火傷の少年の別れ
「えー!!お兄ちゃん出て行っちゃうのー!?」
グリードが村を出る話をすれば、レオナが明らかに不満の声をあげる。
「ああ。世話になったな」
「何で!?」
「・・・やることがある」
「終わったら帰ってくる!?」
「・・・いや。それが出来たらまた次がある。もう・・・ここには戻って来れないだろう」
そう告げるとレオナの目が潤み声をあげて泣き始めた。
「いやだぁぁああ!お兄ちゃんいなくなるのやだぁああ!!」
まさかの展開にグリードは激しく動揺したが、レオナの頭をイルリカがぺシッと叩く。
「わがままで引き止めちゃ駄目。人は皆使命を持って生まれてるんだから」
本当にこの子はしっかりしているとグリードは改めて思う。そんなイルリカの頭をグリードはそっと撫でる。
「お前には何度も助けられたな。イルリカ。お前に教わったことも沢山ある」
「・・・どういたしまして」
「レオナ。寂しがってくれてありがとうな。でも、今生の別れじゃない。必ず俺はお前達に会いに来るよ。礼も兼ねてな」
「本当・・・?」
「ああ。誓う」
小さく微笑めば、レオナはぐしぐしと目を擦りコクリと頷く。
「待ってる・・・」
「ありがとう」
最後にディーナに視線を合わせる。
「次に会った時はまた、お前の綺麗な歌声を聞かせてくれるか?」
「・・・うん。練習する」
「更に上手くなるのか。益々楽しみだ」
グリードはディーナの頭を撫でて、立ち上がるとアルドとクレアに視線を向けた。
「今まで本当にお世話になりました。この礼は必ず何倍にもしてお返しします」
頭を下げるグリードにアルドはグリードの顔を上げさせて言う。
「困った時はお互い様だ。お礼を求めてお前を助けた訳じゃない。でも・・・俺たちが困った時は助けてくれると嬉しい」
「勿論」
アルドはニッと笑ってグリードの頭を撫でた。
「娘も可愛いが、息子も欲しかったんだよなぁ。お前のお陰でいい体験が出来た。ありがとう」
あの母と、この父の間に生まれた子があの三人というのが至極納得できた。
「本当に・・・ありがとうございました」
グリードは再び頭を下げ、村人達に礼を言った後、背を向けて歩き出そうとしたが、クレアに声をかけられる。
「気をつけて!」
「ああ!」
村人達も手を振ってくれ、子供達は特に千切れんばかりに手を振ってくれた。この暖かい、優しい村を壊させてなるものか。1度は失いかけ、救われた命。救ってくれた者達のために懸けるのは自然なことのように思えた。
誓った。
また会うと。
あの子達に再会するためにも・・・死ねない。
覚悟を決め、一歩一歩を確実に進んだ。
「私達がグリードと呼んだあの人がバランギアスに関わりのある人物だと気づいたのは1年後の王位争いの終結の時です。あまりにもタイミングが良すぎたので王位継承者について調べた時、知った顔があったんです」
イルリカは母から聞いた話も交えながら事実を全てマルドアに語った。
「それが・・・カルマ帝王か」
マルドアの言葉に頷いて答える。
「驚いた・・・。まさか君達がカルマ帝王の命の恩人とは・・・」
「でも、私達に会うだけなら村に来れば済む話で、わざわざ尾行などさせる意味が分かりません。ですから、尾行していた者はバランギアスとは別の者という可能性の方が・・・」
マルドアは少し考え込んだ後いや・・・と口を開く。
「恐らく狙いはディーナだ」
「何故断言されるのです?」
「狙いというか・・・多分様子を観にきただけだな。どんな様子か」
「どんな・・・?」
「ディーナが陛下の婚約者になったことはどこぞの馬鹿王子に言いふらされている。つまりディーナは『氷の覇王』の婚約者になったことを他国は知った」
マルドアの言葉を理解しイルリカはハッとした。
「まさか・・・」
「カルマ陛下はディーナを心配して様子を見に来させていたんだろう。『氷の覇王』に酷い仕打ちをされていないかどうか」
君達と同じでなと付け足す。
「今回の様子を見てディーナが虐げられていない様子は理解してもらえただろう。カルマ帝王がそれでも 君達に会いにくるかどうかは分からんがな。勿論バランギアスでない可能性もある。君とレオナに関しては暫く滞在してもらう。君達の安全のためだ。なるべく不自由にはならないように配慮する」
「いえ。そんなに気を遣われないでください。私もレオナも理解しています」
イルリカの言葉にマルドアは小さく笑う。
「ありがたい。それから・・・陛下が言われていた側近の件も、考えておいてくれ」
「・・・はい」
マルドアはイルリカにもらった最後の一切れのケーキを頬張った。




