らせなかった。
歌い終わるとディーナは静かに頭を下げた。顔を上げると三人は素直に賞賛の拍手をした。
「王が欲しがるんも納得の歌声やったわ」
「うむ。美しい歌声だった」
ラシオンの言葉にベネは頷いた。
「さすがあの覇王様が認めただけのことはあるかな?」
アルルは王に視線を向け驚きに目を丸くする。
なんとあの覇王が寝息をたてて眠っているのだ。しかも人前で。
「驚いたわぁ・・・。あの王が居眠りなんてなぁ」
「それだけ骨抜きにされてるってことでしょ?なんか惚気られた気分」
アルルはハアとため息をついた後ディーナに問いかける。
「あのさ。あんた国のために死ねって言われたら死ねる?例えばあんたの命と引き換えに戦争を回避できるとしたら、あんたはどうする?」
ディーナは迷うことなく答える。
「死ねます」
揺らがない瞳にアルルはふーんと呟いた。ディーナは更に続ける。
「ただそれは本当に最後の手段です。私も死にたくないですし、何より陛下のお傍にいたい。戦争が起こるというなら戦争を回避できる最善を探し、全ての手を尽くし、それでも駄目ならこの身を差し出します。私は・・・この国を愛する陛下の婚約者ですから」
ふわりと微笑むディーナの言葉が口だけではないことを三人は悟った。
「あーあ。無駄足になったねー。折角玉座から覇王を引きずり降ろせるチャンスかと思ったのに」
「アルル!!」
マルドアが噛み付くがアルルは軽くマルドアを睨みつける。
「ベネも言ったけど、オレらは王に完璧な忠誠を誓った訳じゃない。オレは詐欺の罪をなくす代わりに財務省の長官の仕事してる。逃げ出しもせずに従ってるのはまだ王が従うべき相手だって認めてるからだ。従う価値がなくなったらオレは容赦なく逃げ出すつもりでいる。財務省の長官なんて大変なだけだし。誰も好き好んでやらないよ。自分の価値観を他人に押し付けんの悪い癖だよ」
アルルに指摘されマルドアはうぐっと唸る。
「王のことになると冷静さを欠くんもあんたの悪い癖やなぁ。いつもは完璧な大した男やと思うてんのに」
「感情に流されてはいつか大変なことになるぞ」
三長官に指摘されマルドアは改善する・・・とだけ答えたのだった。




